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超毒舌グルメVTuberは俺の飯だけ星一千万〜隣の無口美少女を料亭仕込みの家庭料理で餌付けしていたら、毎晩ごはんをねだられるようになった〜  作者: ハイさん
第5章 特定騒動と秘密のキッチン、そして終わらない食卓

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第72話 完全同棲

翌朝。


 目が覚めると——鈴音がベッドの上で毛布にくるまったまま、こちらを見ていた。


「……おはようございます」


「おはよう。寝れたか」


「……少しだけ」


 目の下に薄い隈がある。あまり眠れなかったようだ。


 ちゃぶ台で突っ伏していた俺の首は——完全に死んでいた。


 ◇


 朝食を作った。俺の台所で。鈴音の味噌汁は——隣の部屋に鍋を取りに行けないので、今日は俺が作った。


「……みなとさんの味噌汁は」


「ん」


「……味噌が少し多いです」


「はいはい」


 鑑定機能は正常だった。一安心だ。


 食べ終わった後、鈴音がぽつりと言った。


「……しばらく、ここにいてもいいですか」


「いいよ」


「……自分の部屋に帰ると。……壁の向こうが怖い。……誰かがドアの前に立っているんじゃないかって」


 恐怖は——論理ではなく感情だ。「駅周辺のアパートなんていくらでもある」という理屈では消えない。


「お前の荷物、必要なものだけ取りに行こう。着替えと、配信機材と」


「……配信は——」


「やめるな。逃げたら負けだ。お前が配信をやめたら、あいつらの思う壺だ」


 鈴音の目が——ほんの一瞬、強くなった。


「……わかりました」


 ◇


 実質的な「完全同棲」が始まった。


 鈴音の荷物がリビングの隅に積まれた。着替えはクローゼットの空いた部分に。配信用のノートパソコンとマイクとウェブカメラは、ちゃぶ台の上に。鈴音の包丁は台所に——俺の包丁と並んで。


 六畳一間に、二人分の生活が詰まった。


 狭い。確実に狭い。だが——不思議と窮屈ではなかった。


 鈴音は場所を取らない人間だった。存在感が空気のように薄い。座る時は最小限のスペースに収まり、立つ時は壁際に寄る。


 問題は——寝る場所だった。


「鈴音はベッドで寝ろ。俺はちゃぶ台——」


「……それは、困ります。みなとさんの首が壊れます」


「大丈夫だ」


「……大丈夫ではないです。今朝、首を回せていませんでした」


 鋭い。


「……私が床で寝ます。布団があれば——」


「却下。客を床に寝かせるわけにいかない」


「……客ではありません。同居人です」


 同居人。その言葉に——ドキッとした。今更。


 結局、ベッドの横に布団を敷いて、鈴音がベッド、俺が布団で寝ることにした。頭のすぐ横に鈴音のベッドがある。寝返りを打てば手が届く距離。


 ——眠れるわけがなかった。


 ◇


 初日の夜。二十三時。


 電気を消した。暗闇の中で、互いの呼吸だけが聞こえる。


「……みなとさん」


「ん」


「……起きていますか」


「起きてる」


「……私も」


 沈黙。


「……この距離だと。……壁越しじゃなくても——出汁の話ができますね」


「できるけど、寝ろ」


「……はい」


 五分後。


「……みなとさん」


「……何だ」


「……おやすみなさい」


「おやすみ」


 鈴音の寝息が——しばらくして、規則的になった。


 眠れなかった。天井を見ている。暗い天井。


 五十センチ上に——鈴音がいる。


 この距離が——今の関係の全てだった。


 名前はまだない。でも——同じ部屋で眠っている。


 目を閉じた。首は痛くなかった。布団は快適だった。


 ただ——心臓だけが、うるさかった。

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