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超毒舌グルメVTuberは俺の飯だけ星一千万〜隣の無口美少女を料亭仕込みの家庭料理で餌付けしていたら、毎晩ごはんをねだられるようになった〜  作者: ハイさん
第4章 陽キャ同級生VTuberと、重圧のトラウマ

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第69話 鋭い夜風

十月の終わり。夜が長くなってきた。


 夕食を終えて、ベランダに出た。二人で。いつの間にか、ベランダに二脚のパイプ椅子が置いてある。百均のやつ。いつ買ったのか覚えていないが——二脚あるということは、二人で座ることが前提になっているということだ。


 秋の夜風が冷たかった。鈴音がパーカーのフードを被っている。


「……みなとさん」


「ん」


「……私、昨日——アリアさんから、オフで会わないかって、もう一度お誘いがありました」


「……」


「……会おうと思います」


 心臓が跳ねた。キララと鈴音が——オフで会う。互いの正体を知ることになる。


「いいのか」


「……はい。……アリアさんは——つまり星野さんですよね」


 ——知っていたのか。


「……声で、わかりました。あのアリアさん独特のテンションや、話し方のリズムが星野さんと全く同じです。……みなとさんも気づいていたでしょう」


「……ああ」


「……ずるいです。全部知っていたのに、何も言わないで」


「お前から言うまで——」


「……待ってくれていたんですね。……分かっています」


 風が吹いた。鈴音のフードの下から、黒い髪がはみ出ている。


「……私も——みなとさんに言っていないことがあります」


「何だ」


「……私が、リリだということ」


 空気が——止まった。


「……知っていましたか」


「……ああ。出会って間もない頃、ハンバーグを食べさせたのを覚えているか。その数日後——リリの動画に、俺が渡した百均のタッパーが映り込んでいたんだ」


「……あの、ハンバーグの時の……」


「ああ。いつもの冷徹な分析はどこへやら、『かみです。世界を食べています』なんて、語彙力が壊滅したレビューを投稿していただろう。あのタッパーの傷と、ブロッコリーの切り方を見て……確信した」


 鈴音が——フードの下で、耳を赤くしていた。


「……あの時のレビュー、見ていたんですか」


「健太に勧められた」


「……全部、知っていたのに。……ずっと——隣人のふりをしていたんですか」


「隣人のふりじゃない。俺は鈴音の隣人で、飯係で——それ以上の名前がつけられなかっただけだ」


 鈴音が俺を見た。フードの影から覗く瞳に、星が映っていた。都会の空なのに——今夜は少しだけ、星が見えていた。


「……みなとさん」


「ん」


「……私の秘密は、もう全部——みなとさんに知られていますね」


「ああ。令嬢なことも、リリなことも、味覚喪失のことも」


「……みなとさんの秘密も。料亭の跡取りなことも、逃げてきたことも、知っています」


「ああ」


「……もう——隠すものがありませんね」


「ないな」


 風が、冷たかった。だが——隣に座っている鈴音の肩の温度が、わずかに感じられた。


「……みなとさん。……次は——私から。みなとさんに、何か作りたいです」


「何を」


「……考えます。……今度は味噌汁じゃなく。……もう一歩進んだものを」


「楽しみにしてる」


 月が、ビルの向こうに沈みかけていた。

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