第68話 秋の新メニュー
十月中旬。スーパーに秋の食材が並び始めた。
さつまいも、栗、秋刀魚、新米。鈴音の目が——輝いていた。完全復活した鑑定モード。いや——それ以上。
「……みなとさん。この栗。……丹波栗です。粒が大きくて、皮の色艶がいい。……甘みが強いタイプだと思います」
「わかるのか、品種まで」
「……ずっと食べてきましたから。……でも今は——食べるだけじゃなく、どう調理すればいいかも、少し考えられます」
成長している。「食べる側の天才」が、「作る側」の知識を得て、食材の選び方に奥行きが出ている。
「……この栗なら。……栗ご飯がいいと思います」
「秋だな」
「……はい。秋です」
栗を買った。新米も買った。秋刀魚も。
◇
二人で台所に立った。
俺が秋刀魚を焼く。鈴音が栗の皮を剥く。
栗の鬼皮を剥くのは——力がいる。鈴音の手は小さいが、もう絆創膏は一枚しか残っていなかった。包丁の扱いに慣れてきている。
「……渋皮は残しますか」
「渋皮煮にするなら残すけど、栗ご飯なら剥く」
「……どのくらい剥けばいいですか」
「白い部分が見えるまで。薄く剥きすぎると身が減るから、渋皮ギリギリで止める」
「……ギリギリ」
鈴音が栗を剥いている横で、俺は秋刀魚に塩を振った。グリルの火をつける。
並んで立っている。肩が触れる距離。もう——気にならなくなっていた。
栗ご飯が炊き上がった。新米の香りと栗の甘い蒸気が、六畳間に広がった。
蓋を開ける。俺ではなく——鈴音が開けた。
蒸気が鈴音の顔にかかった。目を細める。髪が湯気に揺れる。
「……美味しそう」
——「美味しそう」。まだ食べていないのに。見た目と匂いだけで。
以前の鈴音は「美味しそう」とは言わなかった。食べてから分析するのが彼女の流儀だったから。だが今は——食べる前に、心が動いている。
茶碗によそった。秋刀魚を焼き魚皿に並べた。味噌汁は鈴音の九十一点。大根と油揚げ。
秋の食卓が完成した。
「いただきます」
「……いただきます」
栗ご飯を一口。
鈴音の目が——三秒閉じた。
開いた時——瞳孔が全開だった。
「……新米の粘りが——栗の甘みと。……塩は——少なめにしていますね。栗自体の糖度を引き立てるために」
「正解」
「……秋刀魚の塩加減も。……脂の乗り方に合わせて、少し控えめにしています。……脂と塩のバランスが完璧です」
分析と「美味しい」が——共存していた。以前は分析だけだった。スランプ中は何も言えなくなった。今は——分析して、その上で。
「……美味しい、です」
小指が跳ねた。体の末端が全部反応している。
完全に——戻った。
いや——以前より上だ。分析と感覚の両輪が回っている。鑑定士の舌と、人間の心が。
「……みなとさん」
「ん」
「……秋って。……美味しい季節ですね」
「ああ。美味い季節だ」
窓の外で、金木犀が匂っていた。




