第67話 アリアからのDM
十月。金木犀の匂いが漂う季節。
壁の向こうから、リリの配信の声が聞こえる夜。俺は自室でスマホをいじっていた。
LINEに通知が入った。キララから。
『湊くーん! 元気ー? ちょっと相談があるんだけど!
ネットのことなんだけどね。アリアとして、リリさんにDMを送ったの。実は私、リリさんのことがすごく心配で。最近のレビュー、すごくよくなったけど、それでもまだどこか無理してるみたいなところがあって。
で——リリさんに、こう送ったの。
「リリさん。わたしは配信者としてだけじゃなく、一人の人間としてリリさんのことが好きです。もしよかったら、今度オフで会いませんか? 配信の相手としてじゃなく、友達として」
そしたらリリさんから返事が来たの。
「……考えさせてください。わたしは人と会うのが苦手なので。でも——アリアさんのことは、嫌いではありません」
「嫌いではありません」だよ!? リリ語で「嫌いではない」は「好き」って意味だよね!? やったーーーー!!! って思ったんだけど、どう思う!?』
——リリ語で「嫌いではない」は「好き」。正解だ。キララの読解力、侮れない。
返信を打った。
『いいんじゃないか。でもリリは人見知りだから、無理に会おうとするな。向こうのペースに合わせてやれ』
『わかった! ありがとう湊くん! ……ねぇ、湊くんってリリさんのこと詳しいよね。ファンなの?』
『……まあ』
『ふーん。あ、それとね。氷室さんに伝えてほしいの』
『何を』
『「学食の件はごめんね。でも、あなたの気持ちはすごくかっこよかったよ」って』
『……伝えとく』
『ありがとー! じゃあねー!!』
スマホを閉じた。
キララは——アリアは、リリに友達として会いたいと思っている。
もしそれが実現したら——キララと鈴音が、互いの正体を知ることになる。
それは——面白いことになりそうだった。
◇
翌朝、鈴音にキララの伝言を伝えた。
「星野さんが、学食の件はごめんって。それと——お前の気持ちはかっこよかったって」
鈴音の箸が止まった。
「……かっこよかった」
「そう言ってた」
「……私は、かっこいいことを言ったつもりは——」
「かっこよかったよ」
鈴音の耳が赤くなった。
「……みなとさんにも言われると。……困ります」
「困れ」
朝食を再開した。味噌汁は九十一点。安定の高得点。
金木犀の匂いが、開けた窓から入ってきた。




