表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超毒舌グルメVTuberは俺の飯だけ星一千万〜隣の無口美少女を料亭仕込みの家庭料理で餌付けしていたら、毎晩ごはんをねだられるようになった〜  作者: ハイさん
第4章 陽キャ同級生VTuberと、重圧のトラウマ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
58/75

第58話 完璧でなければ

鈴音が——味噌汁を持ってこなくなった。


 翌朝。いつもの時間に鍵が回った。鈴音が入ってきた。手ぶらで。


「……おはようございます」


「おはよう。味噌汁は?」


「……今日は、ありません」


「作らなかったのか?」


「……作りました。でも——捨てました」


 捨てた。


「何で」


「……美味しくなかったからです。……味見をしても、よくわからなくなって。……みなとさんに出せるものではないと判断しました」


 声には感情がなかった。事実報告のように、淡々と。


 だが——その「淡々」こそが、異常だった。以前の鈴音なら、出来が悪くても持ってきた。六十五点の味噌汁を、震える手で差し出した。今は——自分で捨てている。


「鈴音。六十五点でも七十点でも、俺が飲む。何点だろうが持って来い」


「……でも——」


「でもじゃない。味噌汁の点数なんてどうでもいい」


 鈴音が俺を見た。ガラス球の瞳。光が——曇っていた。


「……どうでもよくないです。……みなとさんの舌に出すものは、完璧でなければ——」


「完璧なんて俺は求めてない」


「……でも、みなとさんは料亭の——」


「俺は料亭を辞めた人間だ。完璧を追求する意味はない」


 鈴音が——口を閉じた。


 その目が、微かに揺れていた。何かを言いたそうに。けれど言葉が出てこない。


 沈黙のまま、朝食の準備を始めた。味噌汁は俺が作った。鈴音は食器を並べた。


 いつもの分担。だが——味噌汁の担当が、元に戻ってしまった。


 ◇


 大学で、キララに会った。


「湊くーん! お昼一緒に食べよー!」


 いつものテンション。いつもの笑顔。


 だが——今日はキララの目が少し違った。輝きの奥に、何かを探るような色がある。


「ねー湊くん」


「ん」


「氷室さん、最近元気ないよね」


 気づいていたのか。


「私ね、サークルの先輩に言われたことあるんだ。『キララはいつも元気だから、元気じゃない人の気持ちがわからない』って。……多分そうなんだと思う。でもさ——元気じゃない顔くらいは、わかるよ」


「……」


「氷室さん、何か悩んでるでしょ。私にできることある?」


 善意だ。純粋な。キララには悪意がない。天真爛漫で、誰かが辛そうなら助けたい。ただ——その善意の矛先が、鈴音にとっては更なるプレッシャーになり得ることに、キララは気づいていない。


「ありがとう。でも——俺がなんとかする」


「湊くんがなんとかするんだ。……ふーん」


 キララがにっと笑った。意味ありげに。


「湊くんってさ、氷室さんのことになると顔変わるよね」


「変わらない」


「変わってるよー。いつもポーカーフェイスなのに、氷室さんの話になると眉がちょっと下がるの。心配してる顔」


 鋭い。陽キャは——こういうところが怖い。人の表情を読むのが上手い。


「……邪魔しないようにするね。でも、困ったら言って。私、役に立てないかもしれないけど、聞くことくらいはできるから」


 キララが去っていった。パスタのトレイを持って、別のテーブルで友人の輪に合流していく。


 あの輪の中心にいるキララ。誰とでも笑い合えるキララ。


 鈴音には——ああいう輝きがない。言葉は少ないし、人見知りだし、笑うことすらほとんどない。


 でも——俺は。


 俺が見ていたいのは、キララの輝きではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
■作者からのお知らせ
この作品をキャラクターの声で楽しめる「ボイスドラマ版」をYouTubeで公開しました!
ぜひ耳でも作品を楽しんでみてください↓

ハイさんの創作チャンネル
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ