第54話 コラボ配信——アリアとリリ
八月十五日。夜十時。
リリとアリアの初コラボ配信が行われた。
俺は自室のベッドでスマホを構えていた。壁の向こうで、鈴音がパソコンに向かっている気配がする。
配信が始まった。
画面に二人のアバターが並んでいる。ピンク髪のアリアと銀髪のリリ。華やかな舞台と暗い書斎。対照的な二人だった。
『皆さまこんばんは! アリア・スターライトでーす! 今日はずーっと夢だったリリさんとのコラボでーす! 嬉しすぎて昨日寝れなかった!』
『……こんばんは。リリでございます。……よろしくお願いします』
声がいつもより硬い。鈴音が緊張している。ボイチェン越しでも伝わってくる。
『リリさん緊張してる!? かわいい! 大丈夫! 私がリードするから! 今日のテーマは「最近一番、心に残っている料理」です!』
コメント欄が沸いた。
『リリちゃんの「心に残ってる料理」=妖精のご飯に決まってるだろ!!!』
『アリア側のテーマ選びが天才すぎる。これはリリの語彙力が壊れる回だ』
『じゃあ私からいくねー! 最近ね、駅前のパンケーキ屋さんに行ったの! ふわっふわで、メープルシロップがたっぷりかかってて——もう幸せ!って感じ!』
『……パンケーキ。……焼き具合はどうでしたか』
『え? 焼き具合? えーと……きつね色?』
『……それは色であって焼き具合ではありません。生地の膨張率と、表面のカリッとした食感と中心のしっとり感の比率によって——』
『リリさん、すごい! そういうの全然わかんない! 教えて!』
テンポが——噛み合い始めた。
アリアの天真爛漫さがリリの毒舌を引き出し、リリの分析がアリアのリアクションを加速させる。
視聴者数が上がっていく。
『このコンビやばい。正反対なのに化学反応すごい』
『アリアがリリの毒を中和してて草。解毒剤やん』
『リリが楽しそうに見えるの初めてなんだが??????』
配信の中盤。
『じゃあリリさんの番! 最近一番、心に残っている料理は?』
沈黙。三秒。
『……おにぎり、です』
『おにぎり? え、高級おにぎりとか?』
『……いいえ。……梅干しの。……普通の。……私が初めて握って、形がいびつで、塩が多くて、海苔の大きさが左右で違って。……六十五点だって言われた不格好な味噌汁と、一緒に並べたものです』
『六十五点って……もしかして、この前の復帰配信で言ってたやつ!?』
『……はい。大切な人に、初めてごちそうしたごはんです。たったの六十五点でした。でも——彼が「うまい」と全部食べてくれたあの時間は、今までレビューしてきたどんな高級料理よりも——心から、嬉しかった』
コメント欄が——爆発した。
『は?????? リリが語彙力壊れた!!!!!!!!!』
『泣いた。俺が泣いた。何回目だこの展開』
『「大切な人に初めてごちそうした」って妖精のことだよな??? は??? あの毒舌のリリが、妖精にご飯作って食べてもらって泣きそうになってるの??? ちょっと待ってくれ尊すぎて意味がわからない。前回は作ってもらって語彙力壊れて、今回は作ってあげて感情壊れるとか最高かよ』
『あ——リリさん。もしかしてそれ、大切な人って——彼氏?』
『……いいえ』
『えー! どういう関係なの?!』
『……名前をつけると、壊れてしまいそうなので。……まだ、名前はつけていません』
配信が終わった。
壁の向こうで——パソコンを閉じる音。椅子を引く音。ベッドに座る音。
俺はスマホを握ったまま——天井を見ていた。
「名前をつけると、壊れてしまいそう」。
——同じことを、俺も思っていた。




