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超毒舌グルメVTuberは俺の飯だけ星一千万〜隣の無口美少女を料亭仕込みの家庭料理で餌付けしていたら、毎晩ごはんをねだられるようになった〜  作者: ハイさん
第4章 陽キャ同級生VTuberと、重圧のトラウマ

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第53話 アリアとリリ

キララには——もう一つの顔がある。


 俺がそれに気づいたのは、健太のせいだった。


「湊、『アリア・スターライト』って知ってる?」


「知らない」


「VTuberだよ。登録者百万超え。今、鬼舌のリリとめっちゃ絡んでて話題なんだよ」


 八月中旬の昼休み。図書館のソファで、健太がスマホを見せてきた。


 画面には、華やかなピンク髪のアバターが映っていた。背景はキラキラしたステージ。「アリア・スターライト」。ポップで明るくて、画面越しにでもエネルギーが伝わってくる。


 声が——聞き覚えがあった。


 ボイチェンすら通していない。あのテンション、話すリズム、笑い方。まごうことなき「生声」だ。さらに——


『先日ねー、大学の友達が可愛い女の子と駅前で包丁買ってたの! なんか同棲カップルみたいで超羨ましかったー!』


 そんなエピソードまで飛び出してきた。これには確信を持たざるを得ない。


「この声」


「ん?」


「いや……なんでもない」


 星野キララだ。間違いない。あの生声と、数日前の出来事が完全に一致する。


 ——キララがVTuberだったのか。


 アリアのチャンネルを見た。ゲーム実況、雑談配信、コラボ配信。登録者数百二十万人。企業グループ所属。トップクラスだ。


 そして——「鬼舌のリリ」との絡み。


 アリアがリリの毒舌レビューを切り抜いてリアクション動画を出している。コメント欄が盛り上がっている。


『アリアがリリにちょっかい出してるのほんと好きwww』

『大型犬と黒猫の構図で草』

『リリのリアクション見たい 無視してそう』


 リリ側のコミュニティも確認した。


【おしらせ】

あるVTuberさんから、コラボのお誘いをいただきました。

わたしは人見知りなので、お断りしようかと思いましたが。

わたしは人見知りなので、お断りしようかと思いましてが。

……少し、考えています。


 コメント欄。


『リリがコラボを「考えている」だと!? 大事件!!』

『アリアでしょ絶対 あの子ずっとリリ推しだから』

『リリのコラボ配信……見たすぎる……でもリリが他人としゃべれるのか!?』


 鈴音がコラボを検討している。


 相手は——キララ。


 リアルでは俺にベタベタ絡んでくる女。ネットでは鈴音リリにコラボを申し込んでくる大型犬VTuber。


 ——これは、三角関係の二層構造だ。


 リアル:キララ → 湊 ← 鈴音

 ネット:アリア → リリ(=鈴音)← 妖精(=湊)


 ——キララは、リリの正体が鈴音であることも、妖精の正体が俺であることも全く知らない。


 鈴音は、アリア=キララであることを——知っているのか?


 ◇


 夕食の時間。鈴音が合鍵で入ってきた。


「……おかえりなさい」


「……いや、俺はずっといた。お前が来たんだろ」


「……おかえりなさい、と言いたかっただけです」


 ——かわいい。いやそうじゃない。


「鈴音」


「……はい」


「アリア・スターライトって知ってるか」


 鈴音の箸が——止まった。


 一秒。二秒。


「……知っています」


「コラボの話、来てるのか——」


 言いかけて止めた。配信のこと自体はお互い暗黙の了解になっているが、現実の食卓で、俺から彼女の『裏の顔』の事情にずかずか踏み込むのは——少し遠慮があった。


「……友達が教えてくれた。アリアってVTuberがリリと絡んでるって」


「……はい。……有名な方です」


「……」


「……みなとさんは。……アリアさんの配信、見たことありますか」


「ない」


「……そうですか」


 嘘だ。さっき見た。だが「キララ=アリア」だと気づいたことは言えない。


 鈴音は箸を動かし始めた。今日のメニューは豚キムチ丼。いつもの速度で食べている。


 だが——小指が跳ねていなかった。味に集中できていない。何かが引っかかっている顔だった。


 食後の洗い物を済ませて、鈴音が帰った後——壁の向こうからパソコンが起動する音がした。


 配信の準備だろうか。それとも——アリアのコラボについて考えているのだろうか。


 壁に背を預けた。


 リアルで。ネットで。キララという存在が、鈴音の日常に食い込み始めている。


 太陽は——暖かいが、近すぎると目が焼ける。


 鈴音の目が焼ける前に、何かをするべきなのかもしれない。


 だが——何を。


 答えは出ないまま、壁の向こうのタイピング音を聞いていた。

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ハイさんの創作チャンネル
― 新着の感想 ―
面白いです、良い物語をありがとうございます。
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