第46話 テスト打ち上げの約束
テスト最終日。
最後の科目が終わった瞬間、教室にため息の大合唱が響いた。俺もその一人だ。IS-LM分析は——鈴音のおかげでなんとかなった。たぶん。
校門を出ると、健太が走ってきた。
「湊ーーーー! 打ち上げだ打ち上げ! カラオケ行こうぜ!」
「パス」
「即答すんな! たまには遊べよ!」
「飯の仕込みがある」
「氷室さんの飯係かよ……。あ、じゃあ氷室さんも誘おう。四人くらいで焼肉とか——」
「無理だろ。鈴音が知らない人間と焼肉行けると思うか」
「確かに」
健太は諦めが早い。
「じゃあさ、二人でどっか外食行ったら? テストの打ち上げ的な。いつも家で食ってんだろ。たまには外で。彼女——じゃないんだっけ? 隣人? まあどっちでもいいけど、外出くらいしろよ」
外食。鈴音と。
考えたことがなかった。いつも俺の部屋で食べている。たまにスーパーやコインランドリーで会うが、外食という選択肢は——なかった。
「……検討する」
「検討するんだ。へえ」
にやにやしている。殴りたい。
◇
帰宅。ドアを開ける。
「……おかえりなさい」
「ただいま」
いつもの挨拶。いつもの温度。
夕食の準備をしながら、切り出した。
「鈴音」
「……はい」
「テスト終わったし。……打ち上げっていうか。どっか外で食わないか」
鈴音の手が——にんじんを洗っている手が、止まった。
「……外で」
「うん。外食。レストランでも、ファミレスでも。食べたいもの、あるか」
長い沈黙。
鈴音は蛇口の水を止めた。にんじんを持ったまま、俺のほうを見た。
「……二人で、ですか」
「他に誰がいるんだ」
「……」
耳。赤い。
「……行きたいです」
「どこがいい?」
「……みなとさんが決めてください」
「いや、お前の舌に合う店を——」
「……みなとさんが選んだ場所なら、どこでもいいです」
それは——責任が重い。鈴音の舌を満足させられる外食。ハードルが高い。
だが同時に——信頼されている、のだろう。俺が選ぶ店なら、大丈夫だと。
「……わかった。探しておく」
「……はい」
にんじんの皮を剥く鈴音の手が——少しだけ、いつもより丁寧だった。




