第43話 リリ、復活配信
鈴音の味噌汁が六十五点だった翌日、リリが二週間ぶりに配信を行った。
夜十時。いつもの時間。スマホでチャンネルを開く。
銀髪のアバター。ボイチェン越しの冷たい声。だが今日は——いつもの毒舌ではなく、雑談枠だった。
『——皆さま、お久しぶりでございます。リリでございます。本日より、配信を再開いたします』
コメントが爆発した。
『リリ復活!!!!!!!!!』
『おかえり!!!!心配してたんだぞ!!!!!!』
『リリが元気そうで安心した(号泣)』
『長かった……二週間がこんなに長いとは思わなかった……』
リリは——いつもの冷徹なトーンで、しかし少しだけ柔らかい声で語り始めた。
『休止の間、ご心配をおかけしました。少し——その、身辺に変化がございまして。立て直しに時間がかかりました』
『リリに身辺の変化ってことは、妖精関連か???』
『↑お前らすぐ妖精のせいにする 好き』
『いいえ。妖精は——変わらず、妖精です。毎日出汁を引いています。相変わらず壁が薄いので聞こえます』
『安定の妖精で草』
『出汁を引く妖精のいる日常、平和すぎて好き』
『ただ——本日は、一つご報告がございます』
コメント欄が静まった。
『私、料理を始めました』
三秒の沈黙。
コメントが——飛んだ。
『えっ?????』
『グルメレビュアーが料理を始めた!? 何が起きた!?』
『あの鬼舌のリリが自分で作る側に???』
『理由は——その。……大切な人に、食べてもらいたかった、から、です』
ボイチェン越しのはずなのに、声が震えているのが伝わってきた。
『まだ全然上手くないです。味噌汁を作ったら六十五点と言われました。おにぎりは百個握ってやっと形になりました。左手は絆創膏だらけです。でも——やめません。やめたくないです』
コメント欄は——涙の洪水だった。
『泣いてる。俺が泣いてる。リリは泣いてないのに俺が泣いてる』
『「大切な人に食べてもらいたかった」で全員死んだ。会場は二度目の墓地です』
『六十五点って言う妖精も妖精だけど、それを正直に報告するリリも最高で好き』
『リリの料理配信待ってます!!!!!!』
配信が終わった。壁の向こうで——パソコンを閉じる音。
コンコン。ドアがノックされた。
開けると、鈴音がいた。無表情。耳が赤い。
「……配信、聞いてましたか」
「壁が薄いから」
「……そう、ですね」
沈黙。
「……六十五点のこと、言っちゃいました」
「聞こえてた」
「……すみません」
「いいよ。別に」
「……おやすみなさい」
「おやすみ」
ドアが閉まった。
六十五点の味噌汁が、全世界に公開された。
——まあ、事実だから仕方ない。




