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超毒舌グルメVTuberは俺の飯だけ星一千万〜隣の無口美少女を料亭仕込みの家庭料理で餌付けしていたら、毎晩ごはんをねだられるようになった〜  作者: ハイさん
第3章 かつての妹弟子と、初めての嫉妬(やきもち)

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第42話 六十五点の味噌汁

翌朝。


 鍵が回る音。


「……おはようございます」


 鈴音が入ってきた。両手で——鍋を持っていた。


 片手鍋。鈴音の部屋にあった小さな鍋だ。蓋の隙間から湯気が漏れている。


「……味噌汁、です」


 鈴音が——自分で作った味噌汁を、持ってきた。


 テーブルに鍋を置く。蓋を取る。


 味噌汁だった。具は豆腐とわかめ。一番シンプルで、一番ごまかしが効かない組み合わせ。


 見た目は——悪くなかった。味噌の色も、出汁の透明感も、ちゃんとしている。


 お椀をよそった。


 一口飲んだ。


 味噌が——少し多い。出汁の香りが味噌に負けている。昨日の壁越しの出汁は「薄い」と言っていたから、それを味噌で補おうとしたのだろう。結果として、味噌が勝ちすぎている。


 豆腐は少し大きい。火の通りが均一ではない。外側は崩れかけているのに、中心がまだ固い。温度管理が追いついていない。


 わかめは戻しすぎだ。ぬるぬるが出ている。水で戻すのは三分で充分なのに、たぶん十分くらい浸けていた。


 技術的に見れば——六十五点。赤点は免れるが、手放しで褒められる出来ではない。


 二口目。


 三口目。


 四口目で、椀が空になった。


 鈴音は——目を見開いていた。


「……全部、飲んだんですか」


「うん」


「……残してもよかったのに」


「残す理由がない」


「……でも——」


「鈴音。正直にフィードバックしていいか」


「……はい」


「味噌が多い。出汁の風味が消えてる。もう少し出汁を濃くするか、味噌を減らすか。豆腐は崩れてるから、もう少し小さく切って、火を入れすぎるな。わかめは戻しすぎ。三分でいい」


 容赦なく言った。


 鈴音は——メモを取り出した。どこから出した。パーカーのポケットからだ。百均のメモ帳とボールペン。


 俺の言葉を一言一句書き取っている。あの不器用な字で。


「……味噌、減らす。豆腐、小さく。わかめ、三分」


「あと——出汁。昨日の引き方は基本的に合ってる。ただ、昆布の水出しの時間をもう少し長くしてもいい。一晩置けると理想的だ。冷蔵庫に入れとけば劣化しない」


「……一晩」


 書いている。一生懸命。


「次はもっとうまくなる」


「……根拠は、ありますか」


「ある。お前は百個おにぎりを握って上達した。同じことを味噌汁でやれば、たぶん二十杯くらいで七十五点まで行く」


「……七十五点」


「今日は六十五点だ」


「……六十五」


 鈴音の表情が——ぴくり、と動いた。


「……六十五点って、みなとさんの採点基準では」


「料亭基準だと赤点。家庭料理基準だと合格」


「……合格」


「飲めないわけじゃないし、出汁をちゃんと引いてる時点で、そのへんのインスタント味噌汁よりは上だ」


 鈴音はメモ帳を閉じた。パーカーのポケットに戻した。


 それから——鍋のほうをちらりと見た。まだ味噌汁が残っている。


「……みなとさん。おかわりは」


「飲むよ」


 もう一杯よそった。味噌が多くて、豆腐が崩れていて、わかめがぬるっとしている、六十五点の味噌汁を。


 飲み干した。


 六十五点は——百点ではないけれど。


 百個のおにぎりと同じだ。この味噌汁にも、絆創膏と失敗と——鈴音が初めて「作る側」に回った決意が詰まっている。


 点数では測れないものが、ある。


「ごちそうさま」


「……お粗末さまです」


 ——出た。初めて鈴音のほうから「お粗末さまです」が出た。


 俺がいつも言っている台詞を、作った本人が言い返してきた。


「鈴音。それ、俺の台詞だぞ」


「……みなとさんがいつも言っているので。……料理を作った人が言う言葉だと」


「そうだよ。だから——」


 ——だから、お前は今、「作る側」になったんだ。


 言わなかった。言わなくても——鈴音の耳が、一週間ぶりに赤くなっていたから。

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ハイさんの創作チャンネル
― 新着の感想 ―
正直、味噌汁に対してあんなに具体的なアドバイスをできる人間が、出汁が薄かったからといって味噌を足しすぎて味を壊すのかな、と思います。具の切り方は技術が無いので仕方がないと思うのですが、あの舌と知識とセ…
味見をすれば「昆布を引き揚げるタイミングが二十秒遅い」「今日の出汁はえぐみがあるから味噌を小さじ半分入れろ」 ってわかるなら、豆腐の形とかはともかく味見して「(家庭料理としては合格だけど)出汁が薄いの…
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