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愛され美少年で悪役令嬢の弟の僕、前世はヒロインやってました  作者: DAKUNちょめ


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99/99

99話◆殺意と忠義と恋情と。

夜間に開いている店などが無い広大な学園敷地内は深夜ともなると灯りはほとんど消え、暗がりに先のとがった建物が建ち並ぶ輪郭だけが黒い影のように浮かび、さながら魔城の様な姿となる。


線だけで描いた様な細い月の下、月灯りもほぼ無く暗い夜空に溶ける様な黒い翼を羽ばたかせたルイは、眼下を見て呟いた。


「やはり、ここに来ていたのか…ジェノ。」


上級貴族専用の中等部男子寮の一角━━

アフォンデル伯爵家の子息マルセリーニョの部屋の真上となる屋根の上に立つジェノに、ルイは空中から声を掛けた。


「これは陛下、ご機嫌麗しゅうございます。

陛下も主が就寝した後の夜の散歩ですか。

奇遇ですね。」


ジェノは顔を上向かせルイの方を見ると悪びれる様子も取り繕う様子もなく、右腕をスッと胸に当て頭を軽く下げ、にこやかな笑顔でルイに挨拶をした。

ルイは「アヴニールが危惧した通りか…」と呟きつつ翼をしまい、屋根に降り立つとジェノの前に立った。


「散歩…そんな強い殺気を放っておきながら、どの口が言う。

とにかくだ…私が自ら頭を下げた事でデュマスの命を狙うのはやめろ。」


「おや陛下、勘違いなさらないで戴きたいのですが。

デュマス殺害は陛下のためでは御座いません。

私が私自身の心の安寧を保つためにする事です。

私は、陛下に頭を下げさせた人間がこの世に生きている事が許せないのです。

下げられた陛下の(こうべ)を上から見た者がこの世に存在する事が耐えられない。

たとえそれが陛下の自発的な行為であろうと。」


ルイは頭が痛いと言いたげに寄せた眉間に指先を当てた。

ジェノは魔王を崇敬するあまり、魔王に関わった者をジェノの基準で測り「魔王様の世に不用」と位置づけると排除しようとする傾向がある。

その最たるものが実はアヴニールだったりする事もルイはよく知っている。


「あ、ご心配なさらずとも魔族が学園内に居るなんてバレる様なヘマは致しません。

陛下の忠実従順なる配下の私が陛下にご迷惑をお掛けするなど、とんでもない事にございます。

あやつを八つ裂きにしたい衝動はありますが、そこは我慢しまして発作による死亡に見えますよう外傷無く心臓だけを止めますので。」


怒りを表面に出さないようにしている反動なのか、ジェノは貼り付けたような笑顔を絶やさず、早口でべらべらと不穏な話しを続ける。

怒りに身を任せ怒声を上げるより、こうなったジェノの方が憤怒の度合いが強い。


「命令だ、とにかく一度怒りを抑えて私の話を聞け。」


「はい?

私がなぜ、貴方の話を聞かないといけないんですか?」


ジェノはにこやかな表情は変えずにルイに対する不遜な態度を、さも当たり前のように言う。

ルイは首を僅かに傾けた。


「……私は時々、お前という奴が理解出来なくなる。

自らを、私の忠実従順なる配下だと言ったお前が、なぜ私の命令に従わないのか。」


口ではそう言ったが、ジェノがこういう奴だとルイはよく分かっている。

ジェノは魔王ルイの事は崇拝に近い程に敬愛しているのに、従者ルイに対しては同一人物と知った上で、なぜか軽視する態度を崩さないのだ。

だがそれがジェノの持つ個性でもあり、ルイの中に在る古い記憶の中の「魔王側近のジェノ」と肩書きのみで無個性だったジェノには無かったものだ。


「なぜ?それは目の前に居る貴方は私の敬愛すべく魔王陛下ではなく、あのクソガキの「人間の従者」だからですよ。」


「なるほど、人間嫌いなお前には相応の理由だな。

…そのクソガキが、お前がデュマスを殺害するのではないかと心配していた。」


トゲトゲしさを隠すフリも見せずに答えるジェノに対し、ルイは苛立ちよりは呆れを含んだ表情でそう答えた。


「は?デュマス殺害を止めたのは奴の指示ですか?

…ホント、忌々しいクソガキですね…。

自分だって、アイツが気味悪いとか言っていたのだから、そんな人間が死んだって構いやしないでしょうに。」


にこやかに微笑みを浮かべるジェノの顔のパーツひとつひとつが怒りに歪んでゆく。

表情は笑顔であるのに、口角は上がったまま引き攣り、こめかみもヒクヒクと引き攣り気味に動く。


━━あのクソガキが陛下に私の行動を止めさせた。

この様なくだらない雑用を陛下に命じ、偉大なる陛下の御手を煩わせてまで「人間」だからと守るのか。

あんなゴミクズのような人間であっても…

なんと許しがたい事を…

こんな事…陛下の前で口には出せないが…

クソガキめが…死ね……死ね!━━


「死ね、クソガキが。」


「もはや口に出す事も厭わないのだな。」


互いの顔を見たまま━━まぁ口に出さずとも結局読めてしまうからな━━と互いに思う。

だが、この様なやり取りを腹心のジェノとする日が来るなど思いもしなかったルイは、僅かに笑いがこみ上げてきた。


「フッ…勘違いするな。

私はアヴニールの言い付けで動いたのではない。

今、デュマスを殺される訳にはいかんのだ。」


「自らの考えで動いたと陛下はおっしゃりたいのでしょうが、陛下はクソガキの思考が読めるし、なんだかんだ言って結局、クソガキの意思に基づいて行動してるんですよね。

それがまた、陛下が踊らされているみたいで腹が立つって言うんですよ。

ホント、あのクソガキ死んでしまえばいいのに。

…何が可笑しいんです?」


怒りが興奮を高めているせいなのか辛辣な物言いを止める気配が無いジェノの言葉を遮らず、ルイは「気にするな」とだけ言い、しばらく好きに文句を言わせる事にした。

以前ならば腹立たしく感じたアヴニールへの罵詈雑言も、所詮は敵わない相手への愚痴でしか無いと思えば溜飲も下がる気がする。

だから勝手に言わせておこうと。



聞き流しているであろうルイに、散々アヴニールや従者のルイに対する文句をブチブチと垂れ流していたジェノが、やがてピタリと口を閉ざした。

ルイは黙り込んだジェノの方に顔を向け、声を掛ける。


「気が済んだか?」


「……少しは。……気分は晴れませんがね…。

見苦しく取り乱し、申し訳ございません。

とりあえず「人間」を殺すな…ではなく、「今デュマスを殺されるのは困る」その理由をお聞かせ下さい。」


冷静になってみれば、ルイの言い回しは「人間社会に紛れるために人間と問題は起こさない」との約束ごととは全く違うものだった。

激昂していた熱が下がったジェノは、バツが悪そうにルイの前に立ち、小さく頭を下げた。

やっと話を聴く態勢となったジェノにルイはおもむろに話を始めた。


「デュマスとは……成り代わられた人間の名前だ。

あれの中身はデュマス本人ではない。」


「成り代わり?…まさか邪法ですか。」


ジェノは食堂でアヴニールが言っていた「見た事あるのに知らないってルイが言ってる」話を思い出した。

改めて考えれば、それはデュマスの事だったのだと。


ルイはジェノの呟きに頷き話を続ける。


「デュマスの様に、殺害された後に邪法を用いて成り代わられる事件が他にも起きているのだが…それらの裏に邪神を崇める組織が存在するかも知れないのだ。」


ルイの話を聞いたジェノはピクッと耳を動かした。

興奮が増すと生来のユニコーンであった時の馬型としての癖が人化した身で起きる。

耳を動かしルイの話に興味と警戒を示し、人の顔の表情では先ほどのような激昂ではなく、ジワリと滲むような怒りを浮かべた。


「邪神崇拝ですか…魔王たる陛下を差し置いて…」


「お前も、そういう者たちが現れつつあると危惧していたな。

私とアヴニールは今、その邪神を崇拝する組織そのものを調べると共に、邪神が私や女神のように実在する者なのかを探ろうとしている。」


「陛下やクソ女神は実在していますが、不信心な人間どもの中には、神や魔王などはおとぎ話の中だけの創作された登場人物だと思っている者も一定数居ますからね。邪神とやらが実在するのか、人間どもの創作なのか今は分からないと…。」


ルイの考えを僅かばかり共有出来た事で、ジェノは一旦デュマスへの殺意を封じた。

いや…デュマスを殺すべきではない理由は分かったが…ジェノの胸中にさらなる疑問が浮かび上がる。


「デュマスを泳がせ、裏を探るという事ですね、承知致しました。

その組織とやらの全貌が明らかになったら、あのクソガキは陛下と共に、魔王軍を率いて邪神とやらと、それを崇める人間どもの組織を壊滅するつもりなのですか?

それ、私が以前に提案した、アヴニール様が魔族側につき、人間どもの敵となる事と同じなのでは?」


「何を言っている。全く違うだろう。

邪教徒と「人間」をひとくくりにするな。

……アヴニールは、人間の敵には決してならない。」


以前、ジェノが同じような言葉を発した時とはルイの反応が明らかに違った。

だがジェノはそれを気にも留めなかった。


━━また、「アヴニールを人間の敵にする事は許さん」だの何だの言うんでしょう?━━


と説教じみた言葉を告げられる前に、「ハイハイ」とそれ以上を言うのをやめた。


「………私が、そうはさせない………」


この時の、ルイの呟きに隠されたルイの本心を見逃した事をジェノは後に後悔する事となる。





朝になり、寝ぼけまなこなままでベッドから降りた僕の気配をいち早く察知したルイが足速に僕に近付いて来た。

ルイは無言でいきなり僕を掬うように抱き上げ、僕をルイの右腕に収まるように座らせた。


「一瞬で目が覚めた!起きた早々になにするんだよ!」


「どうだ、体調は良くなったか?

もし、まだならば今日は学校を休んで部屋に居るがいい」


いやいや、体調どうのこうの一体何の話?

ルイの過保護モードが朝イチから炸裂してんだけど。

朝っぱらからスキンシップ激しいし。


「は?なんでそんな心配してんの?体調?」


「……まさか…昨夜の事を何も覚えてないのか?」


昨夜…食堂でルイがデュマスにブチ切れかけて…

部屋に戻ってからルイと…キス…した…


ルイに抱き上げられたままボッと火がついた様に赤くなった僕は両手で顔を覆い隠す様にして悶絶した。


「きっきっきっ…きっ……スゥ…した…よね…」


うわァ!と照れ臭さと気恥ずかしさから、うわ言の様な呟きを洩らす僕にルイがボソッと呟いた。


「口付けをした後…お前が嘔吐し…いきなり気を失った。」


えっ


「あまりにも突然の事で…私も…驚き…ちょっと…精神的にアレな状態になり…」


ちょっと精神的にアレ!?

ルイが普段絶対に使わない様な言葉を話す位に、精神的にかなり混乱したって事…?

まさか、まだ少し混乱の余韻ある?


「精神的にアレになって…それから?」


「デュマスを殺そうと思って…殺しに行った。」


「ななな、な、何やってんの!!」


なんつー短絡的思考!ルイが!?

混乱し過ぎて怒りの矛先がデュマスに向いたって事!?

いや、確かに…昨日の食堂で、吐きそうな程に気分悪くなったのはデュマスのせいだけど…!

ルイからすれば好き合ってるはずの相手が、キスしたら吐いて気絶したなんて、そりゃパニクるだろうけど…!

全部お前が悪いって、そんな僕みたいな考え方をルイが!?


「ま、まさかデュマスを殺したり……」


「デュマスの部屋に向かったのだが、同じくデュマスを殺すつもりで居たジェノが屋根の上におり、その姿を見て冷静になった。

ジェノが奴を殺すのも止めておいた。」


マジか…あぶねー…つか魔王と側近、揃ってデュマス殺しに行くなよ。ある意味ツーカーか。

ルイが学園で殺人事件を犯すとか…その原因がキスした僕が吐いて失神したからとか…ありえないって。

理由は不穏だけど、尻コンが居て助かったわ。


「な、何か、ごめん…僕のせいだよね…

でも全く覚えが無いんだ…なんでだろ…」


吐いて気絶した事を覚えてないなんて、そんなの前前世で浴びるように酒を飲んだ時でも無かったよ。


「……私が調子に乗り過ぎたせいかも知れん。

しばらくは、過剰に触れるのはやめておこう。」


結構、落ち込んでるっぽいけど、僕を抱き上げている、この密着行為は過剰なスキンシップには入らないと言うふてぶてしい所は健在と…。

過剰なスキンシップ…イチャイチャはしないって事かな…それはそれで…

なんだか僕の方が不満がつのるんだけど…。


僕は不意をつく様に、暗い表情のルイの口にフワッと軽いキスをした。

ルイは珍しく目を大きく開き、驚きの表情を見せる。


「僕がルイとのキスで気分悪くなったりするワケ無いじゃん。

…は、恥ずかしくてぶっ倒れそうな程目眩がする事もあるけど…」


あまりの恥ずかしさにルイの顔を見ていられなくて、僕はルイの目線から顔を隠す様にルイの首に腕を回し、ルイの髪に顔を埋めるようにして抱き着いた。

うわ、ルイの髪の匂いがすごくイイ…っておい!

恥ずかしいからって、顔を隠す為に自らもっとルイに密着して匂いを嗅ぐとか

絶対なんか間違ってる!!ヤバいぞ僕!変態か!!


「…お前に拒絶されたのかと思ったら生きた心地が、しなかった…」


ルイの消え入りそうにか細い呟きを聞いた瞬間、変な思考に慌てふためいていた僕の気持ちがストンと落ち着いた。

ルイの長い黒髪を撫でながら僕は囁く。


「…ルイを拒絶なんて…そんな事、僕がするワケ無いよ…」


意識するつもりは無く自然と頭に浮かんだ言葉を、僕は噛み締めるように口にした。


「僕たちは……つがい……なんだから。」





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