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愛され美少年で悪役令嬢の弟の僕、前世はヒロインやってました  作者: DAKUNちょめ


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100話◆正体不明の従者とその主

僕は…なんで、こうも自然にルイを『つがい』だと口にしてしまったのだろう。


ルイを伴侶だと認めたような僕の言葉を聞いて感極まったルイの表情を見た僕は、否定なんぞ出来るハズも無く━━

ただそれ以降は何も言えなくなってしまったので……


軽くフルーツだけを口にし小声で「行ってくる」とだけ告げて学舎に向かい部屋を出た。

ルイには今日は休んだ方が良いと何度も言われたけれども、マル君が不安がるだろうし…。

って、それは言い訳だよな。


照れ臭さ過ぎて、ルイと居るのが居たたまれなかったのが本心。

なんだけど、今の僕には口には出せない不安がある。

ルイは僕の思考を読めるから、僕が口に出し辛い不安の内容を知っていて、僕から話を切り出すまであえて何も言っては来ない。


━━僕の中に、僕以外の誰かが居るんじゃないかって不安。

あるいは、僕が別の誰かに変わる?そんな不安もある。


そういう事を、一旦自分一人で考えたいとゆーか…ルイが側に居ると、僕の考えを読まれるから落ち着かないし。


「自分でも信じられないほど、ブチ切れた時も自分が自分で無くなるような気はしたけど…あれはまぁ怒り心頭でって事だし…それより、ルイをつがいとか言っちゃう僕、どーゆーこと?って感じ。」


恋人とかならまだしも、つがいなんて単語は普段の僕じゃ口から出て来ないもんな。

とは言え、僕が誰かに意識を乗っ取られるかもとか、そこまで深刻に考えていない所もあって…

ますます、どーゆーこと?って感じがする。

深刻に考えないように、誰かにコントロールされているとかじゃ無いよね。



寮のエントランスを出てすぐ、馬車乗り場りへと続く道で、背後にデュマスを連れたマル君が僕を待っていた。

その隣には尻コンを従えた金髪のオカッパ亡霊がボンヤリ見える気がするが…━━見なかった事にして無視しよう。


「マル君、おはよう。」


「あ、アヴニール!お、おはよう…!」


マル君は、昨日の食堂での事が原因で僕が友達をやめるのでは無いかと不安だったらしく、僕に挨拶をされた瞬間、泣きそうな顔で安堵の笑みを浮かべながらデュマスから離れて僕に駆け寄って来た。

駆け寄って来たマル君の隣にいたオカッパ亡霊が僕を指差して文句を垂れる。


「アヴニール!

お前、なぜ大親友の僕には挨拶をしない!」


オカッパの大親友になった覚えは無い。

だから、ピヨコが言うアヴニールとは、僕じゃない別人のアヴニールだ。なので無視する。


「返事ぐらいしろ!アヴニール!」


「フフッ相変わらず、アヴニール様はうちの坊っちゃんには辛辣ですよねぇ。」


そう言って主のフォローをする気は無い、ピヨコの従者ジェノは、今にも殺してしまいそうな程の殺気を含んだ眼差しをデュマスに向けながら笑っていた。

勘のいい人間なら殺気に気付くだろうけど、気付いたとしてデュマスからしたら、ジェノが自分に殺気を向ける理由が分からないだろうな。


「とにかく、アヴニールもブタも2人とも僕の馬車に乗れ!

僕が学舎まで乗せてってやるから!」


ピヨコが偉そうに親指でクイと自分が乗り込む馬車を指差してそう言った。

歩くのが苦手そうなマル君はパァと表情を明るくしたが、僕は笑顔で「え、イヤだ。」と答える。 


「2人は馬車で行けばいいよ。

僕は毎朝、歩いて学舎に行くのが日課なんだ。

途中で大親友のウォルフと合流して、2人でおしゃべりしながら学舎に向かうのがね。

なにしろウォルフは僕の大親友だから。」


「僕だって大親友だろう!」

「お、オレ様だって親友だ!」


そう言ったピヨコとマル君も焦ったように馬車から降り、なんかよく分からないけど、先に歩いていた僕を追いかけて来ると、後ろについて歩き出した。


「えー無理してついて来なくてもいいのに。」


そう言いつつ、僕はマル君の全身を観察する。

昨夜は暴力を振るわれた様子は無いようで、僕は少し安心した。

むしろ今、心配なのは…馬車の前に立ち、背後で僕たちを見送るジェノとデュマスだ。

昨夜、ルイがデュマスの部屋の近くでジェノに会った時、ジェノはデュマスを殺しに来ていたと言っていた。

その場は納得させて引かせたらしいが、ジェノの強い殺意はいまだにデュマスに向けられている。

僕が授業を受けてる間にデュマス、殺られちゃったりしないよな…。

魔族から個人的に恨みを買う人間なんて、もう詰んでる気がする…が、邪法を扱うデュマスも普通の人間ではないのかも知れない。


「邪法かぁ…邪神絡み…なんだよな…多分。」


ゲームでは、魔王を倒したらエンディングだったハズ。

僕はクリアしてないから分からないけど、アカネちゃんのルイに対する様子や、僕のステータスに見えてるルイとの親密度や何かから推察するに、エンディングの先にも物語があるのだろう。

そこから邪神が絡む物語へと続くのかも知れないが…

ただ、この邪神絡みの事件ってエグいのが多くて、なんか乙女ゲームの枠を逸脱し過ぎてる感はあるんだけど…。


「シーヤなら…何か知っていたりしないかな…

シーヤの叔父さんを殺して成り代わっていたヤツらと同じだろうし…って、捕らえたはいいけど、結局どこの何者かも分かってないんだよな…。」


解決出来てないからシーヤは国に帰れない。

シーヤは今も、一人寂しく司書に身をやつして、国に帰れる日を待っている。


「なんかシーヤが気の毒になって来た… 

今日もシーヤお兄ちゃんに会いに行こう。」




「…マーダレス侯爵家…の、ジェノさんでしたね。

わたくし、貴方から憎しみを向けられる覚えが無いのですが。」


上位貴族の中等部男子寮前の馬車乗り場にて、主を見送りその場に残ったアフォンデル伯爵家従者のデュマスが、マーダレス侯爵家に仕える従者ジェノに話し掛けた。

2人共に感情の無い薄ら笑いを浮かべ、顔を見合わせる。


「お気になさらず。

なぜか貴方に対して虫が好かないだけで、明確な理由があるわけではないのです。」


「相性が悪い人間と言うのは私にもおりますが…虫が好かないだけで、会話すら交わした事も無い間柄でここまでの殺意を向けられるのは不本意以外の何ものでもありませんよ。」


デュマスは薄ら笑いを浮かべたまま指先をジェノに伸ばし、蔓草がまとわりつくようにスルルとジェノの肩に指先を置いた。


━━もしかしてお前は、私が何かを知っているのか━━


ジェノに対する脅しを含めた牽制を図ってのデュマスの行為だったが、ジェノは微動だにせず。

ただ笑顔のまま、見えない魔力だけで肩に乗ったデュマスの指先をグニュゥと強く握った。


「…ッ…!」


「それは大変な失礼を。

ですが、貴方を隣人の一人として受け入れるのは生理的に無理だと本能が訴えるものですから、それに抗うのは中々に難しい。

何しろ私、人間以上に本能には従順でしてね…

存在が不快なデュマス殿が、我が主の妨げになるような行動を起こすのでしたらこう……っと、つい考えてしまうのですよ。」




ジェノの肩に乗せたデュマスの指先は見えない蜘蛛の糸で絡め取られたように身動きが取れなくなり、ジェノの肩に張り付いた状態となった。

このままジェノが身体の向きを変え身をひねれば、デュマスの指先は簡単に折れてしまう。

そう察したデュマスの額からブワッと冷や汗が吹き出す。


━━人間以上に?人間ではない!?では何者だ!

我が主?マーダレス侯爵家のボンボンの事か!?

妨げになるなら、なんだと…何をする気だ!━━


ジェノの曖昧なヒントは焦るデュマスの思考を掻き乱し、答えを別方向へと導いた。

魔族の存在が一般的には知られて居ない為に、人間の姿をした人間ではない者の存在をデュマスは理解出来ない。


「ああ、人間も『本能が訴える』事があるんですね。

それは、恐怖でしょうか…ほら笑顔が歪んでますよ?

貴方の笑顔はまるで、本当の表情の上に笑顔の仮面を着けているようですね。

私が剥がして差し上げましょうか?ペリペリとね。」


ニィィと微笑むジェノに、他人の顔を着けていると見透かされた様なセリフを吐かれた上、一瞬「死」を垣間見せられたデュマスは、くっついていたのりが剥がれた瞬間のように、ベリッと勢いよく自身の指先を手元に寄せた。

デュマスは一歩後ずさり、薄ら笑いを浮かべた顔で激しい呼吸を繰り返しながら、自由になった自身の指先を握り締めて問う。


「…ッはぁっ!はぁっ…!ジェノさん…貴方は一体…

私の顔が……」


「焦りました?そのにこやかな表情と態度が合ってませんよ。

デュマス殿、私に興味を持たないで下さいね。

私は貴方の頭にある計画とやらには興味が無いし、今のところは貴方をどうこうする気はありませんよ。

ですが、貴方が私が何者かを暴こうとするなら、私も貴方を暴きますよ。

そうなれば、虫が好かない貴方の…その張り付いた笑顔を引き剥がし、はらわたを引きずり出すまで気が収まりそうにありませんが。」


意味深に右手をだし、何かを握る動作をデュマスに見せたジェノは口端を上げてニィィと目を細めた。


「…あ、貴方が仕える幼い主を害そうなどとは思っておりませんよ…」


「…で、あれば良いのですがね。

では、お先に失礼させて頂きますね。」


デュマスが勘違いをしている様子に、困りましたねと言いたげな、それでいて楽しげに微笑んだジェノは、デュマスに対する溜飲が少し下がったとニッコリと満面の笑みを見せ、軽く会釈をして寮に入って行った。


一方、その場に残されたデュマスは張り付いた笑顔のままで震える右手の指先を握り締め立ち尽くす。

探るなと言われたが、ジェノについて考える事が止められない。

人間ではないとするならば、その正体は?

人間に紛れている理由は?何をしようとしている?

主だと言う、あの金髪オカッパの小僧も人間ではないのか?

人間ならば、あの様な恐ろしい何者かをどうやって従えているのか。


「思わぬ逸材を見つけた…ああ、あれも手駒に加える事が出来たら…どんなに我々の力となるか…。」


恐怖と高揚感の狭間で、デュマスはブルッと身震いした。





登校中にウォルフと合流し、学舎に着いてからは、普段通りに授業を受け、放課後は生徒会、と忙しなく動き回る。

そんな僕はよく出来た子なので、元気の源である姉様の美しいお顔を眺めてラブパワーを充電しながら、休み無く校内を走り回った。

クラスが違うマル君の様子を見に行ったり、学年が違うストーカーたち(主にクリス義兄様)から逃げ回ったり、姉様を眺めに行くついでに、また変な事してないかとアカネちゃんに目を光らせたり。

下校時間になり、やっと余裕が出来た僕は図書室に向かった。

僕は生徒会があるのでと、一人で帰る事に不安そうなマル君はピヨコに押し付け、一緒に寮に帰ってもらった。


校内の廊下はもう誰も居らず、無人の校舎内を夕焼けが朱色に染めて、なんだか普段と景色が違い過ぎて見える。

まるで僕一人が異世界に迷い込んだみたいだ。

いや…既に異世界を渡って来ている異世界人の僕が言うのもなんだけどさ。


「司書のお兄さん、こんにちはー」


図書室の扉をくぐり、『図書室では静かに』と注意書きがある前で、どうせ誰も居ないだろうと大声でシーヤを呼んだ。


「アヴニール!」


満面の笑みを浮かべたシーヤが奥から現れ、僕に駆け寄ってきた。

そんなシーヤの姿が頭の中で、テンション爆上がりの大型犬に変換されたのは内緒だ。


そして…ルイもそうなんだけど、僕をふわりと持ち上げて、腕に座らせるようにして抱き上げる。

身長差があってハグしにくいからなんだろうけど、中身がいい年こいたお姉さんな自分には、これ中々慣れないんだよね、恥ずかしくて。


「お兄ちゃん、恥ずかしいから降ろして…」


「それは出来ない相談だ。

それに、恥ずかしいと言っても誰も見ていないじゃないか。」


シーヤのスキンシップ過剰なのは前からだし、ルイにも一応そう伝えてはあるけど、それでもこんな姿はルイには絶対に見せられない…

意外と嫉妬深いんだよなぁルイって。


「誰かに見られてるからとかじゃなくて…顔が近過ぎるんだって…目をどこに向けたらいいか分からないし。」


さすがに、至近距離でシーヤと見つめ合うのは無理だ。

……ルイでも長い時間、見つめ合うのは恥ずかしいんだけど…あ、いかん顔が熱い。

至近距離のルイの顔を想像しちゃった…。


「……アヴニール…、以前と顔付きが変わったな。

以前は、そんな表情など……」


焦るように顔を俯かせた僕に、シーヤが声を掛けてきた。つーか、意外な事を言う。


「え?顔付き?そんな表情って、どんな表情の事?」


咄嗟に俯かせた顔を上げ、シーヤと目線を合わせた。

思った以上に至近距離にある顔に、「わわわ!」と焦った僕は思わずそっぽを向く。


「どんな表情…うーん…なんて言うんだろうな。

なんか…色気のあるような……。」


シーヤはそう答え、ムッと不機嫌さを表情に出した。

は?いきなり何なんだよ。

自分で言っといて、苛つくなよな。

まさか、僕に色気を感じた自分に苛ついてんの?

そんなの知らんがな。


「アヴニールは…学園に来て…新しい友達も出来たんだろうな。」


「…?そりゃ…出来たけど??」


「今、俺は…お前を、わが国に連れて行かない選択をした事を後悔している。」


「連れて行くって言われてても、僕は全力で拒否したけど。」


シーヤは、自分が今ひとりぼっちで寂しいもんだから、友達が出来た僕に嫉妬してんのかな。




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