女王セリカその2
セネトはこの城に入るのは二度目である。一度目でおおよその内部構造は把握しており、普段マーゲイがどの辺にいるのかも分かっている。
ユルバ城広間。何かイベントがあるときに使用するのであろうその部屋は、今は数人の兵士が待機するのみ。当然マーゲイの姿もない。
「突然失礼する、急ぎマーゲイ殿に取り次いでもらいたい。新生ハーノインから使いが来たとな」
「新生ハーノインから……? 了解です。少しお待ちください」
そして慌てた様子でマーゲイを呼びに行く兵士。程なくしてそこに、還暦を迎えた白髪の老人が姿を現す。
「おおこれはこれは、セリカ様にレン様ではありませんか。相変わらずお美しい。前もって連絡を下されば歓迎も出来たでしょうに」
セネトを始め、彼には見覚えがある。彼こそがここユベルを治める領主マーゲイである。
腰を低くして対応するマーゲイに対して、セネトたちの視線は冷ややかであった。何せ一部とはいえマーゲイの悪行を知っているのだから。
「いえ、お気遣いは結構です。今日伺った理由は他でもありません。マーゲイ卿、アナタを逮捕します」
冷徹に、そして無慈悲に、セリカはそう宣告する。
「…………は?」
「先日新生ハーノインより新たな法が施行されたのはご存知ですね? そしてその内容には、アニス教及び魔草の完全放棄が含まれていました」
「もちろん承知しております。しかしそれはあくまでハーノインの話、我がユルバとは何の関係もないはず」
マーゲイがろくな人間でないことは確かだが、ことこの主張に関しては正論だと言わざるを得ないだろう。だがそれも含めて分かっていたことである。
「ハーノイン総統府が倒れ、その領地と属国はすべて新生ハーノインに引き継がれました。つまり総統府の属国だったユルバは、そのまま新生ハーノインの属国に組み込まれたと言っていいでしょう。ならば新生ハーノインの法は当然ユルバにも適応されます。お分かりですか? マーゲイ卿」
「お……横暴だ! そんな話聞いてないぞ!」
「それはアナタの怠慢であり、何の関係もない事。マーゲイ卿、アナタを拘束させてもらいます」
堂に入った演技で淡々と相手を追い詰めていくセリカ。ちょっとだけ楽しそうに見えたのは気のせいだろうか。
「マーゲイ様!」
「な、何をしている貴様ら! わたしを助けろ!」
レンが関節を極め、そこをハルトが後ろ手に拘束する。騒ぎを聞きつけた兵士たちが集まってきた。
「セリカ様は寛大だ。この件に関して悪いのはマーゲイ卿ただ一人と考えておられる。しかしマーゲイ卿を助けるために剣を抜いたもの、または何らかの妨害行為に出た者はその限りではない。反逆人としてより重い罰を受けて貰う事になる」
この件にマーゲイしか関わっていないという事はあり得ないだろう。多くの者がマーゲイの命により関わっているはずだ。だから彼らを罪に問う事はしない。彼らの罪はすべて命令を下したマーゲイが被る。ガルミキュラでは一般的な考え方である。
セネトが声高く宣言したことで、兵下たちはみな動きを止めた。抵抗しなければ罪に問われない事、そしてマーゲイ自身の人望のなさが彼らの足を止めたのだ。
「貴様ら……、この裏切……!!」
マーゲイがそう言いかけた時、素早くレンが当て身を喰らわせ意識を奪う。これ以上喋らせるのはリスクが高いという判断であった。
「さて、ユルバに関してはこれでいいかな。後は彼を連行する役割だけど……」
「それならわてがやろう。どうせしばらくは政治の話になる。わてはいてもいなくても同じだろう」
「そんなことはないと思うけど、まあ僕やセリカが起こった方が都合がいいのは確かだね、任せるよ」
「うむ、任せろ」
レンはどうも、自分に政治の才能が無いと思っている節がある。確かに詳しくはないのだろうが、レン自身もそれを理解していて、よく分からないものには決して口をはさんだりはしない。
人の上に立つものが万能である必要はなく、むしろできる事とできない事をキッチリ把握し、できない事を信頼できるものに一任できる。そんな者こそが人の上に立つのに相応しいとセネトは思っている。
「レン様が行くならおいらも付いていきます」
「うむ、ではいくか」
そう言ってレンは、気絶したマーゲイを肩に担ぎあげると、凱旋でもするかのように悠々とユルバ城を後にしたのだった。
「あ……あの、セリカ様、私共はこれからどうしたら……」
マーゲイを失ったことで彼らも不安に駆られたのだろう。集まった兵士の中の一人がセリカにそう伺いを立てた。
「すぐにマーゲイ卿のご子息を連れてきなさい。いなければ親族でも構いません。政治のやり方は、私とそこにいるセネト参謀が教えます」
「は……はい」
たとえ世代交代をしても、次の領主が同じことをしていれば意味はない。そんな訳でしばらくは次の領主の教育を行う事にした。




