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女王セリカその1

「もういっちゃうの?」


 ケモノ耳と尻尾の生えた幼い少女が、名残惜しそうに声をかける。


「うんごめんね。僕たちには僕たちの目的があるんだ。だからもう行かなくちゃいけない」

「あのねセネト、ミア、おっきくなったら里を出て、国中を旅してみたい。そしてセネトに教えてもらったいろんなものを見て回るの」

「……そうだね、大人になって僕が言ったことをちゃんと守れるようになったら、里の外に出ることも許してもらえるかもしれないね」

「うん!!」


 しかし外の世界は、未だに亜人に対する偏見の目も多い。セネトはあえてそれを教えることはしなかったが、それは少女が大きくなるまでに世間の風潮を変えてみせるという決意の表れでもあった。

 最後にセネトは少女の頭をなで、仲間たちとともに里を後にしたのだった。


「兄よ、あれくらいの年の子に大地が丸いなどと教えても理解できないのではないか?」

「知識ではなく感覚で理解することが大事なんだよ。大地の果てや空の果てなんていう都合のいいものは存在しない。それを感覚で理解したとき、きっと今まで見えなかったものが見えるようになってる筈だから」


 しかし困ったことに、セネトの理論を完全に理解している者は、ガルミキュラ本国にも存在しないのであった。


「それで、これからどうするの? 私たちが特訓している間、色々考えてたみたいだけど……」

「それなんだけどね、方針を変更して、先にユルバを落とそうと思うんだ」

「ユルバを……?」


 それは以前、セリカが最優先で攻略したいと意見し、あえなく却下された土地の名。


「まずはアニス教と明確に繋がっているユルバ領を乗っ取る。そして他の領地は中部ハーノインと僕たちとで圧力をかけ、アニス教と魔草を禁止させる。こうすれば多分、普通に戦うよりもずっと人死には少なくなるはずだ」


 里に来る前は東部ハーノイン全土を敵に回すような作戦を考えていた。今にして思えば、長老の言った通りかなり根詰めていたのかもしれない。また、里での特訓で戦力が増したことも大い。地形と魔導器と活用すれば、セルベリアが攻めてきても対応できるだろう。


「これから僕たちはユルバを落とす。だけどそれは、あくまで新生ハーノインとしてだ。なにせこちらには新生ハーノインの女王がいるんだからね。大義名分はこちらにある。いや、こちらにあるという事を領民や兵士たちに知らしめなければならない」


 かつてセネトの父ゼアルはアルヴヘイムを解放した。その手腕は半ば伝説となっているが、何故伝説になったかと言われたらそれは、たった三人で国を解放したから……ではない。もちろんそれも一部ではあるだろうが、その伝説の最たるところは、たった一人の犠牲者しか出さなかった事に尽きるだろう。死んだのは当時の総統府の将軍ただ一人で、総統ですら殺されずに、身代金によってミッドランドに返還されたという。

 一体なぜそんなことが可能だったのか。それは、襲撃に参加した三人の強さもさることながら、総統府の兵士たちと敵対しなかったことが大きい。決して少数精鋭だったことが理由ではないのだ。

 ならば今度のユルバ攻略でも同じことが可能なのではないのか。悪いのはマーゲイただ一人で、他の者は罪に問わない。そうすれば兵士たちがセネトらと敵対する理由もなくなる。

 最もマーゲイ自身に人望があればその限りではない。だが彼がそんなものを持ち合わせていない事は確認済みである。


「予告なしの見せしめになってしまうけどまあいい。それくらい強引にしなければ見せしめにならないだろうし、下手に警告を出したら証拠の隠滅を計られる可能性もある」


 証拠の隠滅、それはメルラ湖の畔で働く子供たちの身が危険という事でもある。特に急ぐ必要もなかったのだが、はやるセリカに引っ張られる形で五人はユルバまでの道を進んだ。そして……、



「ここにおわすは新生ハーノインの女王セリカ様。此度は抜き打ちでユルバ領主マーゲイどの視察に参った。門を開けて頂きたい」


 ユルバ城城門前。レンがセリカの来訪を高らかに宣言する。計画通りアポなしで訪問したセネトたちに、二人の門番は呆気に取られた。


「せ、セリカ女王!? しかしそのような話は何も……、何か証明できる物はお持ちでしょうか?」


 このような事態は初めてなのだろう。門番は冷静に対処しようと努めるも、その動揺はまるで隠せていない。


「ふむ、まあ抜き打ちの訪問故致し方ないか。まあいい、女王様は寛大だ。今回だけは大目に見てやろう。だだし、次はない」

「ひ……」


 レンの口上に門番は震え上がる。レンに交渉役を任せた理由は二つ、レンは生来あまりプレッシャーを感じない性格である事と、ラインクルズとの戦いで一躍時の人となったレンを前面に押し出す事で、セリカの権威と力を印象付けたのである。最もこの城の誰もレンの顔を知らなければ意味はないのだが。


「仕方ないわね」


 仲間と共にそのやり取りを見ていたセリカは、すらりと魔導器を抜き払い、空に掲げた。陽の出ている今の時間帯では、以前のような輝きを見ることは出来ないが、それでも輝いている事とバチバチと帯電している事は確認できる。

 雷光の魔導器を持つ金髪の美少女。女王セリカの特徴を端的に表した言葉であり、同時に彼女が女王セリカであることの証明でもある。


「た、大変失礼致しました! すぐに門を開けますゆえ、是非お通り下さい!」


 その光を見て、半信半疑だった門番の態度は一変。敬礼した後、二人で門を開けたのであった。


「うむ、ご苦労」


 少し楽しんでいる風のレンを先頭に、五人は城内へと歩を進めるのであった。


「……今のようなことを経験するたび、ヴィラルさんに感謝したくなるね」

「全くだよ、きっとこんなケースを想定して確保しておいてくれたんだろうね」


 血族以外は使えないとはいえ、旧ハーノイン王家の家宝である。とんでもない金額だったであろう事は想像に難くない。先を読むという意味では、政治も商売もさして変わらないのかもしれない。そんな事を考えながら、セネトたちは城内を進んだ。

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