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講和その4

 ラルラジュナ宮殿。セルベリアの大都市ウィルクラッドにある象徴的な建造物。今回レシエ連合とミッドランド間で結ばれる事となる講和の会場である。


「何というか、凄く……綺麗な場所ですね」


 ふと、ヴァルナがそう発言する。


「そうだな、街は区画整理され、全ての道が石畳によって舗装されている。ゴミ一つ落ちていなければ、道端で商売をする者もいない。今後街作りの参考にさせてもらおう」

「あら、以前大陸を時計回りに旅してきたと仰っていましたが、そのときに立ち寄らなかったのですか?」

「立ち寄ったさ、だが当時はまだ建設途中だった、あのときからここまで綺麗な都市が出来上がるとは思っていなかった」

「だが……」


 不意に、同行していたホームズが口を開く。


「立て篭もる事を全く考慮していない設計だ。建国以来国土が戦火に晒されたことがないからなのだろうが、俺はあまり好きにはなれないな」


 ホームズの言う通り、ラルラジュナ宮殿はあくまで宮殿。城壁はあるものの建物自体に戦争に使えそうなギミックがなく、内部もスカスカ。お世辞にも守りに適した形とは言えない。


「分からなくもない。この宮殿が攻撃された時、セルベリアの人間は一体どう対処するつもりなのか……、それによっては大きく評価も変わるだろうな」

「何かしら考えがあってのことだと?」

「どちらとは言わない。だがあえて取られ易くしている可能性も十分考えられるという事だ」

「む……成程」


 拠点をあえて敵にとらせ、味方の損害と油断を誘うのはよくある戦法の一つである。ホームズは自分が宮殿の構造を一面的にしか見ていなかったことに気付いて閉口するのだった。



 ウィルクラッドより北に十数キロの林の中、現地で雇った四千の兵と共に、リチャードは静かにその時を待っていた。そんなリチャードの目の前に、一話の白い鳥が飛来し、とまる。


『連合盟主ゼアルがウィルクラッドに入った事を確認した。直ちに兵を率いてウィルクラッドまで来られたし』


 白い鳥は見た目にそぐわないしわがれた声でそう語ると、次の瞬間霞のように霧散した。


「……来たか」


 その報せを聞いて、休んでいたリチャードは目を見開き立ち上がる。


「行かれるのですか?」


 その場にいたハイドが訊ねる。


「ああ、これより数日の内に、ラングルド大陸の歴史は一変する事になるだろう。そしてその中心にいるのはこの俺だ」


 得意げにリチャードが語る中、ハイドは不安そうに声量を下げる。


「殿下、今更こんな事を言うのも何ですが、ここにいる兵はほぼ全て民兵、しかもセルベリア人です。正規兵とはわけが違います。そんな連中を率いてこの作戦、本当に上手くいくのでしょうか?」

「俺とて正規兵を用意できたらそれに超したことはなかったのだが、曲がりなりにもここは異国。秘密裏に俺の部下を四千も揃える事は難しかった。だが案ずる必要はない。いずれ皇帝になろうかという男が、正規兵でなくば戦の一つもできないような弱い男であっていいはずがない。もしそれでしくじったのなら、俺は所詮その程度の男だったというだけの話よ」


 リチャードの言葉に、ハイドは改めて首を垂れる。


「殿下の覚悟、しかと聞き届けました。餞別(せんべつ)と言っては何ですが、ぜひこれをお持ち下さい」

「これは……まさか」

「はい、例の薬の最新型です。ゾンビ薬などといわれた旧型より遙かにオリジナルに近い。ただし、弱いだけで副作用もしっかり残っているので、あくまで最後の手段としてお使い下さい」

「うむ大儀だった。……最も、俺がこの薬を使わなければならないような相手など、魔王の因子を持つゼアルくらいしか存在しないだろうがな。では手筈通り、お前はこの後王都に戻って兄貴の側に付け。それからは……分かっているな?」

「はい、研究成果を守りながら内部からの切り崩しを謀ります」

「それならいい。これよりしばしの別れとなるが、抜かるなよ?」

「……御意」

「では行け、達者でな」

「はい、殿下もお元気で」


 ハイドはそう言って別れを告げると、馬に跨ってミッドランド領に受かって駆け出すのであった。そして……、


「いくぞ者共! 我らが取るべき首は二つ! ミッドランド王、暴君へイゼルと魔王ゼアルの首だ! この二つの首を挙げれば我らは英雄! 新たな時代の支配者になれる、地位も金も名声も思いのままだ! 欲しい奴だけ付いてこい!!」

「「応っっっ!!」」


 静かな林の中に、男たちの雄叫びが響き渡る。驚いた近くの鳥たちが一斉に飛び立った。

 グルド歴四一七年。リチャードはその日、大陸の歴史に大きく名を刻む一戦に挑もうとしていた。

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