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講和その3

「ダーナ城城主ドイルの息子ホームズだ。王より貴君らの案内役を仰せつかった。よろしく頼む」


 グリント街道より北にあるバロック砦にて、ゼアルは一人の青年と出会う。案内役と言ってはいるが、実質的には人質のつもりなのだろう。本人もそれを分かっているだろうに、堂々としていて気持ちがいい。


「うむ、よろしく頼む。……時にホームズ殿、卿はグリント街道の戦いで総指令を務めていたと聞いたが……」

「連合の策の前に見事に敗北した、間抜けな総指令だがな」


 ホームズはそう自嘲する。だが、


「そうでもない。我はあの戦場にはいなかったが、寡兵だというのに臆することなく勇敢に戦い、形勢不利と見るや即座に兵をまとめて退却した勇将だと、我の部下が言っていた。……戦いというのは勝てるならそれが最善だが、大事な兵を損なわない事も重要なのではないか」

「そうか、そう言われると悪い気はしないな。……三年ほど前に我がダーナは大勢の兵を失った、これ以上無駄に兵を失う訳にはいかなかったという事情もある」

「三年前……? それは一体?」

「連合の人間であるゼアル殿にこんな事を言っても仕方のない事だが、ミッドランドとハーノインの戦争の原因になったバロック砦の変、俺はあの事件の犯人はリチャード王子だと考えている。事件の数日前、リチャード王子はふらりとダーナに現れ、そこで二千の兵を借り受けてそのまま何処かへと去っていった。そしてその後幾日待てど、ダーナの兵が戻ってくる事はなかった。リチャード王子と数人の側近だけが王都に戻っていた事を知ったのは、事件からふた月以上経ってからの事だ」

「なんだと? それでリチャード王子は……?」

「何のお咎めもなしだ。消えた二千の兵の行方、それが判明しなかった為にリチャード王子は無実、全ては我らの狂言とされた」

「……そうか」

「だが、これはあくまで噂だが、リチャード王子はアニス教と通じているという話を聞いたことがある。これが事実なら、バロック砦を襲った後にアニス教の施設に誘い入れてまとめて殺す、なんて事も不可能ではない」

「確かに、二千の兵を証拠も残さずに処理するなんて簡単な事ではない。それこそ何らかの組織の協力でもなければな」


 だが現状、それらを裏付けるような根拠はなく、何より彼はミッドランドの第二王子。証拠が見つかっても罪に問えない可能性もあった。


「妙な話をしてしまった。単なる愚痴だ、忘れて欲しい」

「いや、興味深い話が聞けた。……少し気になったのだが、セルベリアにおけるアニス教の勢力はどの程度なんだ?」

「そうだな……、アニス教は東の大陸から伝わってきたらしいし、信者の数も最も多いとは聞いているが、正確なところは俺も把握していない。すまない」

「そうか、いや、他国の事だし無理もないことだ」


(ホームズの話で分かった、バロック砦の犯人はリチャード王子でまず間違いない。だがその目的は一体何だ? ハーノインと戦争をしてリチャード王子に一体何の利があったのか。……いや、リチャード個人ではなくその背後にいる組織の利になるように動いていたのか? だが王子であるリチャードが立場を追われる危険を冒してまで組織の為に働くだろうか?)


 顎に手を当てて思案するが、リチャードの行動の意味、それは分からなかった。



 やがてゼアル達は、旧ハーノイン領を抜けてセルベリア領内へと入った。魔法都市国家セルベリア。ラングルド大陸五大国の一つで、ハーノインが滅んでからは四大国の一つになる。魔科学の最も進んだ国と言われており、魔導器と呼ばれる武器はすべてこのセルベリアによって作られたものである。

 この国に国王やそれに類する者は存在せず、国の運営は五大都市の代表である五人の合議制によって行われている。建国からおよそ六〇年、ただの一度も他国に領土を侵されたことがない国である。

 東の大陸よりこの地にアニス教が伝わってきたのは、五〇年ほど前の事。伝えてきたのはムーア人と呼ばれる人々で、彼らの持つ高い魔力と技術力を背景に、急速に信者を増やしていった。

 現在アニス教は、セルベリアとミッドランド、アルヴヘイム、そしてハーノイン東部と、大陸で広く信仰されるようになった。対して鎖国中のアスタルテと、最近まで最貧国だった連合はアニス教が広まりにくかったようである。


「歓迎されると思っていた訳ではないが……」


 ゼアルらの一団がセルベリア南方の地方都市に一泊した時の事である。ゼアルはふと、自分たちを見る市民の反応が気になった。忌避する、或いはどこか怖れるような視線を一行に向けていたのである。


「セルベリア人に嫌われるような事をした覚えはないのだがな……」


 ミッドランド人ならいざ知らず、セルベリア人がゼアルを避ける理由、それが思い当たらない。


「気になりますね、密偵を使って調べさせましょうか」

「そうだな、一応調べておくか」


(リチャードが何かしたのだろうか? いや、まさかな……)


 彼の存在を知ったせいだろうか、柄にもなく過敏になっているのかもしれない。自分の考えを払拭するように否定すると、ゼアルは密偵からの報告を待った。そして……、


「ゼアル様、先日放った密偵から報告が上がってきました」

「うむ、して結果は?」

「それが……」


 言い難そうにヴァルナは言い淀む。


「どうやら彼らの間で、ゼアル様は魔王であり、そんなゼアル様に率いられる連合軍は魔王の軍団であると、そんな噂が流れているようです」

「何……?」


 噂は所詮噂、といつもなら気にも留めなかったであろう事案。だがゼアルが気になったのはその内容。噂と切って捨てるには、その内容はあまりにも核心を突いていた。

 実はゼアルが魔王である事を知る人物は意外と多い。当初こそ眷属の三人と兵士長のディルクくらいのものだったが、後に他ならぬゼアル自身の判断によって、段階的に公表していったのである。

 そんな訳でレシエ候国内では周知の事実となったのだが、問題はどうしてその事が、遠く離れたセルベリアの市民にまで伝わっているのかという事、そしてその噂がこれほど広まってしまっているのかという事である。


「誰かが意図的に流している……?」


 遠く離れた国のトップが魔王である。そんな噂がここまで広まったりするものだろうか? ならば誰かが故意に広めていると考えるのが自然だろう。


「でも一体何の為に……?」

「分からない。リチャードかアニス教の策略でなければいいが……」


 怖れているとは言っても、ゼアル達は五百の正規軍である。そのせいか遠巻きに見ているだけで何かしてくる様子はない。これが策略だったとして、一体どんな意図があるというのか。


「……まあいい、先を急ごう。たまたまこの町で噂が広まっただけかも知れん」

「そう……ですね」


 半ば自分に言い聞かせるように判断するが、その違和感は(わだかま)りとなってゼアル達の心に残ったのだった。

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