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講和その2

 ミッドランドはその名の通り、大陸の中央に位置する大国である。その立地上、五大国のうちミッドランド自身を除いた四大国と国境を接する唯一の国でもある。

 西の小国家群からなるレシエ連合、南の古い歴史と伝統を持つ国ハーノイン、東の魔法都市国家セルベリア、そして北にある亜人の国、アスタルテである。

 しかし昨今の戦争にてハーノインが滅亡すると、その地の支配権を巡って連合とミッドランドの戦いが起こった。前述の通りこの二カ国は国境を接しているものの、国境には険しい谷が走っており、大勢の兵でこの谷を超える事は事実上不可能だった。

 故に両国は旧ハーノイン領であるグリント街道とユベルの谷という地で戦うより他に手がなかったのだが、それももうじき終わりを迎えつつあった。

 周到に守りを固め戦ってきた連合に対して、ミッドランドが次第に疲れを見せ始めたのである。〝このまま戦い続けていても意味はない〟という考えが、ミッドランドを中心に広がりつつあった。



「ミッドランドからの講和の申し入れ、か……、ここまでは予想通りだが……」


 講和の場所としてミッドランドが指定してきたのは、セルベリアの都市ラルラジュナ。中立の国なのは妥当といえば妥当なのだが……。


「少々遠すぎる上に、現ミッドランド領である中部、東部ハーノインを通らねばなりません。危険すぎます」


 そう発言したのは、ガイルの副官として前線の指揮を担っているカティア。


「どうせ連中は俺たちを抜けないんだ。講和なんて無視してこのまま守り続けていれば、そのうち連中も諦めるんじゃないか?」


 ガイル自身も同意見らしく、カティアに重ねてそう発言する。


「……だが現場の兵はそう思っていないのではないか? いくら守りが堅いと言っても、いつ来るともしれない敵兵に常に警戒し続けるというのは、精神的にきついものがある」

「それはそうかもしれんが……」


 いかにグリント街道とユベルの谷の守りが堅いと言っても、見張りの兵士の発見が遅れれば容易く落ちる可能性もある。彼らが続けているのはそんな薄氷一枚の戦いでもあるのだ。


「信用できるのか、ミッドランドの連中は……?」

「信用できない人物なら確かにいる。バロック砦の変の主犯ではないかと睨んでいる人物だ。だがいかにこの男が怪しかろうが、旧ハーノイン領に軍を入れれば流石に目立つし何なら我が軍を投入してもいい」

「ううむ、そこまで言うのか……。ヴァルナ嬢ちゃんはどう思ってる?」


 助けを求めるようにガイルは、最近長期休暇から復帰したヴァルナに意見を求める。


「私も講和には反対です、ですが……」

「ですが……?」

「決めるのはあくまでゼアル様。私の意見と決定権は別のものです」

「……そうか」


 反対の意見を示しながらも、あくまでゼアルに従う姿勢を見せるヴァルナ。ゼアルの意思が固い以上、もはや結果は同じだった。


「ったくしょうがねえな、何かあった時すぐに動けるように、旧ハーノイン領に斥候を放っておく、それが条件だ」

「ああ、それで構わない」


 結局そのようにして、ガイルが折れる形で会議は収束した。


「決まった後でこんな事を言うのも何ですが、本当に良かったのですか?」

「……どういう事だ?」


 会議の後、ヴァルナがふとそんな事を言い出す。


「ミッドランド王は比較的まともな人物ですが、会議でも名前の出たリチャード王子はどこか得体が知れません。私の占いでも彼がどこかの勢力と繋がっていることくらいしか分かりませんでした」

「だから不安だと……? 心配するな、リチャード王子にどんな力があろうと、できる事には限界がある。ガイルも協力してくれるというし、何も心配はいらない」


 しかしそれでもヴァルナの表情は晴れない。


「こんな時こそイハサちゃんに付き従ってもらうべきなんでしょうが、私と入れ替わるようにして長期の休みに入ってしまいました。何か悪いことの前触れのようで不吉な気がしてしまうのです」

「少人数で動くときは確かに頼りになるが、今回はたまたま偶然が重なっただけだろう。あまり気にするな」

「……はい」


 講和には反対しながらも立場上ゼアルの意見に賛同したヴァルナだが、もっと強く止めておくべきだっただろうか。言い知れぬ不安を抱えながら、ヴァルナはそう思うのだった。



「では行ってくる。ひと月ほどで戻れるだろうが、その間はガイルが盟主代行となり事に当たるように」

「おう、任せておけ」


 程無くして講和の準備を終えたゼアルは、グリント街道にて五百の部下と共にいた。

 国の規模を考えるとかなりの少数だが、戦いに行くわけでもなし、旅費の負担と機動力を考え、これくらいが最善と判断したのだ。


「だが本当にいいのか? 今ならまだ取りやめる事もできるぞ?」


 あくまで反対の立場を示すガイルがそう促す。


「講和が成立すればこの無意味な戦いも終わる。ガイル達のいうように危険はあるのだろうが、死んでしまった兵達に報い、これから死ぬ兵士を一人でも減らせるのであれば、我は喜んで危険を冒そう」


 この言葉に、ガイルは呆れたように息を吐いた。


「部下の為に主君が危険を冒すなんて本末転倒なんだが……まあいい、そこまでの覚悟があるならもう何も言えん」

「うむありがとう。では行ってくる。後を頼む」

「おう」


 そうしてゼアル以下五百の兵は、グリント街道を道なりに進軍していく。一行がまず目指すのはバロック砦。現在ミッドランド領となっているこの場所で、とある人物と合流する手筈になっているのだ。

 ある意味全てが始まったその場所に向かって、彼らは北に進路を向けるのであった。

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