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狂王子リチャード

 ミッドランド王都、グランダラス。その城内を速足で歩く若い男の姿があった。男の名はリチャード、ここミッドランドの第二王子である。

 リチャードはとある研究室のドアを勢いよく開けると、中にいた人物に話しかける。


「ハイド、報せは聞いているか」

「報せ……、アルヴヘイムの事でしたら把握していますが……」


 慌てた様子のリチャードに対して、ハイドと呼ばれた青白い顔の男は、興味なさ気に返した。


「そうだ、それだけではなく、我が国から派遣していた多くの人材もそのまま新しい魔王に引き抜かれた。戻って来たのは魔王によって不要と判断された者たちだけだ。この意味が分かるな?」

「……ただでさえ我が国は、南の大国ハーノインと戦争中。相当な痛手である事は確実でしょうな」


 そういいつつも、ハイドの言動はどこか他人事めいていて危機感がない。


「そうだ。ハーノインとの戦争にいつまでも時間をかけていたら、西の連合や東のセルベリアだってどう動くか分からん。それ故に父はハーノインとの短期決着をと考え、その手段をキサマの研究に委ねたのだ」

「研究? 超人化計画の事ですか? しかしあれは未完成の失敗作……」

「そんな事は承知の上だ。だがあいにく実用段階まで待っている時間はない。それにその失敗作でも十分実践に堪え得ると判断されたのだ」

「実践に堪え得ると…………判断された?」


 ハイドの研究を総括しているのはリチャードである。以前から王は、『何か怪しげな研究をしている』程度にしかハイドの研究を認識していなかった。ならば王にそのような判断が出来る訳はなく、実戦に堪え得ると判断し王に進言したのは他ならぬリチャード自身ではないのか。

 これまでの付き合いからリチャードの性格を知っていたハイドはそう考えた。だからと言ってリチャードが上司であるという事実に変わりはなく、命令されれば従う他ないのだが。


「それで、おいらに一体何をしろと……?」

「知れたこと、以前研究成果として提出していた薬、それを千人分用意しろ、すぐにだ」


 しかしその言葉に、ハイドは顔をしかめる。


「すでにご存じでしょうが、アレを使われた人間は思考が破壊されます。二度と普通の生活には……いえ、今後人として生きていく事すらままならないでしょう。それに今すぐ千人分は無理です。二百人程度であれば何とかなるでしょうが……」

「たった二百人分だと……? まあいい、それだけでも戦果をあげる事は可能だろう。すぐに取り掛かれ」


 やはりリチャードは分かっていて命じているのだろう。薬の副作用については一切触れることなくそう命じた。


「分かりました」


 囚人とはいえ実験の為に何人も殺してきたのだ。今更実験の犠牲者が二百人増えたところでどうという事はない。ハイドはそれ以上何も言わなかった。


「それにしても一体何者なのですかな? その新魔王というのは」

「……戻って来た者の話では先代魔王の息子を自称しているらしいが、先代魔王の息子といえば二十年以上も消息を絶っていた男だ。本物かどうかは眉唾だな」

「先代魔王の息子……ですか。もし本物であれば、今度は生け捕りにしたいものですな」


 それまでどこか無関心だったハイドだが、その言葉に関してだけはどこか実感がこもっていた。


「真偽はともかく多少頭が切れるのは確かだろうな。反乱でありながら体制を維持したまま綺麗に頭だけを挿げ替えた。混乱が起きるどころかむしろ治安が良くなったという話も聞いた。我が国は戦争中ゆえ、再侵略に乗り出す事が出来ない事も見越していたのだろう」


 多少は、なんて言葉を使ってはいるが、普段から滅多に人を褒めないリチャードがそう言っているあたり、本当に頭のいい人物なのかもしれない。そしてそれは同時に、生け捕りにする事が困難であることを意味している。ハイドはそう考えた。

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