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吸血鬼だってチーレムしたい  作者: もこもこ
月の教団と対決する生活
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第60話 新技

 

 聖堂で誰もが彼女に祈りを捧げる。

 彼女を通して神に祈りを捧げる。


 彼女は神とともにいたものだから。

 天に捧げるよりもずっと神の身元へ届くだろうと、祈りを捧げる。


 誰が見ても、彼女は世界で一番神聖で、疑いようのないほど、完全で――


 祈りが始まったら終わるまで決して開かれないはずの扉が乱暴に開かれる。

 空いた扉には多くの兵士と、それを従える、深くローブを被った少年。


「な、なんだ!?」


 信徒の皆に同様が走る。

 厄介事に怯えるように周りを見渡すと、後ろに控えていた僧兵たちが、魔術杖を構えて集まってくる。


 ああ、一体何なんだ!


 --


 教祖がいると合図をもらい、皆を率いて、勢い良く聖堂に攻め入る。

 驚き慌てふためく信徒たちと、殺意のこもった目でこちらに近づいてくる者達。

 誰が敵なのかとてもわかりやすい。


 教団全てに仕返しを、とは思っていない。

 ミハエルと、元凶のガブリエルの二人を謝らせたいだけだ。


「さあ、決着をつけに来たぞ」

「君はバカなのか? 吸血鬼が朝に聖堂にやってくるなんてね」


 集まってくる白い兵士たち。

 その真中にはミハエルがいる。


「決着を着けるならわかりやすいほうがいいだろ?」

「……聖なる神に最も近いここに吸血鬼がやってきて無事ですむとでも?」

「あいにく、吸血鬼という亜人と認めてもらったからね。実際、なんともないでしょ?」


 陽の光と違い、肌を焼いたり、力自体が落ちることはなかった。

 とはいえ、朝である今、ほとんど力は出ず、ちょっと強いだけの闇属性の魔術師レベルだろう。


「まあ、利口と言えるんでしょうかね? どうせあなたの力は私に抑えられる。ならいっそ自分が弱くても、相手が警戒してない時間に攻める、か」

「度肝は抜かれたかな?」


 戦いが始まる前のお互いの挨拶のようなものだ。

 余裕そうな顔をしているけれど、驚いているのは顔に浮かぶ汗を見ればわかる。


「抜かれましたよ。けれど、ここなら光属性の魔術師はいくらでもいます。今回は私も攻撃に回れるんですが、お仲間は私の攻撃を防げるんですかね?」

「まあ、やってみようか。まずは邪魔な市民を抑えさせてもらう。ブラッドモードオン! シャドースティッチ!!」


 聖堂中に広がった闇の魔法陣が人々の影を縫い止める。

 魔術対抗力の小さなただの信者はその場で動けなくなる。


「そして、これが新技……ブラックワールド!」


 真っ暗な闇が辺りを包み……消える。

 特に一見何も起こらなかったように見える。

 だが、根本的なものが既にさっきとは変わっている。


「なんのコケオドシですかね。シャインセイバー! ――シャインセイバー!! くそっ」


 光の剣が辺りを切り裂く、必殺の一撃、シャインセイバーはかざした手からは発動しない。

 ブラックワールドは、闇の世界を生み出す魔法。

 夜の祝福に満たされ、闇の魔力が広がる。


 光の魔術は相殺され、発動すらできない。

 夜じゃないと強くなれないなら、夜にしてしまえばいい。根本を変える技だ。


 英雄は空気を変え、逆境すら己の有利に変える。そんな性質から生まれた力かもしれない。


「光よ、あれ」


 黙って、何処か怯えていたガブリエルが、前に進み、翼が広く広がる。

 目を瞑りたくなる強烈な光のあと、夜の世界は明け始め、光の力が強くなる。


「戦士達に力を、守りを、速さを、そして癒やしの力を」


 赤、青、緑、そして白の光が僧兵たちを囲み、気配が強くなる。

 各種能力が強化され、自動的に怪我が治るようになった、と見るべきだろうか。


「ダークセイバー!」

「シャインセイバー!」


 結局また、打ち消されてしまう。

 だが、前回と違い、その後を封じる一手が足りないぞ。


「切り捨てるわ!」

「がっ」


 一方的な優位は消えたが、それでも俺を圧倒した武力はこちらにいる。

 誰より早く飛び込んだエヴァが一刀で数人を切り捨て、振りきったエヴァを襲おうとする男たちに送れて飛び込んできたシルヴィアが跳びかかり蹴散らす。

 リーゼが器用に信者を避け、僧兵だけを凍らせる。


 俺は隙をつくように、ガブリエルへと襲いかかる。


「吸血鬼にしたこと、俺の母を殺したこと、俺を殺そうとしたこと、エヴァを利用したこと。全部謝らせてやるぞ」

「私を害そうとするものはすべて消えてしまえ!」


 彼女の手にはエヴァが持っていた聖剣がある。

 天使は確かに腕が良く、踏み込みも早かったが、それでもエヴァに比べるとずっと遅く鈍い。


 剣を避け、横をすり抜けるように、剣で体を切り裂く。

 浅いが、切った!

 太ももを刃が通り、ガブリエルの足を真っ赤に染める。


「いやあ! この、化物! 死んでしまう! ミハエル! 私死んでしまうわ! 助けて!!」

「今行きます!」


 ほとんど薄皮一枚の怪我のはずなのに。

 その怪我自体も自動的に治ってしまったのか、血の流れは停まっているようだった。


 けれど、死の恐怖に震え、頭を抱えてしゃがみこんで。

 それは夜を怖がる幼子のようだった。





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