第59話 教団に攻め入る時間
国家同士の約束が結ばれ、戦いの許可が出た。
とはいえ、逆にお互いに助力をしないという体になっているため、戦力は変わらずだ。
いや、人間の限界を軽々と超えている従姉のエヴァの存在がある。
そして、エヴァにもらった血の力に目覚めた力。
月の教団を攻めた場合、前回と同じくまたミハエルが立ち向かってくるだろう。
彼に俺の魔術を打ち消されてしまうのは吸血鬼としての長所を奪われていて苦しい。
けれど、新しく手に入った力がある。
「リオンは私が守るわ! 今ならオークだってぶった切れるんだから!」
それに仲間も。
吸血鬼に強い聖剣は持って行かれてしまったが、市販のものであれば最高クラスのミスリルの剣を手にしている。
オークだってと言っているが、オーガだってまっぷたつだろう。ミスリルの剣で、なぜ同質のミスリルの盾を水でも斬るように切れてしまうのかまったくわからないが、それこそが英雄たるゆえんなのかもしれない。
正直聖剣でなくとも、俺を守る闇の衣を貫いて腕を切り飛ばしていた気がするくらいだ。
「ふーん、威勢はいいけどにゃー」
「なによ。弱い奴はよく絡むわね」
「ふかー!」
シルヴィアはなぜかエヴァによく絡む。
それまでは正直ごしゅじんさまと呼ぶマリオンくらいにしか執着してない感じだったのに、自分から進んでぶつかりに行っている気がする。
ああ見えて仲がいいんだろうか。絶対そんなことないにゃ、なんて言われそうだが、そうとしか思えない。一度目を話した瞬間に殴りあって銀虎になったうえで殴り倒されたみたいだが、それでもめげずに絡みに行っている。
エヴァもエヴァでどこかシルヴィアを認めているようだった。
「しかし、聖堂に真っ直ぐ乗り込むんですか。また、大胆ですね。しかも、朝、ですか?」
吸血鬼に一番の弱点の時間。
神殿内が室内とはいえ、当然窓もあれば光も入る。
ローブがあってもけだるいし、闇の魔力がだいぶ弱まる。
だが、同時に彼らが最も油断するときでもある。
信徒を神殿に迎え、剣を構えないその場なら、けが人を多く出さずに制圧することができるだろう。
「ああ。みんなから少しずつ吸わせてもらってお腹がたぷたぷなくらいだけど、それでも、朝は辛い。けど、だからこそ攻めどきだ」
「信徒の前に顔をだすから、所在ははっきりしているし、狙い目ではあるな」
夜になり、守りの固く、何が仕込まれているかわからない、月の教団、教主ガブリエルの屋敷に攻めこむよりはずっとマシだ。
不老不死の研究を突き進めた結果の技術がすべて彼女の手にあるのだから。
しかし、そんな彼女でも結局不老不死は実現しておらず、逆に攻められることになるのだから皮肉だ。
「……なんで不老不死なんて研究してるんだろうな」
「寂しいからではないか? 元々そのために狙われたと聞いたが」
確かに、ガブリエルの孤独を癒やすためにと俺を吸血鬼に変えようとし、その中身をミハエルは自分と入れ替えようとした。
だが、彼女自身はどうなんだろうか。
多くの信徒に囲まれ、娘すら捧げたくなる男に仕えられ、けれど孤独なんだろうか。
――永遠のような時間に、いつかは、自分もそう思うようになるんだろうか。
「大丈夫ですよ」
ぼうっと思考にふけっていた俺の手をにぎるのはマリオンだった。
結局、本当に孤独だと思ったりしなかったのは、彼女に会えたからだろう。
願いはあったにせよ、吸血鬼であっても、1人の人間として相対してくれていて、お互いに過ごしていたから。
「大丈夫かな?」
「ええ、きっと」
根拠なんかないじゃないか。
笑い飛ばしたいくらいなのに、真っ直ぐ目を見られると、信じる気持ちが湧いてくる。
「そうだよね」
いつか今いるみんながいなくなったとしても。
この気持が支えてくれる。
「なら、大丈夫か」
みんなひとりひとりの顔を見て――告げる。
「さあ、決着をつけよう」




