第58話 従姉にちゅー
「待たせたな、愛しい人よ! 無事に月の教団を退けたようで一安心だ」
一旦屋敷に戻った俺達の前に現れたのはリーゼだ。
桃色の肌を赤く染めながら、愛の詰まった視線を感じる。
だがそれも、俺を抱きしめてる……いや、俺が抱きしめているのかもしれない、エヴァを見るとぎょっとする。
「妹さんかい?」
「姉よ!」
「なんとびっくりだ。リオンの婚約者のアンネリーゼ・フォン・アウグルクリスです」
「そう。なら私の妹ね」
「ええ、どうぞよろしくお姉さま」
「いい響きね! あなたも私が守ってあげるわ」
リーゼがニコリと微笑むと釣られるようにエヴァもにこっと微笑んで何とも言えないゆったりした空気が流れる。
リーゼはマリオンの元へ行き、ひそひそと耳元で内緒話をする。
「で?」
「彼女はエヴァ。リオンの従姉のようですよ。年齢から言えば姉の関係だったようです。今は見た目が逆ですね。変な関係です」
「まあ、それも数年で元通りさ」
「……そうですね」
皆を見渡し、リーゼが注目を促すように、手を叩く。
「さて。皆が戦っている中、一緒に戦えなくてすまない。だが、父から権利をもぎ取ってきたぞ」
「権利?」
にやりと微笑むリーゼ。いたずらっこのような笑顔は少年のようで可愛らしい。
「月の教団を落す許可さ。エティリア王国、アウグルクリス帝国共に、天使と吸血鬼の戦いに関与しない。好きに戦えとのことだ」
「教団を切ったのですか? 王国が?」
マリオンの疑問は当然だ。月の教団の教主ガブリエルはエティリア王国の恩人なのだから。
「恩はいずれ風化する。そうでなくとも、昔の恩だ。
何代も世代が変わっているのに感じ続けるのは無理だろう。
王国は既に払いきったと言っているし、恩を傘に来て好き勝手にしたのは彼女の方だ。
とは言え、いつまでも好きにはさせてくれないみたいだ。一ヶ月後、決着がついてなければ2国が二匹の魔物を狩る、という話になっている」
「タイムリミットか」
だがどのみち、長期戦に強いのは教団の向こうのほうだろう。
戦力がこれ以上増える見込みがない以上、今の戦力で戦うしかない。
「リオン、大丈夫よ。私がお父様もその悪いやつもぶっ飛ばしてあげるわ」
おねえちゃんらしい態度は変わらず、だが、いなくなったら危ないからと、ずっと隣にいようとするエヴァ。見下ろす視点に変わってせいか、なんだか強がる猫みたいに見えて可愛いらしい。
これが大人の余裕かもしれない。
「ありがとう。でも、エヴァおねえちゃんも気をつけてね?」
「うわ、なんかガキンチョをおねえちゃんって呼んでてリオン変な奴っぽいにゃ」
「……猫のくせにやる気? しつけがなってないわね!」
ほのぼのとした空気は一転、視線がぶつかり合いながら弾ける空気に変わり、二人をどう止めていいか焦るが、周りからは子供同士の微笑ましいシーンのままらしく、マリオンもリーゼも、お父様も止める気が全然ない。
「英雄とか言っても、たかがガキンチョだにゃ!」
「子供でもあんたよりは強いわ! 私はリオンの姉だもの。リオンに代わって私が躾けてあげるわ」
「ふーんだ、血を吸われたこともないのに姉だからって偉くもなんともないにゃ」
「なんですって?」
ふかー! と睨み合う二人は二匹の猫お互い爪を立ててひっかきあいそうな感じだ。
「ほらほら、シル、ダメですよ」
「エヴァおねーちゃんも」
目で必死にマリオンにお願いしていると、しょうがないですね、と一言もらしてから、なだめに入る。
「あなたはリオンのなんなの?」
「お嫁さんです」
「婚約者いるのに?」
「私の方が先です」
「見る目があるわね! リオンはかわいいもの!」
今は可愛くない気がする。
姉の贔屓目で今でもかわいらしいが、何処をみてるのだろうか。
「ねえ、リオンは吸血鬼になったのよね?」
「うん」
「じゃあ、私の血も吸う?」
「ぶっ」
何を言い出すんだと吹き出してしまう。
「さ、さすがにエヴァおねーちゃんのを吸うのは……」
「一つ聞きたいんですが、シルの血を吸って、狼になれるようになったんですよね? リーゼさんの時はなにもなかったんですか? それに私の時も」
実は手に入れている。
酔って全然意識がなかったが、二度目に吸血した時に強く意識をするようになり、使える、とは思うようになった。
「けど、範囲技なんだよね。シャドースティッチ。相手をその場に縫い付けて動けなくする技」
だが、そもそも、ダークセイバーの時点でほぼ必殺技である。足止めしてから倒すのは一手損に感じてしまう。
「マリオンの方が自己修復? 回復効果みたいな……」
「思ったより地味ですね……」
血さえあれば一気に回復するし、腕を切られたりするレベルまで行くと、フルキュアしてもらうほうが早いとなれば確かにそこまでではないと思うが、有効な力ではある。
「強くなれるなら吸っておいたほうがいいのではないか?」
「う、うーん。でもなあ」
「リオン」
「はい」
「吸いなさい」
「うん……」
子供時代の関係性のせいだろうか。強く言われると逆らう気がしない。
やれやれ、仕方ないな。
目をぎゅっと閉じながら差し出された腕を優しく持ち上げると、噛みつく。
味けるような命の味。
強烈で真っ直ぐな思いが伝わるようで、とても良いものだった。
「ふぁ……」
「これは……エヴァさんもですか……」
吸血に気持ちよさを感じたのか、ぽおっとしながら顔を赤く染める。
この歳の子にそんな顔をさせるなんてと、なんだかちょっといけないことをしてしまった気がする。
「この力があれば――勝てる!」
さすが英雄の血、ということなのかもしれない。
すみません、体調不良のため、1日お休みします。




