第53話 襲撃
「リオンさん!」
慌しい様子でバタバタと走りながら、マリオンがやってくる。
大抵のことを卒なくこなしてしまう彼女がここまで慌てるなんて。
何か大型のモンスターでも出たのだろうか。
数ヶ月かけ、毎日走り回り、ようやくオークアントを駆逐し終え、移住希望者を募り、人が移り始めたのである。
収入になりそうなものが多くある美味しい土地であっても、それを満足に扱う人出が足りず、毎日どこかで助けての陳情が入り、毎日空いた穴を塞いでは別の場所に開く穴をふさぐような毎日。
それでも、笑顔でより良くなる明日のために日々汗を流す人々の姿はとても好ましく、自分がもっと頑張らなきゃなと俺の体のどこにそんなやる気があったのかと驚く位だった。
そう、あまりの忙しさと満足感に、そもそも何のために貴族を目指したのかが頭の端からぽろりと抜け落ちていたようである。
「あ、アルカード領主から手紙です」
え? お父様から?
「耳が早いな……リオンって名前で気づいたのかな? 心配してくれてたんだなあ」
「リオンのとーちゃんからかにゃ? どれどれ」
「おい、俺より先に見るな」
『拝啓。親愛なる息子へ。帝国に渡り、すぐに手柄を立てて貴族になるなんて驚きだ。
自分の息子が、俺と同じように魔物を倒し領主になる。
誇らしく、けれど手を離れて大きくなっていることが寂しく思う。
血を感じると共に、自分がした苦労と同じかそれ以上をお前がすること、それを助けてやれず、すまない。
言いたいことはいくらでもあるが、言葉を尽くしても足りそうにない。
――本題にはいろう。
夜の教団の教主の命で少数だが、精鋭がお前を討伐に向かう。
名目は【アルカード領の悪夢であった吸血鬼の再来が、跡取り息子であったリオンの体を乗っ取った。敵を討ち、吸血鬼の被害を抑えなければいけない】だ。
討伐には俺も参加することになる。吸血鬼を倒して領主になったのだから、息子がそうだというのなら引くことはできない。
逃げることもまた手ではある。どれだけ猶予があるかはわからないが最善の手を打てること、未来にお前の幸せがつながっていることを祈っている。無様な父ですまない』
なんてこった! 貴族になれば一他国の宗教程度手を出してくるまいと思っていたのに、うちの領をネタに使うのかよ。
認めてくれるお父様の気持ちに涙が出そうなくらいなのに、その父を使って俺を殺そうとする教団に殺意が湧く。
「こんなの、通るのか? 他国の領主だぞ。吸血鬼は亜人であると認められたのに」
「――戦争にはする気はないのでしょう。あくまでモンスター討伐の体で冒険者として来るはずです。だから、精鋭だけなのでしょう」
「倒してから問題になっても魔物でしたで通すってはなしかにゃ? 随分な話だにゃ」
「問題にはなるでしょうが――教団は国ではないですし、団員や傭兵を殺している事実もあるでしょうから――リオンさんが死ねばその後はある程度の賠償金、という話になるんでしょうね。けど、なんでここまでこだわるのか」
かつて俺を吸血鬼にした男は、教主の孤独を癒やすためと言った。
俺をしつけて不死の教主のおもりをさせる。
そのくらいならまあ分かる。
でも、ここまで抵抗の姿勢をとっている相手にそこまでするんだろうか。
放っておけばいいのに。放っておいてくれればいいのに。
吸血鬼にされた恨みはあれど、なる前に戻りたいとは思わない。
なってから得たものが今の俺を支えてくれるから。
「迎え撃とう」
「いいんですか?」
「今の俺達ならやれるはずだ」
ただの冒険者じゃ、いつかかられる獲物だった。
けれど今はこちらも力をもった、数も得た。
相手は数の少ない冒険者として来るのなら。
打ち倒してやる。
「そうですね。教団だって、リオンさんを相手できる人材はそう多くないはずです。倒して――いっそ吸血鬼にしてしまえばいいんです。そうしたら諦めますよ」
多少楽観ではあったが、最初の襲撃を凌げばまだやりようがあるはずだ。
「話は聞かせてもらった!」
「リーゼ!」
「父様に声をかけ、人をよこしてもらう。王国にも抗議と、教団に圧力をかけるよう働きかけよう。なに、王国も戦争は望むまい」
ばあんと執務室の扉を開けて、入ってくる。
聞き耳立ててたんじゃないだろうか。
だが、彼女の皇女としての影響力――権力もある。
そうだ。きっとなんとかなる。
「みんな! 力を合わせてこの困難を乗り越えよう」
俺の言葉にみんなが頷く。大丈夫。なんとかなるさ。




