第46話 貴族連合
俺は城壁の上から続々と集まりつつある同士達の軍勢に酔いしれていた。
戦が絶えて久しく、騎士はその剣を飾りの代わりにするようになり始めた。
より切れる剣ではなく、美しい剣を買い求めるのだ。
自分の顔でも映すつもりなのか。
だが、その方が今にはふさわしいのだ。
無骨で稽古しかしたことのない剣にすべてを費やし、その剣を王家に、民に捧げるものより、花を愛し、歌を囀るもののほうが令嬢にモテる。
汗の匂いひとつしない男が美しい令嬢に囲まれて、俺はさっぱりだった。
アヒム・フォン・フーバー。
王国にフーバーの剣ありと言われ、曽祖父は魔王国との戦では狩りに狩って、悪魔殺しなどと呼ばれていたくらいだ。
俺はその逸話に感動し、何度も何度も親に話をせがんで見習うように剣を振った。
ただひたすら毎日剣を振る俺をよそに兄は勉学に励み、『今は剣で人を守れる時代じゃない』と言って馬鹿にしたものだ。
ああ、そうなのだろう。剣だけで守れる相手は少ない。
戦でないなら護衛でも左右に並べればいいのだからな。
そんな俺も真実の愛を知る時が来た。
アンネリーゼ・フォン・アウグルクリス。
第二皇女である彼女は、帝国の貴族ならば誰もが誇る才女だ。
魔術の知恵に関しては及ぶものなく、その発想には賢者も唸るという。
それでありながら彼女は剣をふるのだ。
可憐で美しく、賢くありながらも、己を鍛えることを忘れない。
帝国のすべてを結晶化したようなそんな女神だと思っている。
そんな彼女は、誰を薦められても結婚しようとしない。
誰かを待っているのだ。そう、誰かが噂をしていた。
だれをだ?
俺だ。いいや、俺ではない。
今の俺は証明ができていない。剣の力を見せていない。
だが、天は言っている。試練を与えようと。
オークアント。領地を持ち、己の国家を作りだす彼らは魔物というより、ひとつの敵国だ。
奴らは新しい国をこの帝国から領土を民を奪って作ろうと言うのだ。
知恵を絞って彼らを止めれるか? 否。軍を倒せるのは軍だ。
数の多少の多寡をごまかすことはできるだろう。
だが、女王の息の根を止めるのはやはり鍛えられた刃だけだ。
王国に捧げられ、研ぎ澄まされた一本の剣こそがやつを倒すのだ。
「お待ち下さい。アンネリーゼ姫。必ずお迎えに上がります。この、アヒムが!」
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城壁で太陽に向かって誓いを立てるようにしている貴族。
だが、そうしているのは彼だけではなく、いずれ始まる初めての戦争に心を、場合によっては足を震わせながら、多くの者達が武者震いをしていた。
今この領に集まっているのは自分の土地がもてるかもしれないもしくは、新しい領主の臣下になれるかもしれないと集まってきた三男以下の貴族たちである。
特に、騎士の輝かしい部分に惹かれ、己もかくあるべしと鍛えてきた武闘派の者たちが多く集まっている。
彼らは多くが次男であるアヒム・フォン・フーバーを旗頭に集まってきているが、多くが相手を出し抜こうと企んでいた。
それは戦争になる前から始まっており、顔を合わせれば相手が誰でどこくらい戦力を持ち、いつ出し抜く気か……そればかりを気にしていた。
『勝者となるのは俺だ!』
ギラギラと瞳を輝かせながら練り歩く貴族たちに、雇われの傭兵や冒険者たちは呆れながらも情報収集を進める。なにせ、蟻はいくらでも土地を掘り進め、複雑化する。
そんじょそこらのダンジョンより攻略は大変になるはずだ。
もっとも、守りが厚い場所を探っていけばいずれ突き当たる場所であるし――新しい女王を産もうとする女王アリは巨体になり動けない。
であれば後は人海戦術でなんとかなるはずだ。
要は誰が最初に金塊を掘り当てられるか――。
冷静に情報を探っているはずの冒険者達も欲に目を濁らせていた。
早い者勝ち。
おそらくそれが全員の目を狂わせていた。
だが忘れている。
オークアント単体はさほど強くないとはいえ、数がいて、女王はAランク以上であり――女王以外が弱いと決まっているわけではないのだから。
こうして貴族たち、冒険者達と多くの者の思惑がぶつかりながら、軍隊はオークアント討伐に向けて進軍を開始した。




