第33話 囚われてもぬけ出す系ヒロイン
油断していた。
他国に来て、オリーヴィアの手から逃れ、吸血鬼という大きな力の協力を得て、やりたかった自由を満喫できて。
利用する気持ちはあっという間に絡め取られてしまった気がするが、それでも、マリオンに取っては日々を楽しむことができていて幸せだった。
あとはいつかオリーヴィアを見返せれば満足だ。
自分になつくシルヴィアも可愛らしく、だから、浮かれていたのだ。
シルヴィアの餌付けを目的とした料理やお菓子の作成にハマっているリオンのために、次はなにを教えようかと街を散策しながら買い物をして、最近お気に入りになっている紅茶を出す小さな喫茶店で休んでいたのだ。
湯気を立て、心安らぐその香りを堪能し、口にして――味わおうとしているのに、それ以上に強烈な眠気を感じだしたのだ。
今まで疲れても眠くもなかったのに。
盛られたのだ、と反射的に思い、キュアポイズンの魔術を使い――
『ああ、やはりこっちを使わないとダメか――』
いつの間にか隣にいた男に何かを吹きかけられ、意識を失ったのだ。
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「どうするにゃ!! ごしゅじんさまが帰ってこないにゃあ! す、すてられたかにゃ!? リオンのせいにゃ」
やつあたりにぽかぽか頭を叩かれる。
軽いパンチなので痛くはないのに、たまに感情に振り回されているのか強いパンチが飛んできて釣られるようにイライラし始める。
「いつもは夕方には戻ってくる。――夕食の材料を買いに行ったんだし。でも、もう夜だ」
マリオンは俺より数倍しっかりしているし、Bランクの冒険者とはいえ、1人で夜、街をうろつかない警戒心はある。そもそも、日本と違って、夜に遊ぶ場所など、酒か女か、宿屋くらいだ。
男ならともかく、貴族でありたいと願っているマリオンのすることじゃない。
ギルドで仲良くする相手はいるようだったが、連絡無しで遊びふける子でもなかった。
「なにかあったかな――」
「うぐぐっ」
探しに行こう。待っていても戻ってこない以上、何かがあったと考えるべきだろう。
「シル、探しに行こう」
「了解にゃ!!」
ギルドに、マリオンが好きなお店に――そこでも見つからなかったら、どうすればいいだろうか。
当たり前のようにずっと一緒にいてくれたマリオン。
もし、何かあったら。
焦燥感にだけかられていつの間にか走りだしていた。
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「さて、どうしましょうかね」
攫われて、目を開けてみればそこはクレーフェの家の屋敷のように、趣味のよい部屋だった。
しかし、そこには窓ひとつなく、逃げ道はない。
扉もまた、外から鍵のかかるタイプで開かない。
「また、面倒ですね」
ため息をつく。ここは他国で、実家の影響は弱い。それに、クレーフェの手のものなら部屋に閉じ込めるような形ではないだろう。
リオンさんの吸血鬼や話に聞いた月の教団であれば抑えるべきは私ではない。
となれば、回復魔術か私自身か。
フルキュアは体の欠損すら直せてしまうし、キュアポイズンで解毒も可能だ。
貴族同士の"お付き合い"で役に立つ機会はいくらでもある。
もちろん、奴隷でもない自分を好きにすることはできない。犯罪だ。
だが、――バレなければ罪ではない。
そして、リオンさんの訴えで、貴族相手にどこまで動きがあるか。
「助けを待つわけにはいかなさそうですね……」
先生から贈られた髪飾りに仕込まれた、鍵開けの道具。
使うのは久しぶりで、腕が落ちてないといいですが――。
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鍵を開けて出た先は空気の冷たい石作りの地下室のようだった。
階段の先は鍵ではなく、魔術で封じてあり、開けるのは難しそうだった。
「準備がいい、という話ではありませんね」
閉じ込めておくための環境が充実している。目的が自分自身であることがわかり、身震いする。
出口ではないのがわかっていても、地下室の奥を探さなきゃいけない。
部屋の奥には――たくさんの動かない女性たちと――拘束された黒髪の女性が1人いたのだった。
「あなたは誰ですか」
「――来たわね。私は――勇者よ!」
力強い意志を感じさせる、剣のように鋭い光の宿った瞳。
リオンさんとは違う、光に反射して天使の輪を描く艶やかな長い黒髪を後ろでまとめた同じ年くらいの少女がいた。




