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吸血鬼だってチーレムしたい  作者: もこもこ
奴隷のいる生活
32/63

第32話 至高の宝石を手に

 

 女は美しい。


 アウグルクリス帝国の1人の貴族の子供でしかなかった自分にとって近くにいた女性とは母親だった。

 彼女は決して振り向くことのない父親に媚を売ることだけを考えて生きていて、「貴族たるもの、身分にふさわしい振る舞いをしなければならない」と言い続けたその言葉とはまるで反していた。

 建前と行動が全く一致していなくて醜いとすら思った。


 少年だったアードルフ・フォン・イェーリングは大人になり、妻を娶り、世界で一番美しいと思っていたはずの愛している妻が若い奴隷の女に嫉妬をむき出しにして鞭を打っているところを見てわかってしまった。


 人は老いる。人は汚れる。人は醜くなる。


 花を美しいと思うのは満開の時だ。

 ならば、美しいと思った瞬間から、花は汚れてゆくのだ。


 当主となり、力を得て最初にしたことは、妻がこれ以上汚れる前に救ってやることだった。

 これ以上汚れる前に。

 けれど、何かが違った。

 目の前に立っている妻は、以前に感じた感動がなかった。


 子供の頃から虫の標本を作るのが好きだった。大きくなってからは動物でそうしていた。

 狩りの趣味と合わせて自慢だった。

 そのすべてを行使したはずだったのに。


『完全な形で美しさを手元に置きたいとは思いませんか?』


 だから、獣人の商人を名乗ったくせにローブを深くかぶり顔を見せない男の言葉を聞いてしまったのだろう。


 永遠の美を手元におけるのなら。

 魂を対価にしてでも、その手段を得たいと思うだろう。


「そんな手段があるのか……?」


『ええ。大切な物がそれには抜けています。魂が存在しない。だから違うのです。抜け殻なのですから』


「抜け殻……」


 愛した妻の体は触れると自分を拒絶するような冷たさが返ってくる。

 これが愛していた妻だとは思えなかった。

 抜け殻。なるほど、そうに違いなかった。


『私は商人。あなたに感動を売り、あなたは私に僅かな対価を支払うだけ――』


 それは神に仇なす悪魔の囁きに似ていた。

 操られるようにうなずいた。けれどそれは自らの意志だった。


 --


 美しさを集めるため、見つけた美を永遠にするためには金と力が必要だった。

 人を、女を簡単に手に入れる方法。


 選んだのは、奴隷だった。


 元々は隠れて行われていた奴隷商。

 アウグルクリス帝国は多種族が暮らす国家だ。たくさんの"需要"を満たす奴隷は金になり、また、目的の相手を探すのに適していた。


 最初は自分の足で探さなければいけなかったが、次第に商人の方から気に入りそうなものを事前に見せに来るようになった。


 イェーリング領は自然と人が、金が、力が集まるようになり、収集は進んだ。

 屋敷の地下室では、20を超える最高の女達がその美しい瞬間を永遠のものとしていたから。


 魂を宿したまま、永遠に停まっている彼女たちは、触れることすらできないが、瞬間を切り取った美しさがあった。

 いや、むしろ自分が触れることで汚れることがなく、素晴らしかった。


 だが、最近はどうも質が良くない。

 仕入れられると噂されていた銀虎も事故で傷だらけだった。

 その商人は自分に見せに来ない気質の商人だったからわざわざ直接足を運んだのにこれだ。


 がっかりしながらも、掘り出し物を探すように、直接足を何度となく運んだ。

 美しいものとの出会いは突然であることもあるのだ。


 ――そうして、黄金にであった。


 怪我をしていたはずの銀虎が怪我ひとつない姿で笑っていた。

 けれど、そんな野良猫など、目にもはいらなかった。

 その隣で彼女を撫でる少女に比べれば。


 ああ、神よ感謝します。


 その姿を見るだけで感動で涙が流れた。

 あれこそが、求めていたものだと感じた。


 一分一秒が惜しかった。

 今すぐにでも、彼女を永遠にしなければならなかった。


 だが彼女は奴隷ではない。

 むしろ――貴族の娘だろう。アードルフは不思議と妻以外の貴族たちに美しさを感じなかった。

 美は彼らの外にあったから。


 なのに、本物は自分が見ないでいたところにこそあったのかもしれない。


 失敗は許されない。


 まずは彼女が何者なのかを調べなければ――。

 アードルフは今まで自らが培ったすべての力を使い、調べ始めた。


 その視線にいるのは、

 けれど、自分を求める視線に麻痺をしていたマリオンは自分に迫る危機に気づかなかった。


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