第29話 パーティーカースト最下位
商人がサービスとして持ってきた普段使いのできる衣服にシルヴィアは着替えた。
特段値の張るものではなさそうだが、作りがしっかりしており、どこか活動的に見える彼女に似合う、白のブラウスで、銀髪と褐色の肌の対比が映える。
ややきつめのピッタリとしており、胸に盛り上がって存在感を出していた。
頭の上にはやや丸みのある短い耳が生えている。
「シルヴィア、可愛くなりましたね」
「そうだね」
「ごしゅじんさま、わたしのことはシルとお呼びくださいにゃ」
「わかりました、よろしく、シル」
「ハイ!」
銀虎とネコ科のくせに、しっぽをぶんぶん振り回すようなマリオンを慕う態度。
まあ、大怪我を多い、腕を怪我して顔もぐちゃぐちゃ。
生きていく方法も価値も失い、人生に絶望していたところに手を差し伸べ、怪我を直してしまった上に美人なのだから、女神のように慕ってもおかしくない。
まさに、シルヴィアにとっては救いの聖女だろう。
俺としても、マリオンを裏切らないと言うのは予定通りだし、素晴らしいことだ。
「ところでシルって――」
「シルヴィアと呼べにゃ」
今までは甘えるような明るい声だったのに、ぴしゃりと冷たい声で訂正される。
こ、こいつ。
「シル。仲良くしないとダメですよ」
「わかりましたにゃー、ごしゅじんさま!」
マリオンの腰に抱きつくシルヴィア。
彼女は意識しているのか、俺とマリオンの間に入ってくる。
なにがにゃーだよ!
「じゃあ、シル、よろしく」
「――はい。リオン、シルと呼ぶことを許可しますにゃ」
小さく舌打ちすら聞こえてくる。
なんだとォ! 人の心だからしょうがないとはいえ、これはないんじゃないの!?
しょうにんさーん。よく仕えるって話はなんだったの!
いやもう、マリオンにはデレデレの好感度MAX状態だけども!
これほどにゃあが苛立ちをますとは思えなかった。
「そう! シル、よろしくねシル! ねえシル、いつまでマリオンにひっついてるの? 邪魔だと思うから離れたほうがいいと思うよ、シル」
「うぜーですにゃ」
「今うざいって言った!」
「なんかリオンさんが子供っぽくていいですね。……ちょっと絡み方鬱陶しい感じですけど」
「……ぷっ、なさけないやつにゃ」
口元に手を当て、ぷっと吹き出すシルヴィア。
おのれ獣め。
早速家庭内のパワーバランスを見極め、俺を自分の下においたらしい。
「俺だってご主人様じゃんか! なんで自分の下にしてるんだ」
「だって、リオンはわたしを見てびびってたにゃ。ビビるのは弱い証拠にゃ」
あのどすぐらい絶望に染まったように見えていた瞳の奥では冷静に品定めが行われていたのだろうか。確かに怪我の様にびびってたけど、それは弱いってわけじゃないんじゃなかろうか。
でも、マリオンは真っ直ぐ見ていたし、その点で差があるのは否めない。
「……まあ、実力はそのうち見せる時が来ますから、その時に。それまでは私が相手をしますね」
「あ、相手って!?」
「夜の、です。シルはリオンさんを認めてからでいいですよ」
「こ、こんな弱っちそうなチビにかにゃあ……でも、わたしが弱かったからしょうがないにゃ……? でも、子供を生むなら自分より強い相手が良かったにゃ……」
オーガに立ち向かったのは仲間を助けるためだが、勝てれば戦闘奴隷としての箔をつけ、良い条件で買ってもらえるんじゃないかと思っていたところもあったらしい。
少なくとも、大怪我をせずに勝っていれば俺達に買われることはなかっただろうから正しいかもしれない。
しかし、夜の相手なんて、シルヴィアが誤解しているじゃないか。吸血の相手なのに。
こっちを舐めているくせに、歳相応の少女なのか、その手の話には弱いらしく真っ赤だ。
「大丈夫ですよ、シル。リオンはあなたほどかはわかりませんが、とても強いです」
シルヴィアの銀虎と言うのはどのくらいの強さになるんだろうか。
オーガはBランクがパーティーで狩るようなモンスターだ。
日本の鬼に近い外見で、強力な腕力は鉄すらちぎるため、鎧の上からでも殴られると死んでしまうらしい。
タカシなら1人でも倒せるかもしれないが、相当な化物だ。
何か力があるのかもしれないがそれでもそんな相手を撃退できるのはかなりの強さだ。
「それはすごいにゃー」
全く信じていない目で口だけが肯定を示していた。
見た目はかわいいくせに、その舐めきった目は可愛くないぞ。
くっ、見返してやりたい。




