第30話 見返す方法
「にゃーんだ。たいしたことないにゃ」
マリオンの背に隠れてにゃっふっふと愉快そうに笑うちびっ子は俺のDランクプレートを見ている。
そのくせマリオンのBランクプレートにはさもありなんと誇らしげに眺めているのだからたまらない。
「なら、シルはランクいくつなのさ」
「にゃはっ、Cランクにゃ。でも、銀虎に変身すればBだって余裕にゃ。すごいでしょ、ごしゅじんさま!」
ほめてほめてーと顔をマリオンの胸に擦りつけて撫でての最速だ。
それだけを見れば金色の髪に雪のように白い肌のマリオンと銀の髪にコーヒーのような褐色肌のシルヴィアは姉妹のような態度なのに対比が聞いていて綺麗な光景だ。
ぼうっと二人を見ていると抱きついている自分を羨んでいると勘違いしたのかシルヴィアはニタリと悪い笑みを浮かべる。
「ランク上げたらリオンも褒めてもらえるんじゃないかにゃ~?」
このやろう。
お前なんてブラッドモードオンでぼっこぼこだぜ!
シルヴィアが新しく共同生活に加わって数日が立った。
最初はお互いに新しい生活になれるためと、特段ギルドに依頼を受けにも行かず、のんびりだらりとしながら、街を散策したり、必要な物を買ったりと過ごしていた。
仲良くしたい。
その気持はあるのだが、難しいのは、吸血鬼であるとおおっぴらにしたくないということだ。
見返したうえで、信頼を得てから明かすのと、吸血鬼の力を使って力ずくで認めさせるのは印象が段違いだろう。
だが、力を使わずと言われるとぐっと難易度が上がるし、この好感度の低さに加えて、吸血できない日ができるようになった。
シルヴィアはマリオンと一緒に寝ようとするのだ。
馬車生活と違い、屋敷ぐらしの今、血を吸いに行こうと思ったら、部屋に会いに行く必要がある。
女の子の部屋に夜訪ねると思うと、ドキドキするし、勇気がいるのでノックの前に廊下をウロウロタイミングを図りながらよしいくぞ、と思ってノックして入ると、シルヴィアがいるのだ。
マリオンのベッドの上で猫みたいにまんまるになって寝ている。
横に腰掛けたマリオンの手を愛おしそうに握ったまま眠る姿は無垢そのもので、あの生意気なあいつなのに、かわいいなあと感心しそうになるくらいだ。
でも、こんな中で吸血なんてできるわけがないし、起こすのも可哀想。
「どうしましたか?」
わかってるくせに。
すねそうになりながら、でも、起こして出て行かせようなんて言えるわけがないので、『おやすみを言いに来た』とかごまかしてズコズコ部屋に戻った。
2日も続くと、マリオンが逆に『おやすみを言いに来ました。ぐっすり眠れるおまじないしてくれませんか?』 とか笑って会いに来てくれた。
とは言え、できれば毎日堪能したいし――実を言えばシルヴィアはどんな味がして、あの生意気な猫は吸血にどんな表情を見せるんだろうと好奇心が騒ぐところもあるのだ。
だから、マリオンにこっそり血をもらって、俺はギルドで依頼をこなすことにしたのだ。
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「わたしの勝ちだったにゃ!」
「ぬぐっ」
シルヴィアは思った以上に強かった。短剣を両手に持ち、獣人特有のしなやかな体捌きを持って、一瞬にして最高速度に加速し、強力な足腰で静止を実現する。
その体術のせいで、まるで消えたみたいに後ろにまわり、体を斬りつけるのだ。
ゴブリンでは相手にもならなかったし、複数で現れたコボルト相手にもらくらく相手をこなしてしまった。乱入するように現れたオーク相手には『わたしのかっこいいところごしゅじんさまに見せるにゃ!』と虎に変身をして一撃だ。
子供の姿とは全く違う、銀色に黒の縞模様。いつか動物園で見たベンガルトラより一回り大きく、けれど顔つきは子供のせいかどこか幼く、誰もがかいぐりしたくなるような愛らしさがあった。
ただ、そのくせもう爪は獲物を切り殺せるくらいに鋭く、一撃で絶命させるくらいに深い傷を与えたのだった。
「オーガってこれに勝つのかあ」
「リオン! オーガじゃなくてわたしを褒めて崇めるにゃ!」
「綺麗な姿ですね。強いし、拾い物なんでしょうけど……困りましたねえ」
「えっ!? わたしどこかダメだったにゃ? ごしゅじんさま、直すから捨てないでほしいにゃ!」
どしんと、服従のポーズなのかお腹を見せてチラチラマリオンを見ている。
「私より、リオンさんと仲良くしてほしいんですけどね」
「ぐぬっ、……り、リオンさんと呼んでやるにゃ……呼びます…にゃ」
「リオンでいいよ、気持ち悪い……」
「おっ、そうか、助かるにゃあ」
「はあ」
ごめんね、マリオン。しつけのできない男で。
でも、マリオンがオーラすごすぎるからじゃない? ただ、マリオンへの気持ちはかなりのものだし、マリオンを裏切らないなら、マリオンが俺を裏切らないかぎり悪いことはしないんじゃないだろうか。
いや、悪い吸血鬼からマリオンを守らないとと考えて敵対する可能性はあるか。
恩を売る作戦は大失敗の形ではあるが、はしゃぐシルヴィアの姿は、あの絶望的な表情を浮かべていた時と比べると全くの別人で、それ自体は良かったなと思うのだ。
「シル、おやつだよ」
「わあい。リオンからもらうおやつでも、おやつは甘くておいしいにゃあ」
手作りのナッツ入りのクッキーを美味しそうに頬張るシルヴィア。
――だから、こうやってちびちび餌付けをするのだ。
「今日はギルドの酒場で大盛り海鮮丼だ! おごっちゃうぞー!」
「わあい、リオンはふとっぱらにゃあ」
マリオンは安い定食を選ばせ、俺は優しく魚料理を選ばせるのだ!
『地道ですけど、いいんですかね』とマリオンは呆れ顔だったが。
「いやあ、ご主人様は怪我を直してくれるし、リオンはお腹いっぱいにしてくれるし、わたしはしあわせにゃ」
「そりゃよかった」
「――ちょっとは、恩にきてるにゃ……ぁりがと…」
うつむいて気持ちが漏れたみたいなその言葉は酒場のガヤガヤとした音に飲まれているはずなのに、何故か不思議と鮮明に聞こえてきた。
そのくせそんなこと言われると思わなかったので、言ってしまった。
「え、なんだって?」
「なにも言ってねえにゃ!」
実は順調に仲良くはなれているかもしれない。




