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吸血鬼だってチーレムしたい  作者: もこもこ
初心者吸血鬼生活
26/63

第26話 タカシお兄ちゃんと呼んでくれてもいいんだぜ?

 

 冒険に行こうぜ! と言って無理やり肩を抱いて連れだした割に、行き先はゴブリンが多いという森ではなく、防具屋だった。

 今までどうやってたんだ、動きやすいほうがいいか、趣味はなんだとまくし立てるように質問を投げつけられて、答えるのに精一杯になっていると、いつの間にかあたりで取れる魔物の皮を利用した丈夫な革鎧を着ていた。


「あら、似合うわね!」

「可愛いのもいいわね」

「黒髪同士だから並ぶといいわね!」

「二人を見てるとドキドキするわ……」


 Bランク冒険者タカシの取り巻きは全員女性で、順番にイウネ、マル、メル、ピテル。

 タカシは18歳くらいで、彼女たちは14~18位だ。イウネが一番若くて、ピテルが一番大人だ。そして腐ってそう。


 最初はマリオンにご執心という感じだったくせに、マリオンはほとんど彼女たちと話してるだけだし、タカシは俺にベッタリだ。

 なにがなんだかわからない。


 だが、経験豊富なのは間違いないらしく、選んでくれた防具はぴったりだし、使いやすそうだ。

 冒険に持ち歩くべき装備や、注意することなども、真剣に話している。

 いいところを見せようというよりはミスをしないようにしっかり詰め込もうとしていて、困惑するばかりだ。


「ふっ、装備を整えればDも一端の冒険者に見えるな」

「え? ほんと?」

「ま、可愛い顔してるから、全然威厳はないな!」

「……言っておくけど、俺は男だからね」

「男の娘か。ふっ。なしってほどじゃねえ……かな」


 そのセリフにすっと二歩下がった。

 女だらけのパーティーなのに、本気なんだろうか。なんて奴なんだ。


「ふーむ? まあ、装備の試しに行こうぜ。なあに、男は度胸。やってみるもんだぜ」


 彼の中でなにがあったのかわからないが、過剰な友愛的な態度にため息をつく。


「でも、見た感じ悪い人ではなさそうですね。新入りの……女性が一名以上いるパーティー限定みたいですが、助言と初回の依頼についていっているそうです。彼女たちの何人かはそれが元で今も一緒にいるみたいです」

「女性の冒険者って多いの?」

「なる人ならそこそこ。ただ、まともにやっていける数は少ないですね。魔術師は数が少ないですから、剣で、ということになりますけど、力は男性のほうが強いですし、長くやれる仕事でもありません。つぶしもききませんしね……」


 農村から仕事がないとか憧れで街に出てきたけど、ろくに仕事がなく、採取メインの冒険者へ、というパターンは多いらしい。

 だが、才能が目覚めない場合はその日暮らしの生活から抜けだそうと夜の世界や、討伐メインの仕事を選び……無理をするケースが多いらしい。

 タカシは仲間からそんな現状を知って、大変なのはわかっているのに、ナンパついでに声をかけているとか。

 とはいえ、男にも親切にするのは珍しいと言っている。


 14歳の生意気盛りが入った年齢になったはずだが、お母様譲りのかわいい外見は今でも変わっていない。女と間違うほどではないはずだけど。


 --


 タカシは本当に強かった。

 日本育ちの冒険者なんてろくなもんじゃないだろうなんて思ってたのに、ゴブリンの剣をもろともせず、するりと受け流して返す刃でたたっ切っていた。


 ゴブリンを倒す姿といえば従姉のエヴァのほうが力にあふれていて、早かったように感じたが、タカシからは妙に無駄のない綺麗な剣筋に感じられた。


 それに魔術だ。


 闘いながらも、炎が、水が、風が、土がゴブリンを焼き、足を滑らせ、素早く、そして守りを固めるのだ。攻防一体で危なげがない。

 うまく戦っているな、というのが感想だ。


 強力な力で押し通せば勝てそうだが、ブラッドモードでなければ勝つのは無理だろう。

 そもそも、属性は三属性までなのに、一人ですべて使いこなせるなんてずるいなんてものじゃない。

 闇に不満があるわけじゃないが……


「おっ、闇は行けそうだな。ダークミスト!」


 横から襲いかかってきたゴブリンを闇の霧が囲み、戸惑う敵を切り捨てた。

 闇の魔術まで使えるのだろうか。もしかしたら全属性を使える?


「ふっ、驚いたようだな。そう、これが俺の力。俺のことを信頼してくれた仲間の属性を使うことができる…フレンドパワー……そう、友情のタカシとは俺のことさ――なにげに気を許してくれたみたいで嬉しいぜ。タカシお兄ちゃんと呼ばないか?」

「こっ、断る。兄ちゃんとか絶対呼ばない」

「いいぞ。リオンには弟の才能があるな。俺の弟もそうやってツンツンしてたぜ。かわいいなぁ」


 頭を撫でようとするのですっと走って逃げる。

 するとジリジリ追いかけてくる。『まるで猫のようなやつ』と顔をほころばせながら言っていたが、絶対猫に好かれてない人種だ。


 密かな追いかけっこを終えて、ギルドで精算を終えた瞬間に、俺はマリオンの手を掴んで家に戻ろうと催促する。


「今日は楽しかったぜ。また一緒にパーティー組もうな」

「機会があったらね!」

「おっと、これは脈ありだな」


 ない。出会った瞬間の女にだらしなさそうな姿は消え、弟に甘いのにうっとおしがられるタイプのダメ兄貴のイメージに変わっていた。


「ああ、そうそう。俺は帝都で勇者とか言われてこの世界に呼び出されたんだ。と言っても、楽しく生きる気しかないから断って出てきたけどな。でも、俺と一緒に呼ばれたふたりは真面目ちゃんだったから、悪さしてると切り飛ばされるから気をつけておけよ」


 びっくりして振り向いた時にはタカシはもうギルド内の酒場へ歩いて行き、女の子たちもわいわいと笑い合っていた。


「……バレてた?」

「カマかもしれませんよ。でも、バレた理由なら彼の不思議な能力のせい、ですかね? 全属性を誰かから借りてでも使えるとは思いませんでした」

「うん」


 勇者とはまた物騒な響だ。

 確かにこの世界には魔王がいるのだから、勇者がいてもおかしくはない。


 だが、別に魔王国の国王というだけで、絶対君臨者というわけでもない。悪魔王はそれらしいが、統治は完璧だ。勇者が戦うような相手じゃない。


 二人の勇者に会う事にならないといいなあと願う。


「マリオンは……タカシのことどう思った?」

「どうしたんですか?」

「ああいう関係もあるんだなって」


 タカシは自分の力で、女性を守っていた。

 いざとならないと尻込みする俺よりはだいぶ男らしい態度だと思う。

 彼は、何故か最後は俺の方に興味を持っていたみたいだが、最初はマリオンを狙っていたのだ。


「後ろで応援だけして、守られる大勢の中の一人っていうのは嫌ですね。甲斐性はあるんでしょうが」


 マリオンが彼女たちに混ざってタカシを応援している姿を思い描くと――胸がいたくなるのを感じた。彼は光魔術が使えなかった。それが気持ちの答えなのに、想像するだけで苦しくなるのだ。


「今日はがんばったし、血を吸ってもいいですよ」


 結局毎日吸っているのに、マリオンがそんなことを言う。

 でも、自分から吸わせてくれるのは初めてで、だから、俺は彼女に甘える事にした。


「うん、楽しみだな」


 こうして帝国での日々が始まった。

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