第27話 奴隷を購入しましょうか?
新しく住むことになった屋敷のマリオンの部屋。
まだまだ私物も少なく、なにも変わらないはずなのに、甘い香りが鼻腔をくすぐる。
夕食後に、最近は量を控えめにしていた吸血の量を、初めてマリオンから吸っていいよと言ってくれたことに感激してぐっと吸い付いた。
何度吸っても飽きない、甘美な快感。
何よりも満たされる不思議な魅惑。
満足気に首から口を離す。
首筋についた2つの赤い点は、まるで繋がりの証のようで、見ているだけで心が満たされる。
なのに、最近は慣れてきたのか触れないでもマリオンは癒せてしまうようで、眺めている時間もないうちに塞がってしまう。
「すい……すぎです……」
普段は少し遠くを眺めながらぽうっと余韻にひたりながらお互いに体重を預け合う楽しい時間のはずなのに、マリオンはぐったりとしていて、今にも倒れそうだ。
「ごめんなさい」
ベッドに抱きかかえて、マリオンを寝かせ、お湯を沸かして紅茶を用意する。
真っ青になっていた顔色はだんだん落ち着いてきた。
「……私一人でも大丈夫なのかな? とか思ってたんですよ。最近は慣れてきましたし。血ごと魔力を吸われるせいでほとんど魔力がないから冒険では気をつけないといけないな、と思いつつまあ、気をつけて使えばなんとか……なんて。でも無理ですね。これを続けたら死にます。ヴァンパイアになっちゃいます」
「いや、その、次からはまた、控えれば……」
「でも、満足する量ではないわけですよね? それにもしかしたら今後成長して必要量が増えるかもしれませんし」
その可能性は充分ある。
血の力が満ちてないとブラッドモードになれないし、『普段の力もお腹が空いて力が出なーい』感じになる。暴走する危険性もあるし、そもそも、血の力を使うと血が吸いたくなる。
今後力を使いこなせるようになっていくなら、ちゃんと供給できるようになる必要がある。
「でも、どうやって?」
血をくださいと言って捕まらないのは献血くらいだ。
昔は売血ということで、ボランティアな献血に対価を払っていた時代もあったらしいし、この世界でそれをすることも可能かもしれないが、まあ、『血を買うので売ってください』といえばなんでいるのかと聞かれて『吸血鬼だからです』 と答えればお尋ね者になれるだろう。
マリオンみたいに吸血鬼を受け入れてくれる奇特な人間がいればいいのだけど、あてはない。
タカシだって、『おにんちゃん、血をちょうだい?』と可愛く言っても断るだろうし、男の首にかじりつきたくない。
「実は、サトウさんのパーティーの一人は奴隷だったそうです。なんでも、隣町では奴隷市場があるらしいですよ。お金はありますし、一度顔を出してみましょう」
「ど、奴隷!?」
「アルカード家にはいなかったんですか?」
人出が足りないのでアルバイトを雇いましょう。その程度の響きででた奴隷という単語にビビりながらも、どうやらそれが文化らしい。
実際、地球でもあったわけだし、この世界であってもおかしくない。
特にこの国の場合は亜人種も奴隷として売り買いされるらしい。
「あんまり子供は困りますけど、大人で侮られても困りますから、私と同じか下の女の子ですかね」
エルフや、けもみみ、猫耳っこがいるのだ。別段それにぞっこんなわけではないが、ファンタジーの醍醐味ではある。生まれてこの方、ヨーロッパ地方に転生しただけみたいな穏やかな生活をしていただけに、ちょっと高なるものがある。
男としても、ちょっとねえ?
「……やらしい顔してますね。釘を刺しておきますけど……」
いつの間にかヘラヘラと緩んでしまっていた。
そんな俺をしょうがないものを見るような目で見るマリオン。
「リオンさんは自分が吸血鬼だってこと、わかってますか?」
「いやそりゃ、わかってるよ。自分のことだし」
吸血鬼の習性は実体験している自分がいちばんわかっている。
少なくとも、知識で知っているだけのマリオンよりは詳しいと言ってもいいだろう。
だが、そんなの当たり前の話じゃないだろうか。
「目をつむって想像して欲しいんです」
「ハイ」
「とあるところに、奴隷になった黒髪の美しいエルフ少女リオンちゃんがいました」
「俺なの……?」
「リオンちゃんが奴隷なのをいいことに、ご主人様のオークは好き放題です。毎日寝屋に連れ込まれてちゅっちゅされます。最初はすごい嫌だったのに、ちょっと気持ちいいかもとか思ったりもします」
「ちょっと、想像させるようなこと言わないで欲しい」
「このままじゃもしかしたらオークの子供を生むことになるかもしれない。いや、なる。リオンちゃんはそんな毎日が嫌になったのですが、屈強なオークから逃げるのは難しい」
「おのれオーク」
「ですが馬鹿なオークはローブを着て生活費を稼ぎに冒険者ギルドに行くと言い出しました。オークは冒険者に取って討伐対象です」
「チャンスじゃないか!」
「そうです。リオンちゃんは馬鹿なオークに可愛らしく『手伝いたいの』とお願いをして、冒険者ギルドに付いて行きました」
「おお!」
「冒険者ギルドで依頼を受けようとしたオークのローブをリオンちゃんは剥ぎ取ります!『みんな、こいつはオークなの!』裏切られたオークは冒険者に囲まれ、死体になり、リオンちゃんは自由を得たのでした」
「良かった……俺助かって」
実際、冒険者を目指して無理をした女性の中にはオークやゴブリンに捕まって……というケースは多い。
男は殺されるだけなのだから、チャンスがあるだけいいのか悪いのかはわからないけど、オークの子供を生むなんて考えたくもないのに、マリオンの声は妙に頭に入ってくるので、お腹を膨らました自分まで想像してしまった。
女顔であっても、そんなの嫌だ。オークは死んだほうがいい。いや、あったら倒す。
というか、一体何の話なんだろうか。
「で、奴隷をリオンさんに置き換えましたが、このオークも吸血鬼のリオンさんのことです」
……。オークと吸血鬼に似ているところはあるのだろうか。
・嫌がる奴隷を好き放題する(血を毎日吸う)
・吸いすぎれば相手を吸血鬼にしてしまう。(子供を生ませる)
・普段はローブを被って顔を隠してる。
・冒険者ギルドに顔をだす。
・討伐対象である。
……! 俺はオークだったのか!
ごめんなさい、リオンちゃん。って俺だ!?
まあ、なんて喩え話をしてくれるんだと思わないでもないけれど、吸血鬼が奴隷なんて持つものじゃないというのはひしひしと伝わってくる。
実際マリオンがいなければエルフのかわいい女奴隷を買って、血を好き勝手に吸った挙句裏切られてギルドで袋叩きに会う未来が見える。
奴隷なんて都合がいい! と思ったが、別に奴隷は裏切らないわけではないよね。
そりゃそうだ。彼らだって人間なのだ。虐げられる位なら許せても吸血鬼になったり、オークの子供は産みたく有るまい。
「うう、そうなのか。じゃあ、奴隷はダメだね……やっぱり控えてマリオンに頑張ってもらうしか……?」
結局結論が元に戻って、じゃあ、マリオンは一体何が言いたかったのか。
「いいえ。奴隷を買いにいきますよ」
……つまりどういうこと?
何処か言い負かしてやったみたいなドヤッと可愛らいい笑顔を浮かべたマリオンの言葉に俺はただひたすら混乱するのだった。




