惑星ヘレン
ヘレンまでは30時間ほどで到着した、結局最後まで私たちは棺桶の中だったが、独房程度の設備があったし、食事もとれたので体力的にも問題はない
降りるときにまたあの軍人に会うのは憂鬱な気分だったが、それはなかった。私たちを尋問していたヘレン魔法協会支部の人事部長が私たちを導いてくれた。部下も入れると10人近い人に囲まれながら宇宙港を移動する。部下の魔法使いと思われる人たちはなにか落ち着かないような雰囲気だ
そのほとんどがこちらをちらちらと覗いてるのがわかった。
まさかまた棺桶に通じる設備に押し込められるんじゃないでしょうね?
なんともやるせない気分だったが、大型車両に全員が乗り込みおわったとき、それが杞憂だとわかった
「始祖様って、どんな方だったの?」「絶世の美女って噂もあるけど、どうだった?」「魔力はどれくらいあった?」「特殊な魔法ってどんなだった?」「何日始祖様と過ごしたの?」
一斉に質問の嵐。そういえばそうだ、私が逆の立場ならやはり聞きたい事だらけだろう
「みんなの気持ちもわかるが、どうかね?」
全員の行動を制止して部長が尋ねてくる。質問に答える気があるのか?という話だろう
ちょっと気おされ気味に答える
「わかる範囲でならお答えしますが・・・」
宇宙港から協会支部までの道中は雑談会のノリでみんな砕けた話ができた
おかげで私の警戒心も薄れたし、人事部長という人の性格も結構理解できた。あまり上下を意識しないカジュアルな人のようだ、部下の人とも冗談を言い合うようなそんな彼が私も上司に欲しいと思える
だが、協会に到着した途端、みな厳しい顔つきに変わりテキパキと行動をする
オンオフの切り替えがしっかりしてる
協会の構造はエルトナと大差ないように思える、ちゃんと私たちが所属しててエルトナでは撤廃された査察部もある。私たちが通されたのは支部長室の近くの応接室。ここまでの待遇からしたら破格の好待遇。中央からもう返事がきたのかな?
「おかけなさい」
とてもやさしい感じの上品なおばさまに促されて上質のソファに座る
「ここまでの無礼は許してね、私がヘレンの支部長、エルザ・フィッシャー・ディースカウです」
上品なおばさまはそう自己紹介した。うわ、天上人にも思えるような身分差があるじゃない
「エルトナ査察官、アルベルタ・アデナウアーです」「同じくアレックス・アグリエッティです」
「エルトナの現状については、あなた方を迎えにいくのと同時に上空からの観測はしてみました。向こうに何人か調査隊を降ろして詳しくも調べていますが、あなたたちの報告との差異はまだ認められていません。恐らくあなたたちは事実を正確に話してくれているのでしょうね」
「はい、多少誇張になっている部分はあるかもしれませんが、嘘は言ってません」
「その・・・エルトナの協会が一部機能を撤廃したのは知ってましたが・・・・始祖様はそれだけの事で惑星ひとつ丸々人を消したのですか?その考えの魔法使いだけ除外すれば済むように思うのですが・・・」
「全ての人が、その社会を受容してしまったのがダメなんだとおっしゃってました」
「そうですか・・・」
「なにか問題になるのでしょうか?」
「少々ね、これから魔法使いに対する・・・その・・・人々の反応がどうなるのか見当がつかなくて」
それは理解できる。いくら受容してしまったとはいえ、たかが一部門を撤廃しただけの魔法使いの道連れに自分たちも巻き込まれて人外にされてしまうなんて、納得できない人もいるだろう。でも、その一部門の撤廃さえなければ問題にならなかったのも確かなんだし、現状危うい魔法協会支部なんてそう・・・・・・
あるのかな?
「あの、もしかしてヘレンでも監査部門撤廃の動きがあるのですか?」
「いえ、ここは大丈夫だけど、そう動き出している支部はあちこちにあるらしいわ。ほとんどが辺境の惑星国家だけど」
「そういえば、始祖様は同じ轍を踏まないようにエルトナを改造するともおっしゃってました、それらの動きを始めている惑星国家に対する見せしめのようなものだったのではないでしょうか?」
「そう理解してみなが思い留まってくれるとよいのでしょうね、兎に角このことは広く全世界に知らしめる必要があるんだと思うの、あなたたちには悪いけど」
「いえ、始祖様に言われてますので、それなりに覚悟はしています」
「それは助かります、ではすぐに出発してください」
「はい・・・・え?」
いつの間にかまた大勢の人に囲まれて移動することとなる
まだヘレン魔法協会支部にきて20分と経ってない。宇宙港に行くのかと思ったら向かった先は軍港だった
今は内戦でも起こっているのか?と思うほどの物々しい警備のなか、私たちは一切のチェックを受けることなく重層装甲車と思われる車でそこに入り、そのまま大きな戦艦と思われる宇宙船に車ごと乗り込む
所定の位置と思しきところに車が停まると周りの床から爪のようなものが起き上がり車を固定する
「このまましばらくお待ちください」
車の運転手がそう言って椅子に深々と座り直す
なぜかはすぐわかった。低い唸り声のような響きと感じられない程度の揺れとともに車が傾き始めたのだ、戦艦型宇宙船が軍港を発進したのだろう
この規模の宇宙船は普通地上に降りたりしない、魔法の素材で作られた重力発生装置のおかげで発進こそできるがコストがバカにできないからだ。だがそれを行うということは、それだけ重要な案件が進行しているのだろう。まさかそれが私たちとは思わなかったが・・・
5分ほどして傾きなどが感じられなくなったころ、車のドアが開いた
出ようとして息を飲む。30人はいるであろう屈強そうな軍人が敬礼をしながら左右一列に並んでいた
その奥にいた白髪の精悍なおじ様がこちらにきて話し出す
「ようこそ、戦艦クランベリーへ、歓迎しますよ、私が艦長のベルマンです」
「お世話になります」「アレックス・アグリエッティ元二等兵です!」
ふと横を見るとアレックスが直立不動で敬礼している。
「アレックス君、緊張することはない、君は今お客様なんだからね、さて、おふた方にはこちらの部屋を使っていただこう、何か不足の物があればなんでも彼女、ベルトワーズ少尉に言ってくれたまえ」
あてがわれた部屋はかなり高位の者のための部屋だ、脱出シャトルに近いし結構な広さもある
自由に使ってくつろいでくれ、と艦長は職務に戻ったようだ。私たちはソファに座って一息つく
が、なんか落ち着かない・・・
「あの、こちらに一緒に座りませんか?」
ずっと入り口で後ろ手に直立してるベルトワーズ少尉に声をかける
「いえ、お気になさらずに」
いえ、気にしないほうが無理ですって・・・そんな私の気持ちを理解してかアレックスが
「ではそちらのデスクに座っていてください。これは命令です」
そう言うと、ベルトワーズ少尉はソレに従って簡易デスクに座る
私はアレックスをじとっと見つめてひとこと
「そういえばアレックス、元軍人だったの?」
「言ってなかったっけ?亜空間通信機なんかの取り扱いも軍で仕込まれたんだよ」
「聞いたことなかった・・・」
ここ何日かで垣間見たアレックスの意外な一面はその言葉で全部理解できた
アレックスと組んで仕事を始めたのは2年も前になる、それまで軍に所属していたなんて知らなかったし、そんな風にも見えなかった。落ちこぼれだったからね。と言われてなんとなく理解できたが
宇宙船内部の見学は結構させてもらえた、もちろん兵装に係わるところはNGだったが私もエセ軍人程度の知識を得るくらいに教えてもらった、教官がアレックスなのが残念だけど
私たちは中央魔法協会に向かっているらしい。普通の旅行者なら半月はかかる行程だが、私たちは軍の戦艦をチャーターしてるので一週間ほどで行けるとのことだ。娯楽施設がないので、いささか退屈ではあるけど
一度外が見られないか聞いてみたが、見ても面白くないと言われた、そうはいっても見たいものはみたい、なんとか頼んで見えるところにつれてきてもらった。
「うわあ、やっぱり星から見る夜空よりすごく綺麗・・・」
「それと比較すると綺麗ですが、それだけです。見慣れてしまうと全く面白みもありませんよ」
案内兼監視役のベルトワーズ少尉はそう言うが、なんと贅沢な、私たちのような一般人は宇宙に出るだけでもかなりのイベントなんですから。ましてやこんな風に外が見られるなんて、ありえないほどの事。一生の宝にできるレベルですよ
しばらく見てるとベルトワーズ少尉やアレックスは早々と飽きてしまったのか、奥の席で雑談をしてる。
「彼女は結構な魔法の使い手でね、ああゆう特殊な感性も影響してるんだろうね」
「優秀なのですか?」
「ココだけの話、始祖様によれば人類に二人目の魔法開発者になれる素質があるそうだよ」
「それは凄い事なんですか?」
「始祖様と同レベルの重要人になれる可能性のある人だよ?凄くない?」
「なるほど、それは凄いですね」
ベルトワーズ少尉は魔法的素質は全くないそうだが、魔法使いがどういった者なのかの教育は受けている、その有用性も知識として知ってるだろう
特に医療面での魔法は凄まじい、それまでは見捨てるしかなかった重症者でも魔法で生き延びた人も多いし、外科などほとんど魔法に替わった。お世話になったことのない人など皆無だろう。軍人ともなればなおさらだ、恐らくこの戦艦にも一人は乗り合わせているはずだ
アルベルタはそれ以降も、時間があるとこの部屋にきて外を眺めていたらしい。星の位置など、通常航行中は変化がないのに、それこそいつまでも見ていたそうだ
やがて地球の近くまで戦艦はやってきた。外ばかり見てるアルベルタの話を聞いた艦長は、後ろにある主推進器で制動をするので180度の回頭をするとき一番ダイナミックに動くから見応えがあると教えてくれた
まあ、それがなくても私は見てただろうけど、艦長の計らいか、回頭中青く光る星が見えた
「あれが地球?」
「はい、人類発祥の地です」
このときばかりはベルトワーズ少尉も感慨深げに外を見ている。青く美しい星、全ての人類はここから広がったのだ、そう考えると確かに思うところがある・・・




