中央魔法協会
地球に来てからの私は多忙を極めた、秒単位のスケジュール、移動などは最速の手段が用いられその僅かな時間で食事を済ませて、場合によってはインタビューも移動中だったりする
だが、そこで話される事はまるでテンプレートのように統一されていた。始祖様のこと、エルトナが辿った運命。そして監査を撤廃するとそうなるということ。
初めはそれこそ時の人としてスターのような扱いを受けていたが、半年も過ぎるとそこそこ暇な時も出てくる。そして今日は久々のオフの日だ
今日は街に出て普段着になる冬服を買いに行こうと思ってたのだが、アレックスは仕事があるらしい
なんだか芸能人になったように多少顔の隠れるサングラスでもしておけば問題ないでしょう
お昼過ぎから街に出てあれこれと店を見て回る、私だって女ですから、ショッピングは好きですよ
目的の物を買い終わり、ホテルに届けるよう手配して夕食をどうするか・・・
「久しぶりにお酒でも飲みたいな」
結構人の多そうなオシャレなバーに入った
人が多いだけあって料理はおいしいし、お酒の種類も豊富だ、気持ちよくほろ酔いでいると隣の男が声をかけてきた
「アルベルタさんだね」
せっかく気持ちよく酔ってたのに台無し、バーで個人を特定しないでよ。帰ろうとすると男が更に
「大戦前の魔法書を見たくないか?」
なんですか?そんなもの魔法協会が全て処分してるに決まってるでしょ?騙すにしてももうちょっと現実味のある話をしなさいよ!
そういった物は確かに存在していた、全99巻となっている魔法書は大戦における戦闘にも使われた魔法が多く記載されていて、これを放置していてはそれこそ全滅しかねないと魔法協会に集められ処分された
そのときに使っては危険なものを禁法として魔法協会の奥深くに眠らせ、使って問題ないものや生産などに欠かせないものなどを新魔法書として刷新されたのだ
それから300年以上経った今でも新たな魔法が追加されているが、新魔法書はまだ87巻しか発行されてない。つまり大戦前の魔法書のほとんどが禁法なのだ
正直、それが本当にあるのなら見たい。いや、見つけて魔法協会に提出するべき違法物品だ
男の方を見て顔を確認する、整った顔立ちのちょっと気弱そうな青年に見えた
「貴殿が優秀な魔法使いだというのは知ってる、魔法協会は隠すことに長けているが、本来なら活かして使うべき魔法まで隠している、貴殿ならその判断もできるんじゃないかな?」
ここは言われるままついていって本当にあるのなら接収するところだが、単に私を誘い出すエサかもしれない。むしろエサの可能性が高い。アレックスもいないのだから無茶はしないほうがいいだろう
「バカ言ってなさい」
一言残してこの場を去ろうとしたら、彼は私にカードのような物を差し出した
「今すぐなんて言わないよ、私だって貴殿に信用されてないわけだし、それなりの準備も必要だろ?・・・でも、その気になったらここに着てくれればいい、怖いなら相棒と一緒でも構わないが、そのときは魔法書の事は内密に頼むよ。貴殿にだけ見せたいんだ」
そう言って送り出す仕草をする。アレックスと一緒に行ってもいい?まっとうな場所なのだろうか?
カードを良く見るとAtのデザイン文字がある、アテリアルテラフォーミング?すごく有名な会社だ。偽物の可能性も否定できないが、このカードが偽物だったら偽造罪が適用される立派な犯罪だ
もう一度彼のいた所を見たが、既に見つけられなかった・・・・
ホテルに戻ってカードをリーダーに通す。本物なら会社の位置や入場手続きの方法が表示される。入場の時にはこのカードが鍵になり、誰から招待されたか?などが向こうでわかるようになっている
そしてそれらの情報が表示された。つまり本物ということだ
有名な一流企業が違法物品を所持してる?恐らく私がそのことを訴えてももみ消す事ができるだろう、まだ私はその証拠を掴んでいないのだし・・・どうしよう・・・あれこれ悩むが、ここはやはり一度覗いてみるしかないように思える
アレックスは連れずに・・・やはりここが引っかかるんだよね、私一人でも下手な軍人くらいなら相手にできる自信はある。でも、一流企業となると戦闘可能な魔法使いだっているはずだ。その程度がわからなくては負ける可能性だって低くはない。なにか逆転可能な武器があれば大丈夫なんじゃ?
でも、そんな物持ってない。一時間ほどあれこれ考えて結局結論が出ないうちに寝てしまった
それから一ヶ月が経った、私たちの所属していたエルトナは5年間封鎖されることに決まり、監査部門の撤廃を考えていた辺境惑星国家の魔法教会支部はその計画を破棄、全て丸く収まった
そうなると私たちの処遇が問題になる。中央魔法協会は元の部署、監査部に入るよう誘われ、断る理由もないので快く受諾。晴れて中央魔法協会監査部員となった。(お給料もちょっと上がった)
「みんなも知ってると思うが、エルトナで監査部に3年籍を置いていたアルベルタ・アデナウアー君とアレックス・アグリエッティ君だ、仕事はわかっているが、地球と他惑星との違いを教えながら仲良くやってくれ」
中央監査部は人が多い、中には魔法を使えないような人もいる、彼らは地方との連絡が主な仕事の人たち、事務方と呼ばれてる、対して私たちは実働部隊になる。エルトナでは実働部隊は二人一組だったが、ここでは5人一組になるらしい。
「いやあ、私たち3人しかいなかったからぁ、いつも手伝いばっかだったのよねぇ~。ちゃんとしたチームが組めて嬉しいかぎりよぉ」
「その分担当区画ができて暇が減るけどな」
「給料もらってんだから、ちゃんと仕事しろ!」
私たちと組むことになった3人は魔力こそ高かったが、それほど高度な魔法は使えない。言ってみればアレックスが3人増えたようなチームだった
「お前なんか失礼なこと思ったろう」
アレックスがぼそりと呟く、鋭いわ
「んじゃ、コレ支給しとくね」
?なにこれ?見ようによっては銃に見える小さなエル字型の箱を手渡された。
「それはねぇ相手が魔法を詠唱し始めたら、そっちに向けてスイッチ入れるの、そうすれば相手の詠唱を邪魔できるって機械、通称ジャマー」
「え?そんなことができるんですか?」
「できるよぉ~、じゃなきゃ私が監査部の実働部員なんてなれるわけないじゃん」
同じチームになった女性が笑いながら説明してくれた。へぇ、今はそんな機械があるんだ・・・
!これは魔法使いに対する武器だ、私は結構難易度の高い魔法も使える、でも、魔力はそれほど高くない。同程度の魔法を詠唱した場合、魔力の強いほうが勝る。恐らく魔法が使えない人でもそれくらいわかるだろう。そう、戦闘可能な魔法使いが居た場合、アドバンテージは向こうにあるのだ。私が一人でアテリアルテラフォーミングに行くのを躊躇った理由はそこにあった。だが、これがあると一発逆転!私にも分がある
「ねぇ、これ当てられるとどうなるの?」
「なんかねぇ、酔ったようになるそうよぉ。耐性がある人でも10分は何もできないらしいしぃ」
「ちょっとやってみてくれない?」
「え?誰に?」
「私に」
「え?えぇええぇ?なんでぇ?」
「命に係わるものじゃないんでしょ?ならどうなるのか体験してみたいの」
彼女がイキナリ顔を寄せてきて小さな声で聞いてきた
「あなたマゾ?」
「違うわよ、本当に効果があるのか知りたいの」
「でもぉ、私恨まれたくないしぃ。同僚に向けたくないわぁ」
「いいからお願い」
有無をも言わさず私は火炎系魔法の詠唱を始める、ありったけの魔力を込めて
「えぇ!ちょっ!!!」
彼女は驚いたようにこちらにそのジャマーを向けてスイッチを入れる
うろろろろろろろお!
イキナリ吐いてしまった。まるで二日酔いと乗り物酔いと船酔いを足して5をかけたような気持ち悪さ
「なる・・・うろえぇぇぇ」
感想をしゃべろうとして、また吐いてしまった
「あ、しゃべっちゃダメ、しばらくじっとしてて。ほんとに無茶するねぇ。耐性がない人だと1時間は使い物にならないんだよぉ」
私は耐性のない人だったらしい、というか、耐性あってもこれじゃ魔法詠唱なんて無理に決まってる
その効果を体験したなら信頼度も高い。次の休みにアテリアルテラフォーミングに行ってみよう
そう思っていたけど、休みまでに行われた訓練がハードだった、はっきり言って体が動かない
それでも昼まで寝てたらなんとか起き上がれた。騙すわけじゃないけど、アレックスも私があれだけハードな訓練を受けたあとなら一日中寝てると思っているだろう。そう話しても疑われない自信がある
玄関でタクシーを拾い、アテリアルテラフォーミングへと告げて運転手にわからないように自己活性の魔法をかける。あとが怖いけど、もしかしたら本当に魔法書が見られるのかも?という期待が私を突き動かしていた
20分ほどで120階建てくらいの立派なビルの前に降りる。手前の植栽の中に(アテリアルテラフォーミング社)の看板があった。これ全部自社ビルなのだから、本当に一流企業だ。玄関ホールから受付にカードを見せると右奥のエレベータを案内された。最近寒くなり始めたから、上に武装を隠すブルゾンを羽織ってても怪しまれることはなかった。エレベータのパネルにカードをかざす。まるで待ってたかのように扉が開き、一瞬躊躇したが中に入る。ここからが本番、ジャマーの確認と安全装置を外す。たとえ見えないところで詠唱を始めたとしても魔力の波動は感じる。そちらに向けてジャマーのスイッチを入れるだけだ。
私が訓練所で受けたジャマーは最低出力だったらしい、それでもあの効果だ、念のために中くらいの出力まで目盛りをあわせておく。これで準備はばんたん、どれだけこちらが不利でも跳ね除けられる
エレベータの扉が開いた、そこにいたのはあのときの青年唯一人。まわりに壁などなく、他に誰もいないのは一目瞭然だ
「やあ、貴殿が来るのを一日千秋の思いで待っていたよ」
拍子抜けだ、どんな罠がしかけてあるのかと思ったら全くなにもしかけてない。意表を突かれたとはこのことか?いや、それでも彼は私を知っている。私が魔法使いを取り締まる監査部の人間と知っていながら所持するだけで違法な物を見せると言っているのだ。意図が読めない・・・
「どうゆうつもりか知らないけど、一度騙されたと思ってきてみたわ」
「騙すもなにも、あそこで言った通りだよ、魔法協会が違法と言ってる物が果たしてそうなのか、貴殿に判断して欲しい。それだけさ」
まだ胡散臭さは拭えない、でも・・・あぁ!あれこれ考えても仕方ない
「で、物は?」
「こちらにどうぞ」
一応ポケットの中のジャマーをいつでも作動できるように手に持ち、彼の後ろについてゆく
ホールから少し離れたところの扉の前に立ち
「ぼくはどうしたらいいかな?一緒に中に入ったほうがいい?それともここで待つ?」
「どっちなら信用できる?って話?」
「まあ、そうだね。僕的には貴殿が魔法書を目にしてどうゆう態度を取るのか見てみたいんだけど、貴殿がそれを見られるのが恥ずかしいなら遠慮しておくよ」
なんか同じ目的に対して温度差が感じられる・・・
まあ、私は罠の可能性を少しでも削りたい。ならば一緒に入るほうが賢明だと思う
「いいわ、入りましょう」
「ありがとう」
中に入ると立派な応接セットに壁一面の大きな金庫がある。金庫の扉は開いており、その中にまた金庫。しかしその扉も開いていてその中に本が並んでいる。赤茶けた皮表紙の重厚な本が何十冊と
「残念ながら、全部は揃っていないんだけどね」
彼は奥のソファに深々と腰を下ろす。テーブルの上には3冊の本が読んでくれと言わんばかりに置いてある手前のソファに座り、右手はポケットの中のジャマーをいつでも作動できるようにしながら左手で一冊の本の表紙をめくる。魔法書だ、見紛う事なき魔法書だった。




