救援隊
目が覚めると昨日の疲れや倦怠感が嘘のようだった
体を起こしてあたりを見渡す、窓辺で外を見据えるアレックスがいた
「おはよう、アレックス。どんな様子?」
「おはよう。・・・静かなもんだ、たまにカラスが飛んでるのを見るくらいだよ
考えてみればヤギや羊、馬も牛も草食動物だ、エサを求めて郊外に移動したのだろう、特に緑といえば樹木しかないオフィス街ではそれらの動物には食環境が厳しい
元々このあたりを餌場にしていたカラスなどは、また餌になる生ごみが出ていると思ってこのあたりを飛んでいたのだろうが、目的の物がないので去ったあとだ
「これなら問題なく通信局まで行けそうね」
「その前に食料の調達しないと、もうハラペコだ」
二人で笑いながら行動を開始する
昨夜の食料はこのビルの売店にあったらしいのだが、売れ残りの数なんて知れてる。既にアレックスがあらかたさらえてしまっている。飲み物はまだあるが、それほど必要ではないだろう
一応警戒をしながら食料のありそうなところを探す。オフィス街には意外と食料品店は少ない。大体レストランか、それに類する店ばかりだった。見つけた頃には結構日が高くなっていた
朝昼兼用のような食事を済ませて再び警戒しつつ移動する、通信局にはお昼ちょっと過ぎに到着した
「明かりは?」
「スイッチはどこ?」
「いや、知らない」
「私も」
通信局の中は薄暗かった、夜に人がいなくなったのだから当然とも言えるが、この中を亜空間通信機を探すのは骨がおれる。電気系統の探査をすれば容易に見つかるかもしれないが、電気回路に対する知識が皆無ではそれも容易ではない
「しかたない、暗視魔法を使ってくまなく探しましょう。見つけたらノック(魔法通信)して」
「手分けるのか、了解」
ビル内をうろついてエレベーターホールを見つける。上行きのボタンを押すが反応がない・・・
明かりは消されるかもだけど、こういった動力は消されたりしないはずなのに・・・
嫌な予感がした、急いで窓から外を確認すると、的中していた・・・
{アレックス}
魔法による個人通話をする
{あった?}
{ううん、問題発生}
{勘弁してくれ}
{電力の供給がされてないみたい}
{発電所が落ちたか・・・}
{可能性高いね、通信装置があっても電力がないと意味ないから、自家発電装置も探索候補に入れて}
{そうゆうのは大抵地下にあるだろう、下に行ってみる}
{お願い}
亜空間通信局なんてのはそれほど体積を必要としない、この規模のビルならせいぜい5フロアあれば十分だろう。だが、建物のコストを考えると、こんなオフィス街にそれだけを建てるなんて馬鹿げてる。高層にして不要なフロアを貸すのが普通だ。
「・・・15階まで上がらないといけないのね・・・アレックスめ、楽なほうに行ったな・・・」
フロア説明のパネルを見つけて確認した。軽くため息をついて階段を15階まで昇る
{あなたもどうせ後から来るんだろうから、きっとわかるわよ、もう足がガクガク}
{いや、俺は普段から鍛えてるからそうはならないと思うぞ}
{言ってなさい}
今日は気力も魔力も余裕がある、必要でもない通話に魔法を使えるほどだ
{あ、14階に売店発見、今日はここにお泊り決定ね}
{おかしいな、地下をくまなく探したけど、自家発電設備がない}
{誤報であって欲しい報告ね}
{もしかしたら通信設備の近くにあるのかもしれない、すぐにそっちに行くよ}
15階に到着して、14階の売店から持ってきた飲み物を口にしながら当たりを見渡す
受付とその奥にデスクの並んだ部屋、業務室のようなところのようね、もう1フロア上がっておこうかしら?デスクの列のさらに奥、メンテナンスの文字が見えた。マニュアルがあるかも・・・
私は通信機の扱いなんか知らない、恐らくアレックスもだろう。マニュアルは必須になるはずだ
ごそごそとメンテナンス部署と思われるあたりの書類からマニュアルを探す。5分ほど過ぎてアレックスが15階に到着して声をかけてきた
「なにかお探しですか?」
おどけたようなしゃべり方、アレックスもかなり余裕を感じているのだろう、が、息も切らしていない
意外と鍛えてるというのは本当かもしれない
「通信機のマニュアルがないかと思ってね」
「そんなの全国共通だよ、探すまでもないだろう?」
「?あなた使えるの?」
「当然だろ!」
アレックスのくせに! いえ、アレックスが通信機を扱えるなんて知らなかった、ほんとに意外で素直に驚いた。これで問題がひとつ解決
「それよりもうじき暗くなり始める、アルは夕食の準備と寝るところの確保をしてくれないかな?」
「あなたは?」
「発電機の探索と起動、通信機の調整」
「わかった」
アレックスのくせに、今度は指示をしてきた。まあ、確かに私では設備の発見くらいしかできないだろう。もしかしたら全く違う機械をそれだと思ってしまうかもしれない、それほど機械に疎いのだから、ここは従うべきだ。
自慢ではないが、私は大抵の事が魔法でできる、機械なんて魔法の使えないひとのための物とすら思うことがある。既に究極を通り越しているほどの機械は魔法と見違うほどの事ができるのだが、やはり所詮は機械、汎用性も低く操作が難解で自分が思った通りのことはしてくれない。自然と機械オンチになってしまうのだ
寝るところの確保は容易だった、宿直でもあるのか仮眠室があったのだ、そこをちょっと整えるだけで安いホテル程度の環境は作れた。
食事のほうは意外なことがわかった、災害時に非難所として使われる予定の建物だったのだろう、大量の保存食があった。
「これなら1年くらいここで暮らせそうね」
「1年もこんなとこにいたくないけどね」
私の独り言にアレックスが答える
「びっくりした、通信機あった?」
「ばっちり、今チャンネルチェックしてるから、あと1時間くらいで通信可能になるよ」
「発電機はどれ位稼動可能?」
「3日は大丈夫」
「なら安心ね」
これで全ての問題は解決、あとは近くの星に救援要請するだけだ
「あとは俺がやっとこうか?」
「えぇ?アレックスのほとんど見られない活躍の場を見逃すなんてできない」
明らかに怒ってるけど、苦笑いの顔をこちらに向けて。あのな。と呟く
2日後、星間通信用アンテナの横にあるヘリポートに小型シャトルが降り立つ
中から5人ほどの軍人と思しき人が降りてきた
「君たちが連絡をしてきたカエル(魔法使い)かね?」
うわ、イキナリ酷い差別用語・・・少々腹に据えかねる、思いっきり不機嫌そうな顔になってしまったが
「そうです」
と答える。すると私とアレックスの両脇に話しかけてきた人以外の軍人が並び、小型シャトルに誘導された
{なんだか連行されてるみたいね}
アレックスに魔法通話をすると、横の軍人の肩から”ピピッ”と音がする
「魔法の使用は控えてください」
あ、コレ、ほんとうに連行されそうなんだ
どうしようか一瞬思案に暮れる、逃げたほうがいいのかな?
差別用語を口にする軍人と、その部下と思われる軍人に連行されるなんて、絶対良くない状況
アレックスもそう思ったのか、彼の横の軍人の肩あたりから”ピーッピーッ”と明らかに警告音と思われる音が響いた。その瞬間軍人が動いた
アレックスが魔法を詠唱する前に叩きのめされた。「うがっ」と短い唸り声を上げて気絶してしまった
「何するの!」
私には銃口が向けられた
「おとなしくついてきなさい」
アレックスは両脇を抱えられ引き摺られながらシャトルに乗り込む、こうなっては従うしかなさそうだ・・・私にできることといえば、思いっきり敵意を込めて睨むくらいだった
小型シャトルは高度500kmの母船にドッキング、私たちはその内部の球状の部屋に入れられた。私はこれを知ってる。明らかに危険な敵対行動をした場合、直ちに船外に射出されるポッドだ。しかも生命維持装置の類は一切ない。通称棺桶
これは一体どうゆう処遇なのだろう?私たちがそれほど極悪非道を行ったとでも言いたいのか?
不機嫌を通り越して殺意さえ芽生える
「悪かったね、少々人選を誤ったようだ」
部屋にイキナリ声が響いた。これは尋問用の通話システムだ、話をしてる人は私たちとはずいぶん離れたところにいるのだろう
「国賓を迎えるように連れてこられても、ここに入ったら同じだと思いますけど?むしろ一貫してて小気味いいですよ」
思いっきり嫌味な皮肉で答える
「はは、確かに。しかし私たちもここと同じく辺境なんでね、中央の返事がくるまでは最悪の事態を考えて行動する必要があってね」
「あなたは協会の方?」
「ヘレン魔法協会支部の人事部長だよ」
「状況は理解しましたが、協会の用意した軍人が魔法使いに差別用語って、おかしくありません?」
「事態が飲み込めなくてね、あまりに急な編成になったためだ、後で抗議にたいして謝罪をしよう」
「もういいです、それよりいつまでこの状況なんです?」
「悪いがヘレンまで維持されると思う、窮屈だろうが容赦してくれ」
最短でも丸一日は棺桶の中で過ごせと・・・酷すぎません?
私たちは通信でできるだけ詳しく話したつもりだったが、唯でさえ雑音の入りやすい亜空間通信では正確な情報が伝わってなかったのだろう、そのあと5時間近く事情聴取が続いた。途中で気がついたアレックスも話しに加わったが、どっちかと言えばあのまま気絶してたほうが話が進んだかもしれない
「なるほど、これで得心がいったよ」
「わかって頂き、本当に嬉しく思います」
「それで、始祖様はどこら辺にいるのかはわからないのかな?」
・・・何に対して得心がいったんでしょ?始祖様は自らの体と命を触媒に魔法をかけたと言ったでしょうが!船内なら有線通話でしょうが!あまりの話のかみ合わなさに、もしかしたらヘレンにいて亜空間通信で尋問しているのかと思ってしまうほどだ
「あなたはご自身の体と命を失ったら、どこにおられるのでしょうか?」
「あぁ、そうゆうことか、了解した。・・・ふむ、そっちは・・・そうか、わかった」
どうも私たちとだけ話をしてるわけじゃなさそう・・・理解できないなら複数の人と話すのやめてね心の中で呟く
「いや、やることが多すぎてね、悪いが別件でちょっと退席させてもらうよ」
「はい、少し休みたいのでごゆっくりどうぞ」
休む場所が棺桶の中ってのは頂けないけど、ヘレンに着くまでのガマンだと言うならしかたない
「協会の人事部長ってホントなのかな?」
アレックスも理解力の薄さにいささか疑問を抱いてるみたいだ。
「さあ、協会の人事部ってところ自体知らないからなんとも言えない」
「ごもっとも」
ふと唸り声のような音が遠くから聞こえてきた、わずかにポッドも震えてるような気がする
もしかしたらエルトナを今離れたの?
これは宇宙船が加速するときの感じに似ている
あれから5時間は過ぎてるのに、今から丸一日なんだ・・・
今まさに「orz」な気分だった




