王子、バザールで護衛とはぐれる
現在俺は自分の護衛達よりはるかにムサイ、ごろつき達に囲まれている。
ピンチである。
どうしてこうなった。
傍らにいる女の子に問いかける。
「俺なんかしたっけ? 」
さっきまで庇護欲をかきたてられていたはずの栗色の髪の娘は、今やふてぶてしいといえる笑いをその顔に浮かべている。
「さあ? 」
悪びれずにそう答えつつも、俺の傍を離れ、ごろつき共の方へ歩いていく。
その堂々とした姿はこの行為が初めてではない事を伺わせる。
「病気のお母さんが、歌を聞きたがってるとか…嘘なのね? 」
「悪いねお兄さん。今は歌より薬代の方が必要なの」
やれやれ。
俺は肩を竦めてこれまでの流れを思い出していた。
俺達一行は旅行のために個人の商隊に偽装しており、そのために街の中心の噴水広場でバザールで店を開くつもりでいた。
フリなのでガチ商売をする訳ではないが、店を開く場所の許可手続きに不備があり、例の役場へザックとエマが交渉に行った。
その間、店を開く予定地で他の護衛達と一緒に二人を待っていた俺達だが…
ごろつき共が現れ、難癖をつけてきたのでホップとステップが無双して退けた。
「言いがかりつけてまで横取りしたくなるような人気場所じゃないみたいだが」
俺達に割り振られた場所は、バザーの賑わいとは離れた、客足もぽつぽつととした場所で正直いって魅力ない。特別に申請が遅すぎた訳でもないので新参者に対する慣例の割り振りなのだろうか。
「あんた達、強いんだねぇ」
声をかけてきた隣の店の店主だが、もう商売を諦めてしまったかのようでやる気もなさげだ。
「俺は3日間、ここで商売するつもりで許可を取ったが、この街はダメだね。こんな場所じゃ客も来やしないし、さっきみたいな連中もいるしな。
だが、連中にショバ代を払わなかったんだから嫌がらせにゃ気をつけなよ」
そう言うとお隣さんは、あまりにも暇すぎて昼寝をはじめたようだ。
「どんな所にもあのような手合いはいるものですが、ここでは騎士団が機能していないようですな」
「あれから時間が立ったが、事情も聞きに来ないとは。」
「バザールの管理は商業ギルドに責任がありますが、領主側でも無関係で良いと言う訳でもないですからね。
しかし騎士が見回りをしている様子もまったく見受けられませんね。揉め事はどう処理しているのでしょうか? 」
「持ちつ持たれつさ。オニイサン方。立派な馬車を引いてるから目をつけられたんだよ。
金は困ってないんだろ?大人しく払っておきゃ、もっと売れる場所と交換してもらえたのに。小金惜しんでバカみたね」
反対側に日用品を広げて売っていた女が店じまいをしつつ声をかけてきた。
「腕っぷしに自信があるんだろうけど、その町、その町には大っぴらになっていないルールってもんがあるのさ。
清濁対応できなきゃ商売でいい目は見れないよ。オニイサン。」
女は器用に少なくない荷物をまとめ、最後に商品を並べていた敷物をくるくると丸めると背中に括り付けた。
「ま、正規料金を払ってるいるのにって気持ちもわかるよ。あたしみたいに見た目でわかる程貧乏なのには、ああいう手合いは声をかけてもこないけどね」
じゃ、借りてる時間が終わったから、と言って女は去って行った。
女のあとにその場所にむしろを敷いて、違う男が商売の準備をはじめた。
「どう思う?」
「商業ギルドもグルということか」
「領主の方も黙認と言う事で間違いがなさそうですね」
これでは、商業ギルドと役場に事情を聞きにいったザック達も埒のあかない対応をされて時間を食ってそうだ。
「客が来なければ、呼べばいいさ」
俺はもううんざりしていたので、ギターに似た楽器のリュートを爪弾きはじめた。
「ここで演奏してりゃ、多少は目立つだろ?」
金には今のところ困っていないが、次の路銀の受け取り場所までは何日かある。
せめて商業ギルドに払った分の出店料金くらいは回収したいじゃないか。
そう考えてしまったのは前世が庶民だったからに違いない。
ザックがいないのも悪かった。
リスク面で言ったら、俺達は諦めて店を畳んで宿に帰るべきだったんだ。
「店主夫婦がいないけど店は開けようぜ。すでにここに着いてから時間もたってる事だしな。」
俺は顔を見合わせるホップとステップを急かして、店の前に出店許可証の札を提示し開店中の案内を出した。
結果として、ザックが帰ってくる頃には今日予定していた分は売り切ってしまっていた。
主に俺の腕で!
正確に言えば、俺の顔と声で!
いやぁ俺、乙女ゲーの攻略キャラクターでよかったわー
で、そろそろ閉店だって言って集まった女の子達(老若あり)に、もう終わりだよーって言ったら、もう一曲、もう一曲って迫られて、もみくちゃにされて、その中から手を引いて救いだしてくれたのが先程の女の子で。
お礼に病気のお母さんに一曲歌って欲しいと頼まれ、押し付けがましい娘だなぁと思っていたのだが…
冒頭に戻る。




