俺様→チャラ男 ジョブチェンジ?
「それでね。これは貴方だから言うんだけど」
娘は俺に顔を寄せてひそひそと言った。
「処刑されたのは、領内の財務を行うお役人一家だったそうなの」
あれからエマに寝かしつけられた俺はひと眠りした後、遅めの夕食を部屋に運んでもらっていた。エマが頼んでおいてくれたようだ。
宿の下男か護衛の一人が運んでくれると思ったら、娘が持ってきてくれて驚いた。
嫁入り前の娘が一人で男の部屋に入ったら危ないだろうによ。
「お父さんが言っていたんだけど、悪い事をするような人じゃないんですって。
真面目で気の弱い人だったそうよ」
甘えたように上目使いで娘は言った。
ええい、この娘、他の男の前でもそんな顔してるんじゃないよな?
オオカミに変身されてガブリだぞ。俺は大丈夫だけどな。
「でもね、その事は誰にも言っちゃだめなんですって。宿といわず、酒場といわず、今はご領主様の密偵が潜んでいるらしいの。
お客様もめったな事を言って聞かれないようにしてね。私は大丈夫だけど」
娘は俺の髪の飾りを手で弄んでいる。吟遊詩人特有のビーズをいくつもつなげて髪に縛っていくつも垂らした飾りだ。
「ごめんなさい。ちょっと曲がっていたから」
ただ髪の一部に結んで垂らしているだけなので曲り様もないのだが、まあいい、そういう事にしてやろう。
「ねぇ。お歌は歌わないの? 吟遊詩人なのに。下で歌ってくれたら大サービスしちゃうのにってお母さんが」
「馬車酔いしちゃったんだ。でもかわいい君がこうやって見舞いに来てくれたから元気が出たよ」
考えもしないのにそんな言葉がツラツラと出た。
う、俺ってば俺様からチャラ男にジョブチェンジか?
娘はキャっとうれしい悲鳴をあげて、…「きゃっ」なんていう女の子、生では初めて見たぞ… 頬を染めた。
さっき俺の顔見て皿割っちゃってたしな。この位のリップサービスをしてもいいよな。 女の子を見たら褒めるべしって姉も言ってたし。
「この街では他に手続きもあるから何日かお世話になるし、その内御礼を兼ねて歌わせてもらうよ」
そう言って俺がほほ笑むと、娘はいやいやするように身をくねらせた。
「楽しみですぅ」
そういうとスキップをしながら部屋から出ていく。
ふぅ、やっと行ったか。
スープを口に運ぼうとしてエマとステップがこっちを見ているのに気がついた。
「なんだ?」
「殿下…いや何も申し上げません」
何か呆れているようだが、俺何かしたっけ?




