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王子は逃げ出した  作者: 相川イナホ
三人のおっさんと俺と奴隷と
14/19

アッガス伯領


 「殿下は具合が悪いのか?」


 「ザック…『アル』と呼べと言われただろ?」


 「食欲がないようです。」


 「そろそろ疲れが出る頃かもしれない。旅に慣れていらっしゃる方ではないからな」


 「何か喉越しのよい物を用意しよう。この辺で病人に食べさせるような物でよい物は手に入らないか?」




 護衛達が俺を気遣っている。随分と心配をかけているようだ。


 旅は陽気に元気に!って思っていたが、カラ元気も出てこねぇ。


 この街に入ってすぐあんな場面を見てしまうだなんてな…






 街角に春を売るために立つ前世の姉妹位の歳の少女達。


 幼稚園にいく位の年齢の物乞いをする子供達。


 老人を見かけないと思ったら、その年齢まで生き残れなかったんだな。


 俺はもはやその見慣れた光景を見たくなくて馬車の窓の目隠しの扉を閉じていた。

 

 馬車はその街の大通りをゆっくり進んでいく。


 ふいにその歩みがガタンという音と共に止まった。



 「何事だ」


 ザックとホップが話しあう声が外で聞こえる。


 そろそろ道中の警護のための奴隷を増やすか、冒険者ギルドに護衛の依頼を出さなければならないかもな。護衛が3人では、御者、馬車の左右で人員がいなくなってしまう。


 まぁ草の者が交代で後ろをついてきて安全に気を配ってくれているが。

 隙があるように見られても困りものだ。


 この西洋ファンタジーのような世界とご隠居一行では、「目立たない数」

というのが違うようだ。


 護衛達も 王都より離れれば離れる程治安は悪くなってピリピリしているようだ。



「公開処刑がはじまるぞ!」


 外で誰かが触れを出して走っているようだ。



「処刑? こんな街中でか」



 俺の呟きに草の者の声がする。

 どこに隠れていたんだろう?


 「はっ。この地の領主、アッガス伯の膝元では昨今このような形態を取っているようです」


「王国法では悪戯に人心に悪影響を与えるとして人民の生活圏内での公開処刑は控えるようになっているはずだが」


「王国法はこのような僻地では形骸化しつつあります。定めでは『控えるように』となってもおりますから」


「処刑は見せしめには効果的だが、民には耐えられぬ者もいる。悪夢にうなされたり気が触れたりする者もいる。むやみに見せつける物ではないのだが」


 中央の監視下を少し離れればこれかよ。

 やりたい放題だな、地方領主!


「住民からの話からも、アッガス伯には嗜虐趣味があるとしか」


 そんな奴、領主になっちゃダメだろ。

 

「王国の選考委員は何してたんだ」


 王国の選考委員というのは地方領主などの貴族が爵位継承をする時に調査をする機関だ。あまりにも素行の悪い者は嫡子といえども跡を継げないはずだ。


「それを王子がいいますか?」


「ぐぬぬ…」


「すでに形骸化していることを一番ご存じなのでは?」


 なんだかこの草の者は言う事がいちいちと辛口なのだ。

 記憶の蘇る前の俺だったらとっくにクビにしている。


 奴の言い分もわかる。

 以前の俺は鼻もちならない我儘傲慢王子だったのだから、調査機関が生きていたなら何か物いいがついただろう。


「調査いたしますか?」


 草の者はわけのない事のように言う。


「十分に気をつけてな。命まで懸けるなよ」


 俺の言葉に少しの間が空く。

 大方本来の俺が言いそうもない部下を心配するような言葉にびっくりしたのだろう。


「おまかせください」


 草の者の返事はあっさりとしたものだった。

 気配が急になくなる。





 暫くして馬車は動きはじめた。


 そして俺は窓を開けてしまい後悔することになる。


  役所前の道は役人が出て交通整理をして片側通行になっているようで反対車線を走る馬車もなく、その光景はいきなり目に飛び込んできたのだ。


 役所の前の出入り口の横に台が作られており、そこには何人かの男女が首を縊られて吊るされていた。


 役所の窓からも働いている人々がその様子を上から眺めているようだったが、皆青い顔をして吐き気を抑えているような動作をしているのが見えた。


 やめろよ。前世の蘇った豆腐メンタルじゃ堪えれそうもないじゃないか。

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