6 さあまだ見ぬ広い世界へ
ゴオン!と鳴り響く重低音。俺の渾身の頭突きがアカメの前頭部に見事くらった。ちなみに俺は正直に言うところこっちもかなり頭にもダメージがきてる。助走をつけて思いっきり頭でぶつけたためそれ相応の衝撃が脳に響いてめっちゃ揺れてる。
ああやばい、もうこれ以上体が動かない。お願いだ母ちゃん、さっきのでやられてくれ。初めて戦った俺にはもうこれ以上はもう限界だ。だからおねが―――
「いやあさっきのは効いた、確かに効いたよ。
あんたにしてはいい一撃を食らわせたよ。
…でもね、‘たったの一撃’だけなんだよ。たったの一撃しか私に喰らわすことしかできなかったんだよ」
頭突きを喰らって地面に座り込んでいたアカメが何事もなかったかのように立ち上がり、パッパと汚れを払って俺に言った。
―――俺の母ちゃんことアカメは誰よりも強くて勇ましく、軽い荷物を持ち上げるかのように木を引っこ抜き片腕で担ぎ歩き空や山奥から侵入してきた魔物をことごとくなぎ倒す彼女に対し、かっこいいのが大好きな男たちにとってそれはまさに憧れの的であり、村の全体からは守護者と呼ばれ尊敬されていた。
―――まさにこの村の‘英雄’である母ちゃんに‘凡人’の俺が勝てないのははなからみて当然だった。
「息子よ!次で終わらせるから歯あ食いしばれよ!」
アカメは瞬きをする間に目と鼻の先にまで接近し、顔面を掴んだ。そのまま勢いを落とすことなく、俺の顔を壁に突きつけながら穴の外側へと向かっていった。
「「―――っ!」」
その途中にデンとユーナが何か叫んでいるような気がしたが顔がぶつかって大きな音が出ているせいで何を言っているのかよく聞こえなかった。
そして遂に外に到達したアカメは俺を外へと高く放り投げた。
宙に浮かび意識が朦朧としてきた俺が最後に見た景色は
絶えまなく広がる夜空の下にあたりすべてが緑にあふれところどころに小さな湖が見える平原がどこまでも続く、いつも俺が夢の中ですっとみた景色だった。
―――――――――
チュンチュンと小鳥の鳴き声に誘われ俺は目を覚ました。目を開いた先には木材で作られた天井、左に向ければタンスにドア、右に向ければ村の景色が映る窓、ここは俺の家だ。俺はずっとベッドで寝ていたのか。昨日の夜は全部夢だったのか?いや、そんなはずはない、この起き上がった瞬間全身に響く筋肉痛が夢ではないと言うことを証明している。
コンコンッ
ドアからノックの音が聞こえた
「起きてるかい、入るよ」
入ってきたのはアカメ…母ちゃんだった。
入ってきた母ちゃんの姿に角は生えておらず顔や手に紋様が浮かんでなくてあの真っ赤な瞳も今は黒色だった。
あの時のような気迫こもった声もまるで殺してしまうかのような雰囲気も今の彼女には無かった。
今になって俺はあの時戦ったオーガが母ちゃんだというのが信じられず恐る恐る母ちゃんに聞いてみた。
「母ちゃん…なのか?…なあ聞きたいことがある。
あの時と今の母ちゃんは同じ人なのか?あの時みたオーガ、今まで侵入してきた魔物なんかよりよっぽど怖くて化け物だなんて思ったのに、なぜかあれが母ちゃんだと確信を持っていたんだ。
答えてくれ、あの時のオーガは母ちゃんだったのか?」
数秒の間、母ちゃんは何も答えず沈黙の時間が続いた。どうなんだよそうなのかそうじゃないのかはっきりましてくれ、我慢できなくなった俺は口を開こうとしたが…
「ああそうさ、あれは紛れもない私だよ。むしろ、あの姿が私の本来の姿さ」
遂に母ちゃんが答えてくれた。
人の姿をした母ちゃんの時より荒々しく、狂戦士のごとき戦いぶりを見せたあの姿の母ちゃんが本来の姿だというのだ。
「私が最初にこの村に訪れたときはあの姿のままでね、その上気性が荒くなっちまうものだからなかなか周囲も私もなじめなくてね、そのときだよ、アテナ商会のトップがこの村にやってきて私のことを哀れに思ったのかこの腕輪をくれたんだよ」
そう言うと母ちゃんは左腕につけている腕輪を見せた。金色に光っており、どこか高級そうな感じがした。
「この腕輪をつけたら不思議なことに私の凶暴性が嘘のように収まって人と同じ姿になったんだよ。これのおかげで私は村になじむことができ、あの人とともに暮らすことができたんだよ」
そうだったのか、いつもつけてたその腕輪はどうせ父ちゃんからもらったものなんだろうと特に気にしてなかったが、そんな深い理由があったのか。
「こうして私は村の守護者として村と外を見守ってきた侵入者を撃退したり、外に出たがる村の人間を制裁してきたよ、あんたみたいなのをね」
「ギクッ」
「まったく、何があんたをそう冒険に行きたさせるんだい」
何をそんなに行きたさせる、その言葉が自分の心に突き刺さり、迷わずに俺は答えた。
「深い理由は特にない、ただ冒険してみたいんだ。この日常では味わえない驚きと感動、そしていろんな人たちとの出会い。そんな出来事が自信を興奮に満ちさせるって父ちゃんから聞いて、その頃から俺に夢ができたんだ。
誰にどこにも縛られることなくただ自由に冒険をするって」
俺の答えを聞いたとき母ちゃんは動揺した。
かつての自分もオーガの里で戦神と崇められ、何も得ることのない日常に絶望してたとき、あの人が外に連れ出してくれたおかげでいろんなものと出会い自分に‘夢’を与えてくれたことを。
忘れられるわけがなかったのだ。あの日、あの人に
‘幸せになりたい’という夢を与えてくれたことを。
「…もう動けるだろ、しばらく外でふらついてな。
やらなければいけないことができた。」
「えっどうしてそんな急に…」
「あんたの友人のふたり、あの戦いの後からひどく落ち込んでたよ」
「あのふたりが…分かった、行ってくる」
俺はデンとユーナのもとへ急いで向かった。
「あの人の子だというなら夢も同じだというのかね」
―――――――――
俺は急いで向かった。途中、村の人たちにぶつかり転ぶなどアクシデントが起きたがそれでも止まりはしなかった。
おそらくふたりはあそこにいるはず、そう信じてそこへ向かった。
「…はあ、やっと着いたぞ
―――デンの家に」
俺たち三人は俺の夢を聞くためにそこで集まったり村から脱出するためにデンの家で作戦を立てたりした。きっとふたりならそこにいるはずだと信じた。
「おーい、デンとユーナ!いるんだろ?もしいるのなら俺を入れてくれ!」
その要望に応えたかのように家の門が開いた。
(よっしゃ待ってろよ、今行くぞ)
デンの部屋にたどり着きノックを叩いてみた。
「ふたりいるか?俺もう待ちきれない、入るぞ」
早くふたりに会いたくて仕方が無かった俺はまた時に入った。
「は!?お前何急に入ってきてんだよ!?」
「ノックはまだしもちゃんと声かけてよ!?」
デンとユーナのふたりがいた。良かった俺の読みが当たって。喜びのあまり、ふたりの肩を寄せ抱きしめた。
これにさっきまで怒鳴っていたふたりが黙ってしまった。
しばらくの間、誰も声を発さず、物静かな部屋の状態が続いた。
―――――――――
「それにしても母ちゃんいわくふたりとも落ち込んでたらしいけど、そんなことなかったみたいだな」
「お母さんからそんなこと聞かれてたのかよ」
「そんなことないわ、実際あなたが来るまでここは地獄みたいな空気だったもの」
「あっそうだお前体は大丈夫か、あんなにボコボコにされて相当怪我負ってるだろ」
「ああその件に関してはもう大丈夫だよ。ほら、この通り走れるくらいに治ってるから。
…まあ全身筋肉痛が未だに続いてるけど」
俺たちはいつもの日常のように話し合っていた。
さっきまでの静かな空間はどこへやら、明るい雰囲気に包まれていた。
「…ふたりに謝りたいことがある。ごめん、俺負けちゃって。絶対に負けるわけにはいかなかったのにボコボコにされちゃって」
「は!?何でお前が謝るんだよ!お前が戦っていたときに加勢できなかったこっちが謝るべきなんだ」
「もし私たちが加勢できたら結果が変わったかもってずっと話してたの…」
俺は外に出るという約束を果たせなかったことについて謝った。
ふたりもまた俺に謝っていたが事の発端は俺にある、
だから謝る必要なんてないのだ。
ともに謝り合うという時間が続いたが、ここでデンが歯止めをきかせた。
「ああわかった!わかったから!もうここまでにしよう、これ以上謝り合ったってなんにもならないんだ」
「まあそれは確かに」
「そうね、ここまでにしましょうか」
「あと、俺の行商人をやりたいって夢なんだけど、心配すんな、俺の親はずっとここに来ないって訳じゃない、戻ってきたときに俺が訴えてみるから気にすんな」
「気にするな」そう言われたけどなかなかそんなことできない。そうしてずっとモヤモヤしていたが。
「俺はまだ夢を諦めてない、だからお前の外に出て冒険するっていう夢を諦めるな、
俺のことよりまずはそっちを優先しろ」
夢、か…そうだ、そうだな確かにデンの言うとおりだ。これは一本やられたな、デンのくせに。
「そうだな。デン、ユーナありがとう。おかげで自信がついたよ。俺の夢は絶対に諦めない、これからもよろしく頼む。」
それを聞いたふたりはどこか微笑んでいた。
―――――――――
俺たちは解散し、もう夕方だしそろそろ良いだろうと家に帰ることにした。
「ただいまー。母ちゃんもうこんな時間だしもういいでしょ…ってふたりとも何してるの?」
父ちゃんと母ちゃんはリビングの中央にあるテーブルのそばにある椅子に座り、真剣な顔をしていた。
「おっやっと帰ってきたか、お帰り」
「お前に聞きたいことがある、とりあえず座れ」
父ちゃんが優しく帰りを迎えてくれたが母ちゃんは相変わらずの真剣な顔で座るよう要求してきた。
とりあえず俺は座ることにした。
「アカメからきいたぞ、お前冒険に出たいんだってな」
「…そうだよ、父ちゃんのあの話から外に憧れて夢ができたんだ」
「夢か、そうか、それは良いことだ。だがな息子よ外はお前が思ってる以上に優しくないし自分が思うように上手くいかない世界なんだ。
父さんもそれを経験したよ、たくさんね。それでも、お前は外に出たいのかい?」
父ちゃんは外は自分が思っている以上に厳しく甘くないと言うことを伝えた。恐らく父ちゃんは俺を試しているのだろう、それを聞いて動揺し、俺の夢が揺らぐのかを。
――だけど俺の意思は決して変わらない。
「ありがとう父ちゃん。外の世界について教えてくれて、そりゃそうだ。自分が思い描くようなことばかり起きたらそれは冒険とはいえない、何が起こるか分からないからこそ冒険なんだ。
父ちゃん、俺の夢はないろんなところを旅していろんなものをみてみたいんだ。ただ自由に冒険したいんだ。」
俺は思いのまま父ちゃんに俺の夢をぶつけた。
これ以上父ちゃんが喋ることはなかった。
「ふん、私の夫を黙らせるとはさすが我が子だよ。
…明日、朝早く起きな。寝坊は許さないよ」
突如母ちゃんから早起きするよう言われた。早朝に何かやるのだろうか。これ以上は聞いても仕方がないと判断し、さっさと自分の部屋に移動し眠りについた。
「ほんと、誰に似たのかしらね…あなた」
「さあ、誰でしょうね~」
―――――――――
俺は言われたとおり早起きをして親がいるであろうリビングに移動した。
「ふわあ…おはようって、え?何その一式」
そこにあったのは俺と同じサイズの薄茶色の長ズボンと長袖に長袖の中には赤いシャツが着せられているトルソーにたくさんの道具が詰まってそうなバックがリビングの昨日までテーブルがあった場所に置かれていた。
「父ちゃん、母ちゃんこれは一体…」
「これはもともと僕が旅に出ていたときに着ていたものだ。今のお前なら着られるはずだ」
かつて父ちゃんが村から出て冒険していたときに身に着けていた服とバックだ。
どうして今それを…
「冒険行きたいんだろう?だったら親として息子の夢を応援しないとな!」
「私は反対だったけどね、この人からあんなにあんなに支持されてちゃ、反対するわけにもいかなくなるね」
「え?いいのか?俺が外に出て」
「ああ、いいとも」
「あの時、母ちゃんに負けたのに?」
「そうだね。でももうそんなこといいさ」
「…ほんとに、冒険しても良いのか?」
「「――ああ、行ってこい」」
信じられなかった。俺の父ちゃんと母ちゃんが認めてくれるなんて。うれしくてたまらなかった。
そして知らぬうちに大粒の涙が出ていた。
「父ちゃん、母ちゃん…ありがとうっ!」
―――――――――
村と外に繋がる出口にて俺は村のみんなから送迎してもらっていた。
「あの、村一番のクソガキが外に行っちまうのか、なんだかさみしいなー」
「おーい、おれたちは応援してるからなー!」
「すぐに戻ってくんじゃねーぞ」
老若男女問わず、みんなワイワイと盛り上がっていた。笑うもの、泣くもの、励ますもの、どんな形であれどみんな俺を応援してくれていた。
「「おーい!」」
見送っている村人達の先からデンとユーナの声がした。前にいる人たちならぬけだし俺の元に走ってきた。
「お前、まさか遂に外に行く日が来るとはな」
「あのへっぽこだったあなたが嘘みたい」
「うるさい!」
外に出る前にふたりに会えてうれしかった。何せこれを最後に長きにわたる間会うことができなくなるのだから。
「デン、お前の親については任せてくれ、絶対にやり遂げてみせる」
「ああ、お前ならできるって信じてるぞ」
「ユーナ、パン屋になるって夢遠いところにいてもずっと応援してるからな」
「うん、ありがと」
最後に俺の親がきた。
「息子よ、この先辛いこと苦しいことがたくさんあるだろうがそれこそ冒険、やりたいようにやってこい」
「わかったよ父ちゃん」
父ちゃんと話し終わり、次に母ちゃんが俺にこう伝えた。
「…最後に外に出たとき、この約束だけは守れ」
「約束?」
「一つ目はこの村について誰にも明かさないこと、
二つ目は自分の名前を誰にも公表しないことだ」
「え!?名前を教えちゃダメってどうすんだよ」
「そんときお前は‘旅人’とでも名乗っとけ、お前自由を求めてることから冒険者というより旅人の方が良いから」
「ええ…まあ分かったよ」
「それじゃあ、がんばれよ」
「…うん!」
自分の背中から応援を当てられながら進んだ。
ここから先は俺も村のみんなも知らない未知にあふれた世界、今からそこに足を踏む。
待ってろ世界、俺が今行くぞ!
――さあここに一人の旅人の冒険譚が始まる!――




