4 村の守護者 アカメ
「さあてお前らガキども、どうしてやろうかねえ!」
彼女が俺たちに発した第一声は殺意、というよりかは闘志に近いものを込めていた。どこからそんなものが湧き出るのかなぜ俺たちにそれを向けるのか、恐怖によりまともに思考が回らず、ただおびえながらたっているしかなかった。
「何で母ちゃんがここに…そもそもどうしてここに来ると分かったんだ」
「そんなの、この穴はお前たちをおびき寄せるために作ったからに決まってるだろう。お前たちなら正面の出口じゃなくて別の出口に行くだろうと思ったよ。
その結果まんまとはまったみたいだね」
俺たちの行動はすべて彼女の手のひらの上だった。
ああくそ、これなら正面のところに行けば良かった。そんなもの、今となってはもう遅い結果論だ。
今はこうして南東部の穴の中で彼女と対峙している。
「昨日の夜、次は容赦しないって言ったねえ、お前がここにいるってことはつまり、やり合う覚悟があるって意思表示で間違いないねえ!」
やり合うだって?馬鹿なことを言うな、こんな化け物を相手に俺たち凡人がかなうわけないだろ!
もしいたのだとしたらそれは大馬鹿者かもしくは愚者だ。
俺はバックの中にあるナイフを取り出せずただそこに突っ立って怯えているしかなかった。
「あっあああああ!」
「どうしたんだ?そんな怯えきっちゃって、あんた達がここにいるってことは戦う覚悟があるんだろう?外に出るということはそういうことさ」
「ほら、あんたらふたり男だろ、男たる者がそんな怯えて情けない姿するんじゃないよ」
「もしかして緊張してるのかい?だったら私がお前たちを抱いてやるよ。ぎゅーってな」
彼女は両腕を大きく広げた後一気に閉じるように自分の胴体を抱いた。
俺たちは怖かった。彼女の励ましの声も、慰める声も全部怖いということしか思えなかった。
ああ怖い、彼女が怖い、彼女の大きな角、業火に燃える炎のような真っ赤な瞳、女性としてたくましく整ったからだ、明るく大きな声
俺は、俺たちは彼女のすべてが
…怖かった
…そういや俺、何で冒険なんかしたいって思ったんだっけ。確か…そうだ世界中の美女に出会うためだった。
はは、なんだそれ馬鹿じゃねえの?そんなのただの自分の醜い欲望じゃねえかよ。こんなもののためにふたりを巻き込んで危ない目に遭わせて俺はとんでもない愚か者だ。
ああ…彼女が近づいてくる、大きな足音をたてながら近づいてくる。俺たちは殺されるんだ。俺という馬鹿のせいでふたりとも巻き添えになってしまうんだ。
ごめんなさい…俺みたいなやつが友達で、ふたりをこんなことに巻き込んでしまって、俺の夢を語ってしまって――
「うおらあああ!」ブン!
「え?デン?」
そのときだった
さっきまで俺と同じように止まっていたデンが突如動き出し、雄叫びを上げて何かを彼女にめがけて投げ出した。
デンが投げたものは彼女の目の前に落ち、ボンッと破裂した。
「お前今何を投げた、私に当たってねえぞ」
「別に当てる必要なんかないさ、効果はまもなく現れるよ」
破裂したと同時に中から白い煙があふれ出てきた。そしてその煙は瞬く間に彼女を覆った。
「こいつは煙玉か?こんな目眩ましすぐに取り払える」
そう言い、片腕を思いっきりブンッと振り払いそこから発生した強い風圧で煙を取り払おうとしたが不思議なことに、その煙はまるで避けるかのように彼女から離れなかった。
(ちっなんだこの煙、いくら取り払おうと腕を振っても無くなんねえ、まるで私にくっついてるみたいだ
…まさかこいつ、魔道具か?)
「いくら取り払おうとしても無駄だそいつは粘着性煙玉っていう近くの相手を煙でまとい、長時間たたないと離れない煙で相手を妨害する魔道具だ」
「さすがはアテナ商会の息子、貴重な魔道具を各地から取り寄せているおかげで出し惜しみなく使える、本当にやっかいな相手だよ」
「今日は母親とその息子に褒められちゃったよ。俺は魔道具を使ってるだけなのになあ」
そういったデンはさらに三つの魔道具を取り出し彼女にはなった。
「いけ、人形兵!やつが煙でうろたえてるすきに攻撃しろ!」
その手のひらサイズの人形兵たちは彼女に向かって攻撃を仕掛けた。
「ユーナ!お前今動けるか、もし動けるならそいつを連れて遠くに離れさせてやれ。時間は俺が稼ぐ」
「…ええ、動けるわよ。っほらそんな虚ろな目して諦めてそうな雰囲気出してないでシャキッとして!
デンが離れろっていってるんだから離れるわよ、
いい?」
ユーナが俺にそう催促した。だが自分の愚かさに嘆きこの状況に絶望している俺に離れるだなんて気力が湧かず、黙っていた。
何でこいつらこんな絶望的な状況だというのに諦めていないんだ?こうなったそもそもの原因は俺じゃないか。何で俺を責めずここから逃げ出さないんだ?お前らにはその権利があるはずだ。俺は自分を責めつつ、なぜふたりが諦めないのか疑問に思っていた。
「ああもう、黙ってないでさっさと行くよ!」
「あっちょっと…」
ユーナは俺の手を引っ張り半ば強引な形で遠くへと離れた。
―――――――――
「はぁっはぁっはぁっ…ふぅ、このくらい離れれば大丈夫そうね」
「っ…」
デンが足止めをしている隙に離れた俺とユーナは一息を付いていた。
(どうして、俺を助けるんだ?元の原因は俺だというのに)
「ん?なによそのなぜ俺を助けたんだーって思ってそうな顔して、何か思ってるならもったいぶらず言いなさいよ」
ユーナが俺に思ってることがあるなら言えと俺にそう言った。確かにそうだな、言おう、ありのまま全部。
「どうしてお前らはこんな状況になってまで諦めてないんだ?こうなった原因は俺だというのに何で助ける。なんならさっさと俺を置いてふたりとも逃げても良かったんだぞ!?」
「…俺はもう諦めてしまった、自分の欲のためにふたりを巻き込みこんな危ない目に遭わせて、俺は最低な奴でどうしようもない野郎なんだ」
「今からでも遅くない、早くここから逃げっ―――!」
パァン!
その瞬間、強い衝撃音が鳴るとともに俺は地面に伏した。
――俺はユーナに平手打ちをされた。
「っ!馬鹿なこと言ってんじゃないわよ!あんなににも熱心に自分の夢を語り私たちに協力を促しておいてこんな状況に陥れば諦めて逃げるですって!?
ふざけるのもいい加減にしなさいよ!」
「っ!」
「一応聞かせてもらうけど、何で外に出て冒険したいの?」
「それは…世界中の美女に会いたいからでっ」
「はー呆れた。ほんとにあなたが外に出たい理由はそれだけなの?」
「忘れたのなら思い出しなさい。なぜ今デンがあんたのお母さんを足止めしているのかしかもそれは特に危険な行為だというのに、しっかりと考えなさい」
思い出せ?今の俺は恐怖に埋め尽くされろくに考えられない。――なぜデンが足止めをしている?も一つの理由はそこにある?デン…彼との約束
『俺、行商人ってのをやってみたいんだ』
「…っは!」
「その顔、やっと思い出したみたいね。さっあなたは次に何をするの?」
決まっている、俺が今やるべきことはただ一つ。
「ありがとうユーナ。俺、行ってくる」ダッ
「…がんばれ」ボソッ
そうだそうだったなデンとの約束、俺が外に出てデンの親に説得しなきゃいけないんだった。
全く友達との約束を忘れるだなんて俺は馬鹿者…
いや、大馬鹿者だな。
―――――――――
一方、デンは三体の人形兵を使って足止めをしていた
だが…
「なんなんだよこいつ…三体の連携攻撃を難なくかわして、人形兵の動きを先読みしているのか?」
彼女の周りにまとわりつく煙の中から一体の人形兵が突撃し、それをよけをよけるも二体目がそのすきを狙って襲いかかる。しかしそれさえも彼女は体をくねらせてまたよける。それはまるで相手の動きが丸わかりみたいだ
「この見事な連携、こんな魔道具もあるんだな」
彼女はよけながら三体の人形兵の連携攻撃に感心していた。
そして、人形兵は三体同時に攻撃を仕掛けてきた
どうやらここで仕留めるつもりだ
「それじゃあお遊びもここまでとするか…ふんっ!」
一歩後ろに下がって後ろの右と左斜めから来る二体目の人形兵を掴みそれを一気にぶつけて潰し、残骸となってまとまったそれを正面から来る人形兵に投げつけた
それは、一瞬の出来事だった
その後、彼女の周りにまとわりついていた煙が離れた
「さて、お遊びはここまでだよ。観念して家に帰りな。そうすれば痛い目に遭わせないから」
(人形兵と煙がっ!何か、他に打つ手はないのか!)
そのときだった
「ようデン、遅くなってごめんな」
「あ…っ!ったく来るのが遅えよ」
「ごめんな、ちょっと気が滅入ってた」
「ここから先は俺に任せてくれ、こいつは俺の問題だ」
俺はデンの横を通り、彼女…いや、アカメに向けてこう言った。
「ごめんな母ちゃん、ちょっと時間がかかっちゃった。俺は自分の夢、そしてこいつの夢を叶えるために外に出る。だから、そこをどけアカメっ!」
「親に向かってその態度、ずいぶんと偉くなったもんだねえ!いいぞ、こっから先の外に出たいんだったら私を倒してみな」
俺と母ちゃん…アカメとの戦い、人生で初の親子喧嘩が始まる。




