2 それぞれの夢
ふたりの協力により無事、洗い終えた俺らはデンに俺の冒険する目的を知りたいとのことによりデンの家に行くことになった。
「「おじゃまし(まーす)ます」」
「おじゃまされまーす」
デンの家系は商業を行い莫大な収入を得ているためかなり裕福であり、家も周辺の家とは比べものにならないくらいの規模だ。昔、俺とユーナが初めてデンの家に訪れたときはただ呆然としていたのはいい思い出だ。
「それにしても相変わらずすげーなお前の家。個室一つだけでも俺の家のリビング丸々入りきれるほどだぞ」
「当たり前だろ俺とお前では住む世界がまるで違うんだ。頼むから一緒にしないでくれ」
本当になんなのだろうかこいつは、俺に嫌みを言わないと死んでしまう病気にかかってるのだろうか。ますますこいつのことが気に食わない。一発でもいいから殴らせてくれ。
「そういえばデンの親って今何してるの?家に訪れた中でほとんど見かけたことがなかったけど」
ユーナがデンに問いを投げかけた
「ああそれはな、俺の父さん母さんが運営している商会この地域周辺では有名だからな、いろんなところで商談をやってて忙しいんだよ」
そうこいつの親はアテナ商会という商業を行っている組織の会長でここら周辺の商売の9割はアテナ商会がやっているほどだ。最近国内からも注目を集めていて外への勢力拡大を狙っているとのことだ。
…ますます気に食わん
―――――――――
「さて、落ち着いたことだし聞くけどよ何で特にこれといった才能がないことで有名なお前が冒険したいとかそんなこと言い出したんだ?」
「才能がないことで有名ってなんだとお前!あまり俺を馬鹿にするのもいい加減にしろよ!?おっ俺だって才能の一つや二つくらいあるわ!」
言ってしまった、悔しさのあまり才能があるだなんて根も葉もないことを言ってしまった。当然ふたりはぽかーんとしていた。
「おっおいなんだよおまえら、まるでなに言ってんだこいつってな顔して…」
「いやだってそうだろお前になんかの才能があるだなんて星が大陸に落っこちてくるくらいあり得ないぞ」
「いくら何でもそれはあんまりだろ!?ああいいさ言ってやるよ俺の持つ才能を言ってやるよ!それはな――」
ここから先俺がなに言ったのか覚えてない。何せ俺は思ったことをそのまま言いふらしただけだった。こんなことをしてしまったため、当然なにを言っているのかわからないまるでキチガイみたいな状態になってしまった。ああ、恥ずかしい…
「え?ちょっお前wまじかよw弓矢を相手にめがけてきれいに放てるってw石を投げたとき変な方向に飛ばしたお前がそんなこと言うなよw」
デンは過去の俺の恥ずかしい記憶を掘り起こして笑い
「ふっ!ごっごめんなさいwあなたが口から火を吹けるって竜じゃないんだからw」
ユーナに関しては俺が訳の分からんことに大笑いしてしまっている。なんだよ口から火を吹くって俺は竜かよ。
もうなんか、死にたい
「ひーっひーっ!ウッ!ゴッホゴッホ!…ふう、まあ本題に戻るとしてえーっとなんだっけあれだお前何で冒険がしたいんだ?」
きた!俺が冒険をしたいという理由、それこそまさにデンの家に来た理由なのだ。言わなければそれは失礼だろう。
「…俺が冒険をしたい理由それはただひとつ」
俺は今までにないくらい真剣な表情をし、たちまちデンとユーナな息を吞んだ
―さあ、今明かそう俺の冒険の目的を!―
「それは世界の美女に出会うためだ!思春期をこじらせまくる俺は美女に会いたい、会いたくて仕方がないんだ。出会うためならばたとえ火の中水の中雷の中俺は絶対にいろんな女の子とあんなことやこんなことをしてムホホな生活を送るんだ!」
言ってやった。この自分の目的の暴露はなんというかとてつもない背徳感に包まれ気分がいい。そしてこの目的を知ったふたりは驚愕し、遂には俺を崇めるだろう。いいんだぞ?俺を尊敬しても。
そう期待の念をもちながら目を開くと視界に入ったふたりの表情は予想とは真逆のものであった
「おっお前w可愛い子に会うためだけに冒険すんのか?すげえな普通地位と名誉を求めて金銀財宝や力を求めたりするもんだろうwもう呆れを通り越して尊敬しちまうよw」
デンは思わず笑い出し、別の意味で尊敬していた。
「……」
ユーナは呆れるどころかもう俺のことをゴミを見るような目で見つめ、無言を貫いていた。
「なんだよその反応これでも俺の夢なんだぞ!?そんな反応するんだったらお前らの夢も言って見せろよ。」
これ以上は身が持たないと判断し話題を変えるため、ふたりの夢を聞くことにした。
それを言ったとき、ふたりの表情は変わり、苦しい顔になって少しの間目を離した。
そして遂にデンが口を開き
「…俺はな父さんと母さんを尊敬してるんだ。たった一代でアテナ商会をでかい組織に育て上げ、これ以上にない繁栄をもたらして見せた。すげえって思ったよ。だが世間は息子である俺にも目を向ける、俺もまたアテナ商会を支え今以上に繁栄させるだろうって。…無理だそんなこと、今以上に繁栄させるだって?俺が両親を超えられるはずがないだろ!何せ俺にはなんの才能もないんだからっ!」
それはアテナ商会の家系に生まれたことによる重圧に不安を募らせた彼らしからぬ言葉だった。
いや、きっと彼は気が強く荒々しいというより常に相手を気にかけ自分を高く見ないどこにでもいるようなやつなんだ。
アテナ商会の息子であることを気にかけるが故に今までのでかい態度で接してきたのだろう。
あの時洗濯物を洗うのをアテナ商会の坊ちゃんであるにも関わらず手伝ってくれたのが何よりあいつがいいやつである証拠なのだ。
「じゃあお前はどうしたいんだよ」
「俺は、行商人ってやつをやってみたいんだ」
俺の問いに対しデンは自分の夢を答えた。
―行商人―
それは特定の場所にとどまらず移動しながら付いた先で商売をする者。彼らの登場により、世界の経済は活発化したことで、金があらゆる場所に行き渡り、各地の食料が豊かになったりした。
「でも俺はアテナ商会の息子、つまり後を継がないといけないことになる。そうなれば各地を行き渡って商売する行商人になんかなれないんだ」
「だったら俺がお前の親にこう言ってやる、デンをアテナ商会に縛らせないで行商人として自由に商売ができるようにしてくれってな」
「でもっ俺の親はこの村の外にいるからお前がそう訴えることはできないっ!」
「…俺を冒険しに外へ出してくれ、そうすればお前の親に訴えかけることができる」
これは自分が冒険するためにデンの夢を利用するために出た言葉ではなく純粋に「友」であるデンを助けたいが故に出た言葉だった。
「何でそんなに俺を助けようとすんだよ、俺はさっきまでお前を馬鹿にしてたんだぞ!?」
「友達だからじゃダメか?」
「っ!」
デンは言葉が詰まった。今まで高圧的な態度で接してきた相手に友達と言われて。
「だからお願いだ俺を外に出してくれ」
そう懇願した俺にデンは―
「…はあ、仕方ないなそんなに言うなら手伝ってやるよ友達として」
「っ!はは、これで俺に冒険をする目的がもう一つできちまったな」
「全く、自分と目的のためにここまでやるってなんというか自由というか、冒険者というよりかは旅人だな」
「え?旅人?」
―旅人―
自分の赴くままに旅をして、何にも縛られずに自分の信じる道を突き進む者。
「俺が旅人か…」
確かに俺には元々目的がありつつもそれとはまた違ったことをしようとしている、なんかよくわかんないやつだな俺。
「そういえばユーナ、お前の夢ってなんだ?」
「え、私?わっわたしは…ぱっパン屋さんになりたいの!でもあまり料理とか上手じゃないから…」
「そんなことないよ、ユーナならきっとできるよ。心配すんなお前が作ったパンは絶対美味いから」
「そう、よね。うんそうよ私ならできるやってみせるから。ふふ、ありがとう」
そのときの彼女の笑顔は美しかった。その笑顔はまるで天使か女神…
「よし、お前らおねがいだ。俺の村からの脱出に協力してくれ」




