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第38話 本物の継承娘と偽りの相続人

照合の決定打は、思いがけない人が持ってきた。


 老人の染師マッタが、古い木箱を抱えて会議室へ現れたのだ。箱の中には、母が工房を出る前に預けた見習い札の控えと、当時の判吏見習いが写し取った仮継承証が入っていた。


「あの子は、自分の娘に渡すつもりで預けていったんだよ」


 マッタの声はよく通った。


「血筋じゃなくて、手を動かした子に残すってね」


 さらに、亡くなった判吏の弟子だった老人が証言した。アデライーデへ渡された継承証は、イェルク・ベッカーの依頼で控え台帳を写し替えた偽物だと。


 視線が集まる中、アデライーデはようやく扇を下ろした。


「……わたくしは、父代わりの後見人に、これが本物だと渡されただけです」


 その声には、最初の余裕がなかった。


「あなたも知らずに使わされたのですね」


 私がそう言うと、彼女は唇を噛んだ。


「でも、あなたから仕事を奪えば、わたくしにも席ができると思った」


 その本音は、少しだけ痛かった。


 席を奪い合うように仕向けられた女は、たいてい後ろの男たちだけ無傷で終わる。


 組合はその場で継承異議を棄却し、イェルク・ベッカーと役場書記への調査を決めた。冬至献上布の差し止めも撤回。北方織房の納品資格は維持される。


 私は深く息を吐いた。


 勝った、というより、ようやく元の線に戻した気分だった。


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