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第35話 暁金青の婚約礼装

照合会議の前夜、私は婚約礼装の最後の刺繍を入れていた。


 色は暁金青。北の朝霧へ薄い金を差した色。派手ではない。でも、灰色の控えとは違って、ちゃんと自分の輪郭を持つ色だ。


 胸元へ入れるのは、母の工房由来の雪花刺繍。そして裾裏には、北方織房の機杼印を小さく重ねる。どちらかを消すのではなく、両方を残すための礼装だ。


「まだ起きていたのか」


 クラウスが戸口で止まる。


「今、止めると針目が狂います」


 彼は何も言わず、少し離れた椅子へ座った。こういう距離を守ってくれるところが、この人の好きなところだ。


「出来たら、見ますか」


 私が聞くと、クラウスはうなずいた。


 最後の糸を返し、礼装を持ち上げる。暁金青の布が灯りを受け、金をやりすぎないまま柔らかく光った。


「どうでしょう」


 クラウスはしばらく黙っていた。


「似合う、では足りない」


「褒め言葉としては不器用ですね」


「お前の色だ」


 その一言で十分だった。


 私は礼装をたたみながら、静かに息を整える。明日の会議で何を言われても、この色だけは奪わせない。


 仕事を続けることも、婚約することも、どちらか一つへ縮めるつもりはない。


 両方持ったまま、私は歩く。


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