第32話 北方工女たちの公開織り
私は照合会議の前に、公開織りを開くことにした。
市場広場へ旧型機と新型機を並べ、北方工女たちに《雪花外套》の一部を実演してもらう。見た目だけなら似せられる意匠でも、工程まで見せれば違いが分かる。
「面白くなってきたねえ」
エルザが腕まくりする。
「盗む相手に見せつけるには、ちょうどいい」
広場には町の人だけでなく、商人や組合の見回りまで集まった。私は見本帳を開き、本物の返し針の打ち方を説明する。
「ここです。七目ごとに一度だけ浅く返す。だから雪花の影が柔らかく落ちる」
隣の模造見本は、全部の返しが同じ深さだった。光を受けると、模造のほうだけ無駄にぎらつく。
その時、人垣の後ろからアデライーデの声がした。
「技術があることと、権利があることは別でしょう」
私は広場へ向き直る。
「ええ。だからこそ、技術と権利の両方を帳面で示します」
工女たちの織る音が重なっていく。北方の織機は、人に見せるために動かすと余計な飾りがない。真面目で、まっすぐで、少し不器用だ。
どこか、クラウスに似ていると思った。
公開織りの最後に、私は盗まれた反物の切れ端と本物の見本を並べた。群衆の前でも、違いははっきり見えた。偽物の横糸だけ、雪花の輪郭が固い。
歓声ではなく、納得したざわめきが広がる。
派手ではない。でも、仕事で勝つ時の音はいつだってこのくらいでいい。




