第30話 吹雪の夜の工房検査
その夜、北は珍しく遅い吹雪になった。
私はクラウスと護衛二人を連れ、工房裏の旧乾燥棟へ向かった。返ってこなかった反物の車輪痕が、吹雪の前にそこへ続いていたからだ。
閉ざされているはずの棟の裏口が、内側から新しい閂へ替えられている。
「最近使われている」
私が囁くと、クラウスが短くうなずいた。
中へ入ると、埃っぽい暗がりの奥で織機がひとつだけ組み直されていた。北方織房の旧型機だが、杼受けだけ南方仕様に換えられている。その横には《雪花外套》の模写見本と、盗まれた反物が積まれていた。
「やっぱり」
私は見本の縫い返しを見て、すぐに分かった。母の工房意匠は、裏の返し針が七目ごとに一度だけ浅くなる。これは全部均一だ。見た目は似せられても、手の癖までは盗めない。
その時、奥で物音がした。逃げようとした男が、足元の油壺を倒す。
火が上がった。
「帳簿を!」
私は積み荷の陰から帳面箱を引きずり出した。クラウスが火の回った布を蹴り離し、護衛が男を取り押さえる。箱の中には反物受取証、差し替え指示書、そして南方商会の仮印を押した支払覚書が入っていた。
外へ出た頃には、雪が火を押さえ始めていた。
私は濡れた帳簿を抱えたまま、息を整える。
「燃やしたかったのは布じゃない」
「証拠だな」
クラウスの言葉に、私はうなずいた。
吹雪の夜ほど、火を使った隠滅は雑になる。
そして雑になった証拠は、たいがい一番よく残る。




