表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/40

第30話 吹雪の夜の工房検査

その夜、北は珍しく遅い吹雪になった。


 私はクラウスと護衛二人を連れ、工房裏の旧乾燥棟へ向かった。返ってこなかった反物の車輪痕が、吹雪の前にそこへ続いていたからだ。


 閉ざされているはずの棟の裏口が、内側から新しい閂へ替えられている。


「最近使われている」


 私が囁くと、クラウスが短くうなずいた。


 中へ入ると、埃っぽい暗がりの奥で織機がひとつだけ組み直されていた。北方織房の旧型機だが、杼受けだけ南方仕様に換えられている。その横には《雪花外套》の模写見本と、盗まれた反物が積まれていた。


「やっぱり」


 私は見本の縫い返しを見て、すぐに分かった。母の工房意匠は、裏の返し針が七目ごとに一度だけ浅くなる。これは全部均一だ。見た目は似せられても、手の癖までは盗めない。


 その時、奥で物音がした。逃げようとした男が、足元の油壺を倒す。


 火が上がった。


「帳簿を!」


 私は積み荷の陰から帳面箱を引きずり出した。クラウスが火の回った布を蹴り離し、護衛が男を取り押さえる。箱の中には反物受取証、差し替え指示書、そして南方商会の仮印を押した支払覚書が入っていた。


 外へ出た頃には、雪が火を押さえ始めていた。


 私は濡れた帳簿を抱えたまま、息を整える。


「燃やしたかったのは布じゃない」


「証拠だな」


 クラウスの言葉に、私はうなずいた。


 吹雪の夜ほど、火を使った隠滅は雑になる。


 そして雑になった証拠は、たいがい一番よく残る。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ