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第29話 王都衣装商組合の封書
翌朝、王都衣装商組合から正式な封書が届いた。
北方織房による冬至献上布の制作を、継承争い解決まで仮停止するという通知。理屈だけ見ればあり得る文面だ。けれど三枚目の末尾に、《意匠見本および婚約礼装試織布はアデライーデ・レンツ側へ一時預託すること》と書かれていた。
「ずいぶん親切ですね」
私は乾いた声で言った。
「争っている相手へ証拠品を預けろと?」
封書を並べてみると、三枚目だけ紙の厚さが違った。折り目も、表二枚と合っていない。あとから差し込まれた紙だ。
さらに署名欄の下には、組合印の右に小さな布商印が押されている。南方染料商イェルク・ベッカーのものだった。
「組合と商人が一緒に動いている」
クラウスが言う。
「ええ。それに、誰かが組合の封書を途中で差し替えています」
私はすぐに書記へ返書を作った。差し止めの法的根拠と、預託命令の承認経路を求める照会状だ。仕事の顔をした横流しなら、仕事の形式で縛るのが一番早い。
返書を書き終えたあと、私は封書の匂いを確かめた。安い香油の甘さが残っている。以前、王都の礼装見本市で嗅いだ匂いと同じだった。
南方商会の応接間の匂い。
見た目を整えるのは、いつも簡単だ。
でも紙も布も、運ばれた場所の匂いまでは隠しきれない。




