第19話 もう灰色は着ない
三日後、王都は正式に処分を発表した。
ルシアンは祭礼管理官を解任、王都衣装局次席台帳官は免職、レイヴン商会は調査入り。義母ミレイユは継承権関係書類の偽装で社交停止。セレナは春祈祭代表を取り消され、家の正式管理権からも外された。
そして私には、宮廷衣装局台帳官への復職と、ヘルツォーク家の祭礼継承権回復が打診された。
「戻る気はあるか」
王都商業監査院の補佐官に問われ、私は少しだけ考えた。
以前の私なら、きっと戻っていた。
失った席を取り返すことが勝ちだと思っていたから。
でも今の私は、北方織房の工舎の匂いを知っている。朝霧青の糸の色も、エルザたちの笑い声も、毎朝当たり前のように糸束を置いていく無愛想な侯爵も。
「復職はお断りします」
はっきり答えると、補佐官が少し眉を上げた。
「継承権は」
「家へ戻るためではなく、母の仕事を奪わせないために保持します。そのうえで、北方織房と王都の正式契約を結びたいのです」
補佐官はやがて頷いた。
「合理的だ」
王都を出る前、私はヘルツォーク家の屋敷へ一度だけ寄った。自分の私物を回収するためだ。
部屋の隅には、あの日押しつけられた灰色の控えドレスが畳まれたまま残っていた。
私はそれを持ち上げ、しばらく見つめる。
地味で、冷たくて、私を小さく見せるための色。
でももう、怖くはない。
私は灰色のドレスを箱へしまい、ふたを閉じた。
捨てるのではなく、終わらせるために。
「さようなら」
呟いて背を向ける。
玄関を出ると、馬車の横でクラウスが待っていた。
「長かったな」
「思ったより」
「戻る場所がある人間は、出てくるのが遅い」
「私にそんな場所、ありましたか」
問い返すと、クラウスは少しだけ目を細めた。
「今は北にある」
その一言で、胸の奥に温かいものが広がった。
戻る場所。
そう呼んでいいのなら、もう私は迷わない。




