表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/40

第16話 春祈祭への帰還

春祈祭の正式招請状は、四日後に届いた。


 北方織房は予備礼装の納入業者として王都へ入る。私はその監査責任者兼説明役。クラウスは領主として同行する。


 王都へ戻る馬車の中で、私は何度も綴りを確認した。


 見本帳写し、継承印、運送控え、賃金差額、偽糸比較、木箱の底板。証拠は十分だ。問題は、どの順番で見せれば逃げ道を塞げるか。


「怖いか」


 隣に座るクラウスが尋ねる。


「はい」


 隠しても仕方がないので、そのまま答えた。


「でも今は、怖いだけじゃありません」


「何が増えた」


「怒りと、勝ち筋です」


 クラウスが小さく笑う。


「それなら大丈夫だ」


 王都に着くと、春祈祭前日らしい浮ついた空気が街に満ちていた。通りは花で飾られ、人々は『本物の令嬢セレナ様』の噂で持ちきりだ。


 王都衣装局へ入った瞬間、古い女官たちが目を見張った。


「イリス様……?」


「お久しぶりです」


 私は朝霧青の上着の上から、北方織房の監査章を見せた。灰色ではない。北の空気を連れてきた色だ。


 準備室では、セレナが鏡の前に立っていた。あの青銀礼装をまとい、侍女に裾を持たせている。


「まあ、お義姉様」


 振り向いた笑顔は前より鋭くなっていた。


「観客席ではなく、仕事で戻ってきたのね」


「ええ。予備礼装の検収です」


「ふうん。相変わらず裏方がお似合い」


 私は答えず、彼女の裾へ目を向ける。


 やはり三十八針。しかも見えないはずの裏落とし二針が、表へ浮いていた。急いで補修した跡まである。


「その裾、明日の本番までもたないわよ」


 セレナの笑みが一瞬だけ強張った。


「何のこと?」


「縫い代の張り替えが甘いの。歩幅を広く取れば裂ける」


 横で控えていた衣装局次席台帳官が、はっと顔を上げる。


 彼の動揺もまた、証拠だった。


「予備礼装の搬入ついでに、主礼装の検収も行います」


 私は監査章を示し、記録簿を要求した。


 王都衣装局の空気がざわつく。


 もう前みたいには黙らない。


 今の私は、北方織房の名でここに立っている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ