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第13話 王都衣装局の裏帳簿

裏帳簿は、王都へ戻らなくても手に入った。


 クラウスが領都の商業監査官へ圧力をかけ、レイヴン商会の北方支店に残っていた運送控えを提出させたのだ。表向きは通常監査、実態はほとんど襲撃に近い。


「豪快ですね」


「前にも言われた」


 机いっぱいに並んだ控えを、私は一枚ずつ照合していく。


 北方織房から出た本物の青銀糸十六束。


 王都手前の中継倉庫で九束へ減少。


 差額七束分の運送費は『祭礼管理室特別口』から補填。


 さらに王都衣装局の支出控えでは、同じ七束分を『緊急代替調達』として二重計上している。


「綺麗すぎる」


 思わず笑いが漏れた。


「これなら言い逃れの余地がありません。北から本物を抜き、王都で偽物を差し込み、その差額と二重計上で金を作っている」


「責任者は」


「ルシアンが入口。ですが衣装局の中に協力者がいます。私の最終確認欄へ偽署名を入れられる人間」


 私は控えの端にある筆記癖を見た。数字の七だけ、横線が長い。衣装局次席台帳官の癖だ。ずっと私の下で計数していた男。


「……あなたまで」


 呟いた声が思ったより冷えていた。


「知っている相手か」


「ええ。私が細かすぎると言いながら、いつも帳簿の最終集計を手伝ってくれた人です」


 クラウスは何も慰めなかった。ただ、新しい紙をこちらへ寄せてくる。


「次をやれ」


「はい」


 その一言で十分だった。


 夜更け、私は全証拠を一つの綴りへまとめた。見本帳写し、納品票、運送控え、偽糸の分析、賃金差額、継承印の証拠。


 最後の頁へ題をつける。


『春祈祭礼装不正および北方織房搾取に関する照合報告』


「完了しました」


 そう言うと、クラウスが綴りを受け取った。


 彼は表紙を眺め、静かに言う。


「君が北へ来てから、工舎の音が戻った」


「皆さんが働いたからです」


「それでもだ」


 その言い方はぶっきらぼうなのに、妙に胸へ響く。


「俺は、王都との契約を守るために君を呼んだ」


「はい」


「今は違う」


 そこで彼は言葉を切った。


 続きを待っても、すぐには出てこない。


 私は少しだけ意地悪をしたくなった。


「今は?」


 クラウスは視線を外し、短く答える。


「君がここで働ける場所を、俺は守りたい」


 その瞬間、心臓が大きく鳴った。


 王都では一度も守られなかった場所を、この人は当然みたいに口にする。


 泣きそうになる前に、私は綴りの紐を結び直した。


「では、その場所を守るために、もう一人潰しましょう」


 クラウスが口元だけで笑った。


「そういう顔、嫌いじゃない」


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