俺が存在を証明してやる
「どこに行きやがった」
翔は森の中を駆け回り、先程の少女を探す。道案内のお礼も伝えたいが、それ以上に文句を言いたかった。それにあの場に現れた理由も気になる。しばらく捜索を行うと、前方に人影を見つけた。
「居た……っ!!」
翔は走るスピードを上げて、その人影に近づく。
「おい!!」
そして大声で叫ぶ。すると人影は翔の方に振り返る。そして姿を確認するとあからさまに大きなため息をつく。
「また君? 何しにきたわけ。さっき邪魔って言ったよね」
嫌そうな態度を隠しもせずに少女は翔を睨みつける。長い黒髪が風に靡き、揺れていた。
「理由も説明せず、邪魔って何度も言うな! それとさっきは道案内ありがとな、おかげで雛乃が無事に家に帰れる」
怒りながらもお礼を言う。少女は明らかに面倒臭そうにしている。
「邪魔なのもは邪魔なわけ、それに戻ってきてまで邪魔しないでくれない?」
また邪魔と何度も言う。ここまで頑なだと逆に清々しい。翔は理由さえ説明してくれれば納得して終わりにしようとしていた。しかし、少女は無駄な会話はしたくないと言うように言い切る。
「っ! とにかく、ここは何かいる。雛乃がお化けを見てるんだ。そんな場所に1人でいるのは危ないだろ」
少女の発言は気に入らなかったが、困っているところを助けてもらった。だから彼女が危険な目に遭うのを避けたいと言う思いもあった。しかし翔の心配をよそに少女は鼻で笑う。
「お化け? 何、幽霊とか信じているわけ?」
「さっきまでは信じてなかった!! でもこの森には何かいる。それは確実だ」
先程の恐怖は気のせいで片付ける事はできない。それに雛乃も嘘をついているようには見えなかった。だから、翔は宣言するように伝えた。
「お前はお化けや幽霊は信じてないんだろうがな、いる可能性がある! 俺が存在を証明してやる」
「証明って、見えないものをどう証明する気だ?」
明らかに馬鹿にしたように翔を見る少女。
「それはまだわからないけど! それでもなんとかして証明してやるさ」
翔はやる気に満ちていた。先程まで非現実的な事は信じていなかったが、可能性があると言うなら確かめたい。そして少女をギャフンと言わせたい。そんな気持ちで少女に宣言する。
「馬鹿らしい。勝手にやる分にはいいけど、僕を巻き込まないでくれ」
本当に嫌そうに少女はそう言うと、歩き出した。嫌がられる事は分かっていたが翔はその後に続く。
「この森に何かいるのは間違いない。嫌だろうが今日は一緒に行動させてもらうぜ」
「迷惑」
迷惑そうに顔を歪める少女だが、翔は気にしない。少女も諦めないと悟ったのだろう。翔を無視するように先に進む。翔はそれに置いてかれないように続くのだった。
しばらく2人は無言で森の中を歩く。
「?」
不意に少女が立ち止まり、どこかを見た。それを不思議そうに見ているといきなり強風が吹く。少女は風でバランスを崩したのか後ろによろめいた。
そして翔は気づく。少女の後ろが崖になっていることに。
「危ないっ!!」
慌てて少女に手を伸ばす。その時、2人以外いないはずなのに翔の声に誰かの声が重なって聞こえた気がした。そして、翔の意識はここで途絶える。
♢♢♢♢
「ーーっ!!」
落ちると気づき咄嗟に受け身を取った不知火朔夜は誰かに手を取られ引っ張られる。
「大丈夫かっ!?」
心配したような翔の姿を見つめ、朔夜は変なものを見たように目を擦る。そして、翔を呆れたように見ながら口を開く。
「何やらかしてるの? ……ゆう」
そして翔を違う名前で呼ぶ。しかし翔は気にした様子もなく先程とは違う無邪気な笑みを浮かべて親指を立てる。
「さやが落ちそうで危なかったからつい、取り憑いちゃった」
てへっと効果音が聞こえる。朔夜はこめかみを抑えながら翔ーーいや、翔に取り憑いたゆうと読んだ人物に目を向ける。さらにめんどくさいことになったと顔に書いてある。
ゆうは幽霊だ。だから人間や物に触れることができない。朔夜が落ちそうになった時に慌てたゆうは思わず横にいた翔に取り憑いて朔夜を助けていた。幽霊が取り憑くには条件がいる。朔夜を助けたいという思いが一致して取り憑けてしまったのだ。
ゆうは特殊な幽霊だ。もう何百年も幽霊として存在している。だからゆうが取り憑くことにより何か影響が出るのではないかと朔夜達と話しており、また必要性も感じなかった為、今まで取り憑いたことがなかった。
朔夜はただでさえ変な絡みをされている翔に何か影響が出た場合、今後関わらないといけない可能性が出てきて面倒臭い。
ただでさえ面倒事に巻き込まれているのにこれ以上は勘弁してほしい。
「とりあえず、これからどうするんだ、さや」
ゆうは翔の体を自分のもののように扱いながら頭の後ろで腕を組む。
「……とりあえず明日久遠に相談するのは確定」
「だな。俺、こいつから出たほうがいいか?」
「そうだね。面倒事にならない事を祈るよ。今までの傾向からなら取り憑かれていた時の記憶はなくなるだけだから、今回もそれなら問題ないしね」
「わかった。なら出るなー」
そうのんびりと伝え、翔の体からゆうは出る。そして宙を浮きながら翔の様子を伺う。
「ーーっ! ってお前大丈夫だったのか?」
「何が? また白昼夢でも見てたわけ?」
心配そうに朔夜を見る翔に、やはり面倒臭い様子を隠しもしない朔夜。すると、翔は周りをキョロキョロと見ながら不思議そうにしている。
「さっき、崖から落ちそうになってなかったか?」
「誰が?」
面倒事はごめんだと朔夜はとぼける。翔はおかしいなぁと首を傾げた。そして何かと目が合った。
「うわぁっ!?」
悲鳴をあげて後ろに飛び退る。目が合ったゆうはあちゃーと手を頭に当てる。
「なっ、なっ、なっ」
声にならない声でゆうを指さして目を見開く。
「ゆ……幽霊?」
そしてか細い声で呟く。朔夜は聞こえないように舌打ちをすると翔が自分の方を見ていない事を確認してゆうにアイコンタクトを送る。それに気づいたゆうは反応せずに、姿を消した。
急に姿を消したゆうに翔はさらに怯える。そして呆れた顔でこちらを見る昨夜に気づくとはっと動揺を隠す。そして先程の会話を思い出し、彼女をビシッと指差す。
「おい、幽霊いたぞ」
「だから何を言ってるの? そんなの私は見えないけど。疲れてるんじゃない、とっとと家に帰りなよ。迷子なら案内ぐらいはしてやるから」
そう言うと、朔夜はため息をつきながら、近くの森からの出口に向かう。迷子になりかねない翔は納得いかないようにしながらも朔夜の後に続き森を出た。
そして有無を言わさない朔夜の雰囲気に気圧され、何も話せず家路に着くのだった。




