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第55話 決着

 和也(ゆう)はゆっくりと天邪鬼に向かって歩きだす。


「あっ、そういえば返してもらわないといけないな」


 そして思い出したように呟くと、お札を天邪鬼に向けて投げる。札の倍以上の大きさになった鳥型の式神は、天邪鬼の手元に向かって飛んでいき、拳銃を奪おうと、右手を攻撃する。

 天邪鬼は鬱陶しそうに左手で式神を払い除けようとするが、動きが早く、うまく払えない様子だ。

 少しの攻防戦の後、天邪鬼は銃を落とす。すると、鳥が地面に方向転換をする。そして、地面にぶつかる寸前に猫の形になり、銃を咥えて和也(ゆう)の元に戻る。


 和也(ゆう)はよしよしと式神を抱えて頭を撫でる。満足そうな猫は本物にしか見えない。和也(ゆう)は猫に何かを言うと、地面に下ろした。すると猫は翔のものに銃を咥えて走ってきた。

 そして、翔に銃を渡すと、警戒するように天邪鬼を見ながら、尻尾を立てる。


「えっ……?」

「何かあるといけないから、一応持っとけってことだ」


 困惑する翔に酒呑童子が盃を傾けながら答える。なるほどと納得して翔は銃を握り直した。確かに、武器があった方が不測の事態に備えられると気合を入れる。

 

「うーん、やっぱりなんか足りないな。久遠、入れてくれてるか?」


 どこか気の抜けることを呟きながら、和也(ゆう)は右手首に嵌っている腕輪を触る。するとお札と一緒に濃紺の扇子が出てきた。


「おお! 流石、久遠。心の友だ!」


 和也(ゆう)は嬉しそうに扇子を開き、口元を隠した。開かれた濃紺の扇子には星が散りばめられ、瞬いている。時折、流れ星すら落ちている。どうなってるんだ? と翔は構造が少し気になってしまった。


「さて、そっちが攻撃してこないのも余裕があるからか?」


 和也(ゆう)が天邪鬼を見据えた。天邪鬼がニヤリと笑う。


「とりあえず、その姿そろそろやめてくれないか? 道実が浮かばれない」

「どの姿を取ろうが、ワタシの勝手だよ? それにこの姿で(・・・・)鈍るなら(・・・・)ワタシにとっては歓迎するものだし」

「……悪趣味だな。まあ、道実は笑って許してくれるからいっか」


 天邪鬼の返答を聞き、和也(ゆう)は少し考えるもすぐにニカっと笑う。そして、唐突に扇子を閉じる。腕輪を触ると、大量のお札が腕輪から吹き出し、和也(ゆう)の周りを廻る。

 扇子を頭上に構え、小声で何かを呟いているが、翔の位置からだと何も聞こえない。


 コウは翔と朔夜を守るように前に出て、式神の猫と並ぶ。酒呑童子は変わらずに天邪鬼と和也(ゆう)の様子を見守りながら、酒を呑んでいる。

 酒の肴にするって比喩じゃなくて本当だったのかよと若干呆れた。


 和也(ゆう)が何かをやろうとしているのを気付いたのか天邪鬼が、爪を伸ばして襲い掛かろうとする。

 すると周りを廻っていたお札が意思を持っているように攻撃を防いでいく。天邪鬼が触れると札が青い光を纏う。


 どこか幻想的な光景だった。翔は思わず息を飲む。教室内はまるで宇宙のようだし、青く光る動く札もこの世のものとは思えない。

 今日はすでに非日常を味わいまくっていたが、この光景が1番非日常だと思った。普段通っている学校の教室で、親友の顔をした幽霊がこの光景を作り出している。夢でもありえないぐらいには意味のわからない状況だ。


「ねぇ、コウ。ゆうがかなりの大技使おうとしてるように見えるんだけど、本当に身体に影響ないわけ?」

「……俺からはなんとも言えねぇな。久遠を信じるしかねぇ」

「やっぱり、ゆうは信用できないと」

「あははっ、あいつ信頼ねぇんだな」


 朔夜達が怖い話をし出したので翔は少しだけ震えた。それでも翔はゆうを信じるしかできない。お札で姿が全く見えない和也(ゆう)がいるであろう場所をただ見つめる。


 また天体がゆっくりと動き出した。それと同時に、和也(ゆう)の周りを廻っていた札が鎖のようになり、天邪鬼の両足、両腕に巻きつき、床と天井に繋ぎ、自由を奪う。

 天邪鬼が抜け出そうと体を動かして抵抗するが、抵抗すればするほど、強く巻き付いているように感じる。


「陰陽思想ってわかるか? 俺は男だから陽の気が強い、そしてこの空間は夜。陰の気が強い。だからこの空間だと俺は陰陽のバランスが取れるんだ」


 和也(ゆう)は楽しそうにそう呟くと、扇子を開き一歩前に出た。必死に逃れようとする天邪鬼を見下すようにゆっくりと近付く。


「何が言いたい」

「おっ、流石に余裕が消えたか。ここでトドメを刺すって方法も考えたんだけどな、千年前みたくうまく逃げられたら溜まったもんじゃないからさ」


 動けない天邪鬼の顎を閉じた扇子でクイっと上にあげる。少し気怠げな雰囲気を纏った和也(ゆう)は底知れない瞳で天邪鬼を見つめている。

 本人も因縁があると言っていた。千年前の管理人の話もある。きっと、思うところがたくさんあるのだろうと翔はその様子をただ、眺めるしかなかった。

 どこか邪魔の出来ない雰囲気が教室内を支配していた。


「おっ、そうだった」


 しかし、その空気は和也(ゆう)が自分で崩す。くるりと振り返ったと思うと、トタトタと朔夜の元まで駆けてくる。

 そして、朔夜に向かい手を伸ばす。


「さっき、酒呑童子から聞いたんだけど、分体は封印したんだろ? 一緒に追放するから貰っていい?」

「……出来るの?」

「当然! もう準備は終わってるし、術も編み終わってる。あとは発動させるだけだ」


 和也(ゆう)はそう言いながら、天邪鬼の足元を見た。翔も追いかけるように見るとそこには札で陣のようなものが描かれており、青光りしている。

 いつの間にと翔は驚く。朔夜もそれを確認して納得したのか、息を吐くと封印した石を和也(ゆう)に渡す。


「おう、確かに受け取った。ちょっと風が吹くかもしれないけど、安全だから安心しろよ?」


 そう笑うと、また和也(ゆう)は天邪鬼の元へと戻った。そして、足元に石をまるで供えるように置く。


「どうするつもりだ! 離せ!」

「いやいや、離せって言われて離すやつはバカだぞ?」

「ふざけるな、ワタシは長き時をこれからも生きるんだ! 実験をしながら!」

「だーからさ、それがダメなんだよ。それにここにいるのは、さや達を除いて千年越えの人外ばかりだ。現世への干渉を最低限にしているから俺達は存在を許されている」


 和也(ゆう)は両手をパンっと叩いた。すると天体が天邪鬼の上で止まった。


「まあ、お前は境界を、現世を侵そうとした。その時点で隠世に住む権利もなくなったんだ。まあ、根の国がどんなところかは俺も知らないけど、住人はいるはずだ。人がいなければ、お前もそこまで力は出せないだろ?」


 扇子を開き、地面と平行になるように天邪鬼に向けてかざす。そして、踵をカツンと鳴らした。


「後悔は向こうでしな。俺は道実の弔いが出来て満足だし?」

「ふざけるな! ただの亡霊の癖に!」

「あはは。あんまり、舐めるなよ? 俺、そこそこ有名な陰陽師の一部だ。占術で道は作った。お別れだ」


 和也(ゆう)の言葉に反応するように天邪鬼の足元や、拘束しているお札、頭上に停止した天体が青く光り輝く。

 これで、終わりだと翔は直感で思った。


 和也(ゆう)は開いた扇子を口元に運び、何かを呟く。そして勢いよく扇子を閉めた。その途端、青い光が天邪鬼を包む。その光はそのまま吸い込まれるように天体へと吸い込まれていった。

 連動するように強風が吹き、窓ガラスがギシギシと音を立てる。翔は思わず足に力を入れた。そうしないと、吹き飛ばされそうだ。机や椅子も宙を舞っている。チラリと朔夜を確認すると、コウが庇うように覆い被さっている。


 そして、青い光の霧散と共に突風が止んだ。そこにはもう、天邪鬼の姿はなかった。何枚かのお札がふわふわと宙を漂っているだけだ。

 これで終わったのかと思うと、翔の足から力が抜けて、思わずしゃがみ込む。


「おー、派手にやったなぁ」


 最後まで酒呑童子は余裕な様子で酒を呑みながら感心したように呟いた。

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


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