第54話 式神と青い炎
お札を構えた和也が手を振る。すると持っていた札が大量に増える。そして、その大量の札を天邪鬼に向けて投げる。風もないのにまるで意志を持つように札は動きながら、形を鳥へと変えていき、天邪鬼に襲いかかる。
天邪鬼は気にした様子もなく、銃で撃ち落としていくが、不思議なことに数はどんどん増えていく。
「すげぇ」
少し離れた位置でその様子を見ていた翔は思わず声が溢れる。しかし、脳内は真面目な親友の和也とお気楽なゆうの2人とも違う違和感に混乱は続く。
「……ゆう、式神使えたんだ」
「まあ、あいつは一応系統としては陰陽師だぞ?」
「そういえば、そうだったね。ただの賑やかしの幽霊のイメージしかなかった」
「相変わらずだな、テメェらは」
翔の横では朔夜とコウが緊張感の抜ける会話をしている。反対にいる酒呑童子は酒を盃に注ぎ、観戦に徹していた。
「おい、さや! ただの賑やかしの幽霊はないだろ! 俺はお前の保護者だぞ!」
何故か天邪鬼と対峙している和也普通に朔夜を見て、不満を述べている。翔はもう一度、緊張感とは? と不安になる。しかし、その間にも鳥の形をした式神達が天邪鬼を囲んでおり、もはや姿すら見えない。
和也は天邪鬼の方を一切見ずに、指だけを向けて何かを描くように動かす。
その瞬間、天邪鬼を囲んでいた式神が青い炎を発しながら燃える。炎の中から苦しそうな悲鳴が微かに聞こえてくる。
「これでも俺は悠久の時を生きてるからな、知識だけなら久遠のところで入れていたからな。陰陽道なら、古今東西詳しいぞ。使える体を手に入れたから、あとは俺に任せとけ!」
余裕な笑みを浮かべる和也は親指を立てながら翔と朔夜をみる。
和也はそんな顔でそんな事はしないと翔は少し悔しくなる。事情がある事は分かった。それでも親友の身体を好きなように使われるのは納得ができない。つい、和也を睨んでしまう。
「おい、ゆう。そんな余裕ぶっこいていていいのか? 逃げられたらどうする」
酒呑童子が盃を傾けながらヤジを飛ばす。
「逃しはしないから、問題ない。お前みたいに、慢心で油断はしてないからな!」
「くくくっ、言うじゃねぇか。逃したら盛大に笑ってやるよ」
「……ゆう、これからどうするつもり?」
楽しそうに話す2人に朔夜が割ってはいる。翔の前まででて、和也と向き合っていた。和也の後ろからは変わらずに青い炎が燃えている。しかし、不思議なことに、周りには一切燃え移っていない。
「んー? 封印するのも今後を考えるとまた同じ事が起こる可能性があるからな、いっそのこと根の国にでも送ろうかと」
「……は?」
「へぇ、考えたな」
和也の言葉に朔夜とコウが驚いている。酒呑童子は感心したように盃を持っている。しかし、そもそも根の国とはなんだ? と疑問が先に来る。今、この雰囲気なら聞いてもいいんだろうかと翔は考えた。そして、口を開こうとした瞬間、青い炎が霧散した。
「随分と舐めてくれるね。この程度でワタシを止められるとでも?」
天邪鬼の服はところどころ焼けていたが、そこまでダメージを負っている様子がない。得体の知れない存在だと改めて主張されたようで、翔は自然と息を飲む。隣では、朔夜も扇子を握り直していた。
「おー、お前らそんなに警戒しなくていいぞ? 怯えや警戒はあいつの糧になる。わざわざ敵を強くすることはないだろ」
相変わらず、天邪鬼に背を向けた状態で和也は呑気にそう言いながら、またどこからか取り出したお札を天邪鬼に向かって無造作に投げた。
「まあ、ここは俺がなんとかするから任せてくれ。因縁の強さはこの中では1番だしな!」
「……なあ、ゆう。カズの身体傷つけるなよ?」
「わかってるよ、少年。大丈夫だ」
和也は小さい子にやるように翔の頭にポンっと手を乗せる。そして、軽い調子で振り返った。
「舐めてるわけじゃないぞ? でもこれで確信できた。お前は俺の思考は完璧に読めないな? 体が人だから少しは読めるのか心配だったが、これならなんの問題もない」
そう言い、和也は踵を鳴らす。すると、教室内が星空へと変化する。今まで赤く染まっていた世界が、濃紺へと染まる。どこか神聖な雰囲気を感じる。窓の外はまだ赤く染まっておりまるで、さらに空間が切り取られているように感じた。
どこからか天体が現れ、動き回る。
「さてと、さっきまではお前の領域だったんだから、ここからは俺の領域にしても問題ないよな?」
和也は楽しそうに笑う。いつもの軽快さと違い余裕のある笑みが見た目だけでなく、違う人物のように感じられた。
「別にここは閉じ込めるのに特化した、分体が作り出した世界。ワタシはそれを引き継いだだけだから、テリトリーなんてつくってないよ? まあ何をしてもワタシには効かないから問題ないけど」
「言ったな? 後悔するなよ?」
天邪鬼が銃口を和也に向ける。銃に恐怖した様子もなく、不敵に笑いながら和也はまた札を構えていた。
その後ろでは天体がぐるぐると回っていたが、ある位置まで辿り着くと、止まる。
「結果は出たな」
和也は天邪鬼から視線を外して天体や星を見た。そして、勝ち誇ったように宣言した。
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次回は、明日20時に更新予定です。
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