第53話 選手交代
翔は突然教室内に入ってきた親友に驚愕した。声も姿も見慣れた和也だ。しかし、発せられた言葉は和也らしくない。天邪鬼の存在も忘れて、和也を凝視してしまう。扉を開け放ち、自信満々な笑顔、そして後ろに呆れた様子のコウを引き連れていることにも違和感を覚える。和也の格好をした天邪鬼の可能性があるのではないかと、翔の頭に疑問がよぎる。
「……ゆう?」
隣で朔夜が小さく言葉を溢す。それを聞き、確かに発言はゆうっぽかったと思った。でも、ゆうは条件がないと取り付けないと言ってなかったか、と翔は更に混乱した。
「なんだ、キミは? 人間? でもなんか違う」
「おお、来たか」
酒呑童子と天邪鬼がお互いに刀と銃を向け合いながら、入口の和也を見る。困惑している天邪鬼に対して、酒呑童子は訳知り顔だ。楽しそうにニヤニヤと和也を見ている。
それが、翔には不気味に思えた。和也なのに和也じゃない。それだけは確かだと、周りの反応からも思えた。
「おっ、驚かないってことは久遠から聞いていたのか?」
「まあな、正直俺はそれを肴にするつもりで来たところもある」
「ブレないな、お前も」
気軽な様子で会話をする2人は、周りの様子などお構いなしだ。和也の後ろにいたコウは大きくため息をつくと、天邪鬼を警戒しながらも、和也の横を通り抜ける。そして、酒呑童子の後ろも普通に通り、翔と朔夜の元に来た。
「お前ら、大丈夫か? 状況は?」
「僕達は大丈夫。状況は良くはない」
朔夜はコウに別れてからの出来事をかいつまんで説明していた。翔はその話に耳を傾けながらも、和也から視線はズラせない。和也と酒呑童子は天邪鬼を警戒しながらも、緊張感のない会話を続けている。
その軽快さは確かに、ゆうを彷彿はさせる。しかし、ゆう自身が翔以外には取り憑けないと言ってた。だから、不可解で仕方がない。
「それより、藤原の中になんでゆうがいる訳?」
「……わかるのか?」
「藤原がブレて見える。ゆうを隠世の住人っていうのは違うけど、現世の住人でもないから」
「待て、カズの中にゆうがいるのか!? なんで!?」
和也を観察していた翔は耳に飛び込んできた会話に思わず、横を見る。自分でも目がイっている気がしたが、今はそれどころではない。翔の勢いに朔夜が少し後ろに下がり、コウが少し警戒したように前に出る。
「ガキ、テメェ大丈夫か? 瞳孔開いてんぞ?」
「えっ……」
コウの言葉に翔は何度か瞬きし、深呼吸をする。新鮮な空気を取り込んで、少し落ち着く。すると、微かに朔夜の瞳が怯えていることに気付いた。朔夜でも怯えることがあるんだと、自分に怯えたとは予想もせずに翔は意外に思った。
「落ち着いたか。まずはあのガキの中にいるのはゆうで間違いねぇ」
「でも、あいつは普通は取り憑けねーって!」
「……もしかして、久遠の道具?」
「そうだ」
そして、コウが簡単に説明をする。和也がゆうの本体が生まれ変わった体だと聞いた時は思わず声が出そうになったが、話が進まないと言葉を飲み込んだ。自然と衝動を抑えるために拳に力が入る。
和也の鮮やかな拉致の話には朔夜でさえなんとも言えない表情をして思わず顔を見合わせてしまった。
人外とだと考え方が違うのかと疑ってしまう。
「とりあえず、この場はゆうに任せた方がいい感じ?」
「まあ、そうだろうな。テメェは戦闘能力がねぇ、それにガキも同じだろう。あの坊主がいれば話は別だったが……」
「あの問題児の話はやめてくれない? 不愉快だ」
その間にも朔夜とコウの話は続いている。知らない人間の話が聞こえてきたが、今はそれを広げるべきではないことは翔でもわかった。自分がどうするべきか考えようとした瞬間に、教室内に銃声が響いた。
「ねえ、ワタシを無視するのもいい加減にしてくれない?」
警戒はされながらも相手にされていないことに痺れを切らした天邪鬼が天井に向けて銃を発砲した。その音で教室内にいた全員の視線が天邪鬼へと移る。
「まずいな、存在忘れてたわ」
コウがボソリと呟く。翔は人外の危機感が自分とは違うなと思う。そして、少し緩みかけていた緊張をしっかりと締めなおす。
「コウ、君さ……」
朔夜も何が言いたそうに一瞬、コウを見たがすぐに天邪鬼へと視線を戻していた。扇子を片手に臨戦モードに入っている様子が横目でも窺えた。
「ふっ、存外構われたがりか、お前」
酒呑童子がいつのまにか酒を取り出して呑みながら笑う。隣にいる和也も不敵に笑っておりこの2人の周りにだけ余裕が纏われているような気がする。
「とりあえず、選手交代だな。お前の相手は俺が引き受けた! 因縁も俺が1番あるからな」
「……だから、キミ何? 人なのに人じゃない。考えが読めない」
酒呑童子が後ろに下がり、和也が一歩前に出る。酒呑童子は、翔達の近くにくると、机の上にちゃっかり座る。そして、どこからか酒瓶と盃を取り出して1人で酒宴を始めそうな雰囲気だ。
「俺が誰だって? やっぱりお前、あいつと全部共有してる訳じゃないんだな」
笑いながら和也はおもむろに一礼をした。そして、口を開く。
「俺はこの葦原村の裏の責任者みたいなものだ。管理人の選定者であり、相棒みたいなもんだ」
「……あの時、何も出来なかった亡霊か」
「へぇ、そんなふうに思っていたのか。まあ、いいや」
和也は言葉を切ると、それまでの軽い表情や雰囲気が一気になくなった。教室内の室温が急激に下がったような錯覚を覚える。しかし、和也は全く周りを気にせずにただ、天邪鬼だけを見据えている。
「お前の自由は今日で、終わりだ」
いつの間にか持っていたお札を天邪鬼の方へと向けながら、不敵に笑った。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、明日20時に更新予定です。
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